92 オークとバトル
先に依頼を受けた冒険者たちはどうしているのかな。
聞いた話だと、一人は獣人だったらしい。
警戒しているわけだし、索敵能力でオークに後れを取るとは思えないから、多分大丈夫とは思うけど……。
彼らも心配だが、今は後回しだ。
まずはオークを倒したときにいた猟師さんに村を案内してもらう。
斜面にはトマト――アルフィガロの畑が広がっている。
あれが品種改良したアルフィガロかな。
ソース用らしきことを言っていたから、食べてもあんまりおいしくはないかもしれない。
「どう戦うつもりとかはあるのかい? 子供だと思ったら見事な手際で驚いたが、相手はオークキングかもしれないんだろう? 逃げた方がいいんじゃないか?」
上位種の率いる群れがいたくらいなので、本隊はそれなりの数だろう。
村を捨てて逃げて、討伐隊を要請するというのが一般的な対応になるのかな。
「私、これでもあなたより長く生きていますよ。オークキングも初めて戦うってわけでもありません」
「……混血だったのか。まあ、十以上いたオークの群れをあっさり退治しちまったんだもんな。見かけどおりじゃないか」
おりんがフォローしてくれた。
わたしたちは、見た目は子供三人にしか見えないからね。
本当にいるのか、数はどれくらいなのか……探知魔術で早く調べたいが、ソナーのような魔術なので、向こうにも感知されてしまう。
刺激してしまうことになるし、こちらに呼び寄せてしまうかもしれないので今はまだ使えない。
「案内してくれてありがと。そろそろ始めるね」
村を一回り案内してもらったので、広さや配置は頭に入った。
「よいしょ。こらしょ。よっこいせ」
魔石を次々に砕きながら、魔術を発動させる。
せり上がった土の防壁が、ぐるりと村を囲った。
申し訳ないが斜面のアルフィガロ畑まではカバーしていない。
向こうから来ないのを祈ろう。
「なっ……!」
目を白黒させている猟師さんは置いておいて、最後の仕上げだ。
「あとは……この辺かな」
村長宅周辺を更にぐるりと囲んで門をつけ、二重構造にしておく。
「あそこで籠城しておけば、最初にいた連中くらいなら大丈夫だと思います」
村を囲んだ防壁の外側で、おりんがピン打ちによる魔物の探知を行う。
誘導してしまう可能性があるので、本当は村の近くでは控えたかったんだけど。
先に来た冒険者たちのように、村から離れている間に肝心の村が襲われてしまいました、という展開は避けたい。
まあ、彼らも複数の群れが森の中にいることは想定していなかったのだろう。
「どう?」
「かなり近くまで来てますね。オークキングと上位種が四、普通のオークが二百ってところでしょうか。あとは、かなり離れたところにも群れがあります……。巣でしょうね」
「まだそれほどの規模じゃないみたいだね」
最初に群れを倒した時に見ていたオークでもいたのだろうか。まとまってこちらへ向かっているようだ。
「森の中で群れとやるのは避けたいし、ここでやろっか」
「そうですね。では、そういうことですので、みなさんにお伝えください」
猟師さんに村のことは任せて、わたしたちは迎撃の準備に取り掛かる。
地属性魔術を発動して、木を動かして森を遠ざける。
迎撃用に、ひらけた空間を作り出した。
「さて……準備完了かな」
森の奥に、群れがうごめくのが見えた。
「ふごおおお!」
森から現れた群れの先頭にいたオークどもが、叫び声をあげてこちらに走り出す。
そして、すぐにそのまま地中へと消えていった。
うん、落とし穴です。
森を抜けてすぐのところに掘っておいた。
魔術で地表はそのままに、地中に空間を作っているので、見た目や匂いでは判別できないだろう。
距離があるので穴の中までは見えないが、十数体が巨大な穴の底で串刺しになっているはずだ。
落とし穴を避けてこちらに向かおうとする一体のオークの頭に矢が突き立った。
防壁の上からのおりんの狙撃だ。
オークの群れが広がりながらこちらに向かってくる。
最初の落とし穴でペースがやや落ちたが、その足が止まることはない。
オークを順におりんが射殺す。
わたしは大雑把な広範囲の術を発動させてオークの数を削っていく。
ただ、森のあちこちから湧き出てくるので、完全には間に合わない。
「せーの!」
バレー部みたいなかけ声とともにチアが投石した。
やたらときれいなフォームで投げられた頭くらいある岩が、重い音を立ててオークの頭を粉砕する。
……ゴリラかな。
「ロロちゃん、あっちはあんまり多くないから、チアが行ってくるね」
「いいけど、無理しないでよ」
「はーい!」
防壁へと近づきつつある左の方の群れに、抜刀したチアが一切の躊躇なく飛び込んでいった。
風精霊の靴の力を全開で引き出しているチアは、すさまじい速さで、身体を低くしたまま、群れの間を縫うようにオークを切り裂いていく。
それから、今度は横になったり逆さまになったりしながら空中を飛び回り始めた。
上下逆になったまま一体のオークの首を跳ね飛ばすと、そのまま何もない空中を蹴って次のオークの頭を縦に割った。
何あれ。あの子、騎士団長と普段どんな訓練してんだ。
一人だけ違うゲームをやってるみたいになってるんだけど。
ここで、森の奥からようやくオークキングがその巨体を現した。上位種も一緒だ。
さて、ここからが本番かな。




