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197  ミニ蜘蛛神と乙女の金塊

「村の方でなにか問題でも起きたのか?」


 王城を訪ねると、国王の前に宰相がやってきた。


 チアとおりんはいつものようにエライア様のところに行っている。


「ううん。そっちは順調。国王の方はサウレ盆地への立ち入りのことでギルマスの代わりに報告。あと、ついでだからコレ」

「……なんだこれは?」

「足踏み式脱穀機。収穫後の麦の処理が楽になる農具だね。これが設計図」

「……わりと複雑そうだな」

「今後収穫量が増えていって大変そうなら役に立つと思って。一応渡しとくね」

「わかった。受け取っておく」


 収穫量のことばかりで、この手の農具の普及については頭から抜けていたからね。


 それからやってきた国王にサウレ盆地のことを報告すると、案の定、わしもベヒモスに乗って行ってみたいと言っていた。


 また、そのうちね。


 帰ってパントスに色々また頼まないと……と考えていると、王妃様に呼ばれた。


「ドレスなんだけど、すごい数の依頼が来てるのよね。私が取りまとめていたけど、ちょっと面倒になってきたし、他にまわせないかしら」

「わかりました。頼める者もできたので、そちらになんとかしてもらいますね」


 依頼の束を受け取る。


 用事を片付けに来たのに用事が増えているな。

 

「でも、なんでそんなに?」

「私の影響力はそれくらいあるってことね。……と言いたいけれど、やっぱりドレスがよくできているのも大きいかしら。それから、私もそういうものを着てると話しかけちゃうしね」


 安心の蜘蛛神様クオリティである。


 さて、この束はどう処理しようか。

 相手のイメージがつかめないと蜘蛛神も作製しにくいだろうし、かといってほぼ知らない相手ばかりだ。

 どこの誰かを調べるのはストラミネアにやってもらえばいいけど、実際に顔を見て回るのはかなり面倒だしそれを蜘蛛神に伝えるとなると……。


 イメージをつかんでもらうには、わたしを挟まない方がむしろいいよね。

 わたしが一緒だと難しいが、ストラミネアだけなら大抵のところに進入できるし。


 王妃付きの侍女さんからは、依頼料として大量の魔石や相応のお金を受け取っている。

 最低限必要な蜘蛛神の目だけを魔石を使って省コストで喚んで、ストラミネアに見せて回ってもらえばいいか。

 よし、これでいこう。


 ストラミネアは今は受け取った依頼人リストから、実際に住んでいる場所をひとまず確認しに出かけてもらう。


「ちょっと作業するからおりん、赤ちゃんたちの方の確認とお昼ごはんはお願い。なにかあったら呼んで」

「わかりましたにゃ」


 蜘蛛神の力を借りる時の術式を組みなおしていく。

 わたしが神々の眼を借りる時は自分の眼に力を宿らせるのだけど、本体のない精霊であるストラミネアだとそうもいかない。

 代わりになるような眼球っぽいもの。

 蜘蛛の眼だけ持ち歩くとか、ちょっとホラーっぽいな……。


 うーん……。


 結局、ミニサイズの小さな蜘蛛の模型を作った。

 製作はもちろん魔法でやっている。


 あんまりリアルなのも嫌なので、ゆるキャラっぽくかわいく仕上げてみた。


 必要なのは眼の力だけなんだけどね。

 召喚状態を維持できるくらいの魔石は十分あるので、ストラミネアが戻ってきたらこれに蜘蛛神を宿らせて依頼者を見せて回ってもらおう。


 さて、次だ。


「パントスー」

「お呼びでしょうか」

「まず、これね」


 オブシディアンタートスの巨大な亀の甲羅を数個とわたしが採取した薬草類を並べる。


 もちろん、甲羅の中にはチアがわたしたちへのお土産にしてくれた分は入れていない。

 マナの充電中の空き時間に見本にするためにわたしがサクッと回収してきたものだ。


「こちらは?」

「売って、水の魔石とあざらしスライム、あとは寝具とか食器とか生活にいるものに変えて。他に要りそうなものがあったら任せるよ。村に集まった移住者が思ったより多くてね」

