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04 生まれ変わった素敵な身体

「し、死ねとはどういう事ですかっ!? あれですか、飼いきれないペットはせめて自分の手で……みたいな事ですか!?」

 取り乱したマルトゥマは、拘束されている事も忘れて暴れようとするが、俺が再び馬乗りになって押さえつけると静かに泣き始めた。


「あー、勘違いしないで。ただ死ぬ訳じゃなくて、私のダンジョンのモンスターとして生まれ変わるって事だから」

「ダンジョンモンスターって……」

「まぁ、俺みたいになるって事かな?」

「い、いやぁ!ムチムチボインでちょっとエッチな女の子に生まれ変わるならともかく、アンデッドになるなんて!」

 なんだ、この野郎!死人差別する気か!?

 ……とまぁ、それは冗談にしても、オルーシェがこいつをダンジョンモンスターにしようという狙いも理解できる。


 ぶっちゃけ、俺達はこいつの言葉を完全に信用した訳じゃない。

 ひょっとしたら魔王軍を裏切った振りをし、偶然を装ってこちらの懐に潜り込もうという密命なんかを受けている可能性もあるからだ。

 だからこそ、戦力や情報源としてマルトゥマを取り込みたいオルーシェは、ダンジョンモンスター化させる事で絶対に逆らえない楔を打ち込むつもりなんだろう。


「うう……死にたくないぃ……」

「でもね、これは貴方にもメリットがあるのよ」

「メリット……?」

 さめざめと泣くマルトゥマに対し、オルーシェはコクンと頷いて可愛らしく人差し指をたてる。


「魔王軍を追放されたって言ってたけど、貴方ぐらいの地位の魔族だと追っ手もかかったりしてるでしょ?」

「そ、それは確かに……」

 そういえば、行き倒れていたのを見つけた時も、あちこちに怪我を負ってたっけ。

 確かにさっきも魔王軍の情報を売ろうとしてたし、それが策じゃなければこいつの口を封じるために追っ手が出ていてもおかしくないか。


「このダンジョンは、一国の魔導機関が全力で攻略に乗り込んで来ても、それを返り討ちにするほどの難易度を誇っているわ」

「な、なんと!」

「さらに幻の竜種よりも強い剣士、(私の)ダルアスがダンジョンの守護者として控えている!」

 心なしか、得意気にオルーシェは俺を紹介してくれた。

 そんなに持ち上げられると、おっさんはちょっと照れちゃうな。


「あ、貴方が竜を倒せる剣士だと言うんですか……?」

 ちょっと疑わしそうに、俺を見るマルトゥマ。

 まぁ、現代の冒険者達も俺を知らないみたいだったし、そんな反応も仕方ない。

 だが、人間と戦ってるこいつらなら、もしかしたら知ってるかな……?


「まぁ、俺もかつては『剣狼』の二つ名でブイブイ言わせてたからな!」

「すいません、知りません……」

「あ、はい……」

 ぐっ……やはり俺は、すでに過去の遺物なのか……悲しい。


「……しかし、このダンジョンの事なら、話には聞いていましたよ。まさか、ここがあの『オルアス大迷宮』で、貴女のようなお嬢さんが、ダンジョンマスターの『魔女オルーシェ』だったとは」

 知らずにこの辺りまで逃げて来てたのか……まぁ、人気の無い場所ではあるしな……。

 つーか、『魔女オルーシェ』ってなんだよ。


「ダンジョンに入り込んだ者を一人残らず生かして返さぬと誓う、怨念にまみれた恐るべき魔女とも、幼女の姿で相手を油断させる狡猾な魔女とも、噂では聞いていました……」

 お、尾ひれがつきまくってる!?

 しかし、魔族の間にもすでに名が知られているとは……いくらなんでも噂が広まるのが早すぎる気がするが、現代だとそういう物なんだろうか?

「むぅ……」

 多少の変な噂が広がるのは計算の内ではあったけれど、やべぇ魔女のレッテルを張られたオルーシェは、いささか不満のようだ。

 しかし、気を取り直すようにペチペチと自身の頬を叩くと、再びマルトゥマに顔を向けた。


「なんにせよ、ここのダンジョンモンスターになれば、魔王軍の追っ手に対しても安心でしょ?」

「それは……その通りですが……」

 言葉を濁すように、マルトゥマの語尾が小さくなっていく。

 まぁ、諸事情があったとしても「お前もダンジョンモンスターにならないか?」と誘われて、即答できる奴もいないだろうしな。

 しかし、オルーシェもそんな反応は予想の内だったようだ。

 ピッと指を立てると、渋るマルトゥマにこんな提案をしてきた。


「そして、今なら特典がもうひとつ」

「特典?」

「そう、ダンジョンモンスターとして生まれ変わる際に、貴方の好きなモンスタ(・・・・・・・・・・)ーになれる(・・・・・)

「っ!?」

 そのオルーシェの一言に、マルトゥマの表情が変わった!