「クレア様の人徳でしょうな。承知いたしました」


 パントスは人のいない場だとわたしのことを両親の付けたクレアの名で呼ぶことが多い。

 ずっとクレアだと認識していたので、無意識やとっさだとそちらが出てきてしまうようだ。


 執事から商人の顔に変わったパントスが、それぞれの品を確認し始めた。 


「それで、村に商人を呼びたいけどどうかな。行商からでいいけど、出せるなら店はこちらで用意できるよ。村からは今出したようなものを月一回渡せる感じ」

「わかりました。商業ギルドに打診してみましょう。……ウカ商会でも?」


 パントスから祖父母の商会の名前が出てきた。

 条件的に商業ギルドでは厳しいか。


「そこは任せるけど、村の運営が軌道に乗ったあといつまでわたしが関わるかわかんないよ。無理はさせなくていいからね」

「いえ、元同僚へ先に儲け話を持ちかけさせてもらうという意味です」


 そんなに儲かる取引ができると思えないけどな。

 百人程度しか住んでいない村だし。


「これからの村の拡大と成長も見込んでということですね。あと、こちらの品々はおそらくクレア様が思っているより高価な品です」


 薬草類の金額は見当がつくが、この甲羅もかなりの高額商品らしい。

 十分儲けは出せると踏んだようだ。


「あと、全然話変わるんだけど王都に小さな店が欲しい」

「用途はいかような?」


 わたしは蜘蛛神とドレスの件について説明した。


「そういうわけなんで、受付だけでいいし店らしくなくてもいいけど、近い方が楽かな」

「蜘蛛の神……そんなことまでされておいでだったのですか。一応、近さを考えれば向かいの土地が一番かと。他ですと……」

「ああ、そっか。それでいいね。建物はまだあるし、大きいから内装は必要になっちゃうけど」


 貴族街なのでお金だけじゃなく手続きも必要になるだろうが、国王や宰相から紹介状でも、口添えでも、やってもらえばいい。問題なく購入できるだろう。


「ちょっといいですか?」


 話の途中でおりんが現れた。


「おりん、なに? もうお昼?」

「すみません、話が聞こえちゃったんですが、それならあの三姉妹を店員にできませんかね」

「へ? なんで? ああ、赤ちゃんたちは大丈夫だった?」


 出発前までには、紙おむつはまだ用意できていないままだったし、洗浄を使えるわたしもおりんもいない。

 粉ミルクなんかの扱いは教えておいたし、手伝いのイオナンタもいるが月齢の違う赤ちゃん三人なのでそれなりに大変なはずだ。


「そりゃ、あれだけ用意していればさすがに大丈夫ですよ」

「そう?」

「温度を保つ水入れに、勝手に服を洗う魔道具に、雨の日用に洗ったものを乾かす魔道具まで……。私もロロ様もいないとはいえ、ちょっとやりすぎですよ。しかし、あんなに便利なものをポンポンと思いつきでよく作れますね」

「アイデア的には元々あったものだからね」


 おりんは前世の知識からくるものだと気付いたようであっさり納得した顔になった。


「ああ、それなら私も見せていただきました。他二つは言うまでもありませんが、水入れまでも、簡単そうな仕組みに思えてかなり複雑な術式が彫られておりましたな」


 わたしが作ったのは最新家電レベルの再現に挑んだ試作品なので色々高機能になってしまっている。


「凝ってみただけで、性能を削って制御を雑にすればもっと簡単にできるけどね」

「少々興味がありますので、お手間でなければ一つお願いしていいですかな。……おっと、失礼。話がそれてしまいましたな」


 乾燥機やポットは今の魔道具の技術でもさほど難しくはない。

 洗濯機も脱水と洗濯をわけた二層式ならだいぶ難易度は落ちるだろう。


「ああ、ごめん。で、なんであの三姉妹を働かせようって?」

「向こうから言ってきたんです。三人で交互に休めますし、イオナンタちゃんもいて余裕があるのに何もしていないのが申し訳ないからなにかしたいと。忙しくない受付だけの店番くらいなら大丈夫じゃないですか?」

「んー、そうだね。それなら奥を広くして店の中で赤ちゃんも見れるようにした方がいいか」

「そうですね。建物は広さがあるのでそれは問題ないと思います」


 必要なら建物の改造までしても、それほどの手間でもない。


「ありがとうございます。じゃあ、伝えてきますね。それと、そろそろお昼ごはんもできますから」

「では、昼食の前にクレア様にご報告だけさせていただきましょうか。硬石鹸の方は一部試験製造を始めております。スライム紙のオムツの方はいくつか試作している段階です」


 おりんがいなくなったのを見て、パントスが一つ咳払いをして続ける。

 声に少し申し訳なさそうな色が混じった。


「勝手ながら、資金面ではウカ商会から融資を受けさせていただきました。余裕ができましたら硬石鹸の方はもう少し製造規模を広げていこうかと思っております。その、新しく土地建物の購入に改築となりますと追加の融資となるかと……」

「あ、そっか。ごめん。初期投資のこと忘れてた。色々要るだろうから、こっから使って。お店のお金もいるもんね。あと布や糸の手配もよろしく」


 和装メイドスタイルの今の使用人服にはあまり似つかわしくない革のカバンは、わたしの固有空間(ストレージ)につながっている。


 鞄をひっくり返して口を下に向けた。

 インゴッドにしておいた金の塊が音を立てながら山になっていく。


 ガランガラン。


 これくらいでいいかな。


「は?」


 ガラガラガラ。


 いや、もう少し出しとくか。


「クレア様……?」


 ガラガラガラガラ。


 うん、こんなもんかな。


「あの……これは?」

「見たまんま、(きん)だけど。まだいる?」

「いえ、じゅ、十分です。その……これはどこで?」

「乙女の秘密」

「…………」

「まあ、わたしは意外と働き者だったってことだね」


 転生前の話だけど。


「……承知しました。あとのことはお任せください」



 ◇ ◇ ◇



「ただいま戻りました」

「早くない?」

「ほとんど元々知っている者ですから、確認程度でしたね」


 お昼ご飯を食べ終わって一服している間に、ドレスの注文相手を調べてにいったストラミネアが早々と戻ってきた。


「じゃあ、この(ひと)連れてもう一度回って、依頼主を見せてきてもらえる?」

「わかりました」


 わたしが手のひらに乗せた蜘蛛を差し出す。

 

「実際に作ってもらう蜘蛛神様ね。正確には意識のごく一部だけど」

「ヨ……ロし……ク」


 もぞもぞ動いて器用に音を出したちび蜘蛛神が足を一本上げた。

 糸を使って音を出したのだろう。不慣れな体なのであまりうまくはいかなかったようだ。


「こちらこそよろしくお願いします。では行ってまいりますね」


 蜘蛛神の体がふわりと浮いて、ストラミネアと一緒に飛んでいった。


「まあ、こういった感じです。私が魔術契約をしておいていただきたいと言った意味がお分かりになりましたか? 子供たちの命を助けてもらったあなた方を疑うわけではありませんが、うっかりしゃべられたりすると困りますのでね」


 唖然としている、三人の赤ちゃんたちの母親三姉妹とイオナンタにパントスが向きなおる。

 四人がコクコク首を縦に振った。


 今後は店にちび蜘蛛神様を置いておいて、直接その場で依頼人を見てもらうシステムにしようと考えている。そうすればわざわざストラミネアが探してまわる必要もない。

 着用者本人が来店しないと服の作成依頼を受けられないというルールにしておくことにしよう。


 お店の受付をお願いすることになった四人に蜘蛛神のことを知らせずにトラブルになっても困るので、契約魔術を使うことをパントスに提案された。


 蜘蛛神のことは人には言えないからね。


 なにせ、子供の面倒を見ながら過ごせるようにするのなら、昼寝もできた方が、炊事場も……と考えていると普通に泊まれるような店舗になりそうだと話していたら、三姉妹にはそのままそちらに住みたいと言われてしまった。

 そうなると蜘蛛神と同居になる。


 別にずっと屋敷にいても気にしないし、追い出したりはしないんだけどね。

 わたしたちは使用人用の家に住んでるいるのに、ほぼ無人の屋敷の一角を占領しているというのが逆に落ち着かないらしい。


 わたしが作ったポットや洗濯機、乾燥機もあるし、それなら住み込みでとなったのだった。 


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