「そ、それはつまり……女の子にもなれる(・・・・・・・・)……という事ですかっ!?」

「もちろん」

 その答えを聞いた瞬間、マルトゥマはどっかりと座り込んで、俺に向けて頭を下げて無防備な首を晒す!


「さぱっと首ば召されいぃ!」

 やたら男らしく首を差し出すマルトゥマ!

 そんなか?

 そんなに女の子になりたいのか!?

 度を越えたスケベ心の持ち主なだけなのに、その思いきりの良さと行動力には薄ら寒い物すら感じる。

 これが魔族か……いや、たぶんこいつがおかしいだけなんだろうけど。


 とにかく、やる気になったのならなにより。

 気が変わらないうちに、さくっと殺ってしまいますか。

 俺は腰に下げていた剣を抜くと、マルトゥマの首に刃を振り下ろすべく構えをとった。


「いくぞ」

「いつでもよかっ!」

 その答えを聞いて、俺は剣を振り下ろす!

 刃は抵抗なく首をすり抜け、文字通り首の皮一枚を残してマルトゥマの太い首を切断した!

 こうしておくと完全に首を切り落とした時と違って、あらぬ方向に頭部が飛んだりしなくて後始末が楽なんだよな。


「かっ……」

 何やら口をパクパクとさせながら、皮一枚で支えられていたマルトゥマの頭部が真下に落ちる。

 それを受け止めるような形になった胴体がグラリと揺れ、床に倒れこんだ。


「コア、吸収をお願い」

『了解しました』

 普段ならダンジョン内の死体を吸収するのに一日ほど間を開けるのだが、マスター(オルーシェ)の指示に従ってダンジョン・コアは即座にマルトゥマの死体を取り込んでいく。

 そうして、ダンジョンポイントとして変換された、奴の数値はっ!?


『十万ポイントほどになりました』

 十万!?

 この前の戦いで、数百人の冒険者やら魔導機関の連中やらを吸収して五十三万だった事を考えると、一人で十万ポイントになるなんて相当だな……。

 さすがは、変態でも魔族の幹部クラスと言ったところか。


「それじゃ、さっそくダンジョンモンスターとして復活させよう」

 そう言うが早いか、オルーシェは手元に魔力のパネルを展開させて操作を始める。

 さて、どんなモンスターに生まれ変わるのやら……と、そんな事を考えていた時に、ふとした疑問が浮かんだ。


「なぁ、死んだ奴を生き返らせるのに、ポイントが足りないんじゃないのか?」

「ううん、十分に足りてるけど」

「いや、だってよう……俺を生き返らせるには、百万ポイントが必要なんだぜ?」

 前の大規模な戦いで得たポイントと、今のポイントを足したって圧倒的に足りないじゃないか。

 そんな俺の鋭い疑問を受け、オルーシェの代わりにダンジョン・コアのやつが答えてくる。


『ダルアス様の場合、元マスターという事もありダンジョン(わたし)と完全に切り離された存在として生き返らせようとしているから、高いポイントが必要なのです。もしも、ただのダンジョンモンスターになるならば、ダルアス様もすぐに生き返れますよ』

 そ、そういう事か……。

 お安く生き返れるのはいいけど、自由を愛する冒険者としてはダンジョンのヒモ付きはちょっとやだなぁ……。

「大丈夫。私がちゃんと生き返らせるから、大船に乗ったつもりでいて」

「お、おう……」

 これも内助の功などと呟くオルーシェが、何やら悦に浸っているように見えるのは気のせいだろうか?


 さて、そんな話をしているうちに、マルトゥマの転生が完了したようで自動的に展開された魔法陣が発動し始める。

 いったい、あの厳つい魔族がどんな女の子タイプのモンスターに生まれ変わったのかと、興味津々でそれを眺めていると、魔法陣からポップされたその姿に俺もオルーシェも思わず言葉を失ってしまった。


 濡れ羽のような深い蒼の髪に、黒曜石の光沢を持つ角。

 強気な性格を思わせるややキツめな印象の整った顔立ちはそれが魅力になる魔力を秘め、魔族特有の青くシルクを思わせるきめ細かい肌質と相まって神秘的ですらあった。

 さらに、豊かに実った胸の双丘からキュッと括れた腰を経由し、熟れた果実のように扇情的なヒップへと流れてスラリと伸びた脚に繋がるラインは、それ全体で男を誘う妖華を思わせる。

 そして、体のラインを浮かび上がらせるようにぴったりと張り付くギリギリの衣装や、コウモリを思わせる小さい羽と揺れる尻尾。

 間違いない。

 マルトゥマの奴は、サキュバスとして生まれ変わったのだ!


「……これが……ワタクシ?」

 うっすらと目を開いたマルトゥマは、自身の変わり果てた手足や体を見ながら呟く。

 しかしぼんやりしていたのも束の間、ぐりんと顔をこちらに向けると、すごい勢いで迫ってきた!

「鏡……鏡はありませんかっ!」

「あ、どうぞ……」

 オルーシェが、自分用の姿見を床から浮かび上がらせると、マルトゥマはその前に移動して生まれ変わった姿を凝視する!


「お……おお……素晴らしい……これが、ワタクシ……」

 おそらく、あの姿が奴の理想としていた女性の姿なんだろう。

 感動に打ち震える姿は、中身が厳つい元魔族のおっさんという所に目をつぶれば、とても美しいものである。

「ウフフフフ……この胸も尻も、いやらしい身体が全てワタクシの物……」

 前言撤回。

 欲望の眼で、鏡の中の自分自身を舐めるように見る奴の姿は、ただのやべぇ奴だわ。


「満足したみたいね」

「……ええ、素晴らしいですわ、マスター」

 すでに女性口調になっているマルトゥマが、淫靡な笑みを浮かべる。

「この肉体……『グレーター・サキュバス』なんですね」

「うん。強力な魅了の力と、吸精の度に強くなっていく能力を持った、サキュバスの上位種。貴女には、いま建設中の村に偽装した屋外階層が完成したら、そこの階層ボスになってもらう予定」

 なるほど、村人に偽装させる予定のゾンビ達を上手く操るための、管理者にするつもりなのか。

 確かにこの美貌……人間に化けさせれば、村を訪れた連中を油断させるにはもってこいだもんな。


「フフ……大役を任せてくださって、光栄ですわ。ですが、もっと良い方法があると思いますの」

「ほぅ?どんな方法?」

「それは……こうですわ!」

 不意に、マルトゥマの瞳にハート型の光が宿り、そこから放たれたピンク色の光線が俺とオルーシェを包み込む!


「アッハハハハ!老若男女、あらゆる者達の精神を虜にする『超絶!魅了の瞳(チャーム・アイ)!ワタクシがあなた達を魅了して、このダンジョン全てを支配するのが一番の方法ですわぁ!」

 高笑いしながら、俺達を支配しようとするマルトゥマ!

 だが……。


「……あ、あれ?」

 いっこうに支配されないどころか、平然としている俺達に、マルトゥマの表情が固くなっていく。

「言い忘れていたけど……」

 ポツリと、しかしながら圧のこもった声で、オルーシェがマルトゥマへと語りかける。

「当然ながら、どんなに強力な精神支配でも、同じダンジョンモンスター状態のダルアスや、ダンジョンマスターである私には通用しないからね」

 にこやかに笑って見せるオルーシェだったが、その目はいっさい笑っていない。

 それを受けて、辛うじて愛想笑いを浮かべるマルトゥマだったが、よく見れば小さく震えて涙ぐんでいた。


「さて……調子にのってオイタした子には、お仕置きしないといけないわね」

 そう言いながら、オルーシェがダンジョン・コアに合図を送ると、壁や床から伸びてきた鞭のような拘束具がマルトゥマを一瞬で縛り上げる!

「ひいっ!」

 思わず悲鳴をあげるマルトゥマに、つかつかと近付いていくオルーシェ。

 そして、おもむろに逆らったサキュバスの胸を鷲掴みにした!


「あはぁん♥」

「初手からいきなり裏切るとは、やってくれる……今後は絶対に裏切らないように、身体に覚えさせてあげるね」

「お、おいオルーシェ!何をするつもりだ?」

 あんまり激しいプレイは、規定に抵触しちゃうぞ!?

「大丈夫。この羨まし……けしからん胸に、誰がマスターか刻み込むだけだから」

 そう言いながら、オルーシェはマルトゥマの胸を掴む指に力を込める。

 それって、罰になるのか……?


「サキュバスには、快楽を与えてどっちが上か教え込むのが有効。あと、おっぱい(これ)は男の人には無い感覚器官みたいなものだから、サキュバスに成り立てのマルトゥマには弱点になる」

 なるほど……一応、理にかなってるんだな。


「さぁ……貴女の罪を数えなさい」

「そ、そんなぁ……マスタアァァァン♥」

 まるで、ご利益を求めるかのごとく、激しく胸を揉みしだくオルーシェ!

 男には無い感覚に翻弄されながら、悶えるマルトゥマ!


 あくまで罰を与えているシーンでしか無いのだが、美少女が美女の胸を責めたてる絵面に、迂闊におっさんが止めに入ると危険過ぎると判断した俺は、ただ両手を合わせてその光景を拝む事しかできないのであった……。

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