147 地脈のヌシ
翌日、サウレ盆地が一望できる地脈の場所へ向かった。
「おりんは魔物の探知と倒すのをお願いね。地脈の近くまでいったら探知は控えて」
「わかりました」
「ストラミネアは魔物じゃない生き物を目視で警戒しといて。チアはわたしを守って。わたし今戦えないから、お願いね」
「うん! おんぶしとこうか? お姫様抱っこがいい?」
チアが元気よく返事をする。
「自分で歩けるから」
おりんを助ける時ほどじゃないけど、また変に張り切ってる気がするな。
「おりんとストラミネアのフォローもあるから、変に気に負わないの。まずは自分の安全ね」
「うん」
ちゃんとわかってるかな。
この前の時といい、たまに頑固さを発揮するのでちょっと不安だ。
「チア、おいで」
「なに〜?」
寄ってきたチアをハグする。
「わたしがチアを好きなことに理由なんてないからね。チアが何をできても、できなくても、それでもっと好きになったりキライになったりなんかしないから」
「うん、えへへー」
チアがうれしそうな声を出して、犬みたいにほおを擦り寄せて甘えてきた。
「んー、キスしにくい」
それを聞いておとなしくなったチアのほおに口付けする。
それから、体を離してチアの手を引いて歩きだした。
ふと見ると、物欲しそうな顔をしているおりんと目があった。
「ほら、行くよー」
「おりんちゃんもして欲しそうだよ」
知ってる。
気付いてて無視してるんだから。
「おりんは昨日もわたしを抱き枕にしていたので却下でーす。……大体、言わなくてもおりんはそれくらい知ってるでしょ」
「まあ、それはそうなんですが。やっぱり大切なことは日頃からの確認が大事だと思います」
「じゃあ、今確認したからいいよね」
食い下がってくるおりんの発言を適当に流して、そのまま出発した。
少しして、発見した魔物におりんが身構える。
「おりんちゃんがんばれ~」
「消し炭にしないでね」
「魔石いりますもんね」
それもあるけど骨を肥料にまわせないかと考えているのもある。
「来ましたね」
ダチョウのような飛ばない鳥の魔物、アックスビークだ。
おりんが目を閉じて、アックスビークに手の平を向けた。
炎が吹き上がり、アックスビークの群れが飲み込まれた。
炎はそれにとどまらず、これでもかというほどに山を広範に焼き払う。
「おりん……?」
「久しぶりのせいか、出力が上がってるせいか、ちょっと加減が……」
魔石はもう無理だろなぁ。
しばらく待ってみると、予想通りに炭どころか骨も残らず灰になった魔物が風でさらさらと飛んでいった。
その後はトラブルもなく前の地脈のところまでやってこれた。
「いますね」
「んえ?」
サウレ盆地は前回来た時とちがって騒がしく、魔物たちも浮足立っている。
立派な角を持った金色の鹿がうずくまっていた。
その足が一本あらぬ方に曲がっていた。
「ケガしてるね。介錯する? 食べる? おいしいかな? 焼肉とハンバーグどっちにする?」
「やめなさい」
金色の鹿が思い切り引いている。
食欲全開のチアに身の危険を感じているようだ。
「ロロ様、これ……」
「ケリュネイアだね、本物の」
「ロロちゃんが料理してたやつ?」
「あれはこっちから名前を取った魔物で、こっちが本物なんだよ」
「何がちがうの?」
「この子は魔物じゃなくて、むしろ大地神から加護とか祝福を受けている系だね。神獣って呼ばれるような存在なんだけど……ああ、この地脈の管理者なのか……。とりあえず、治療しとこう」
多分、傷の治りを早くするためにここにいるんだろうし。
前回チアを治した時はダメだし食らったので、今回は慎重に。
地脈からあふれているマナを吸い上げて、傷に集中させる。
活力を与えたりする必要はない。変なくっつき方をしないよう気を付けながら、治すことだけに方向を向けてやる。
「うん、こんな感じかな。わたし結構うまくない?」
「はあ……そう言われても基準がわかりませんにゃ」
まあ、それもそうだ。
とりあえずチアの時よりはかなり効率よくいけた。
自画自賛しておこう。
立ち上がったケリュネイアが、こちらに……というかわたしに頭を垂れた。
「感謝の意ですか?」
「それもあるだろうけど……豊穣神になってるから感覚的にわかるんだけど、この子もわたしと同じで大地神の系列なんだよね」
「どゆこと?」
チアとおりんがそろって不思議そうな顔をする。
「ん-、なんというか……この子が支店の店員だとするでしょ。知らない別支店の上司に助けられたとかそんな感じ」
「微妙に気を遣うやつじゃないですか」
「うん。嫌な汗かいてるかもね」
ケガを治した感謝はわかるけど、さっきからそれ以上に平伏したままだ。
「でも、なんであんなケガをしていたんでしょうね」
ズシン、と盆地の山の向こうから巨大な真っ黒な獣が現れた。
即座にケリュネイアが臨戦体勢をとった。
「あれかな」
「あれだね」
「あれですかねぇ」
どこまでも黒い毛並みは太陽の下でも光を反射しない漆黒のままだ。
巨大な角に、太い腕の先には鋭い爪が並んでいる。
巨獣 だ。
「おっきーい」
「いや、こんなとこでお目にかかるとは……本でしか見たことがなかったのに、長生きはするもんだなあ」
「一回死んでますけどね」
「おりん、頼んだよ。ここでもう一回死にたくないからね」
「強いの?」
「地上なら、一、二を争う魔獣だね」
おりんが倒せなければ、この国で単独で勝てる人間はいないんじゃないかな。
盆地にいた魔物たちがいっせいに逃げていく。
「……できればもう少し感動的な出会いをしたかったね。最近は大蛇といい、大物に縁があるな……」
伝説に謳われる魔獣は太古の姿を残す魔力豊富な盆地で生きていたようだ。
体のサイズは変えれるらしいので、ここで暮らしていれば見つけられないだろう。
雄大でどこまでも美しいはずの獣の目はどす黒く濁り、嫌な気配を漂わせている。
「地脈を奪いにきたんでしょうか」
「どうかな。……あれは瘴気にも侵されてる、ねっ! おりん!」
「ファイア・サークル!!」
こちらに顔を向けたベヒモスに瞬間的に反応しておりんが結界を張った。
ベヒモスの口から放たれた光線が、結界に弾かれてそのまま雲を消し飛ばしていった。
危なっ。
生半可な結界だと結界ごと吹き飛ばされていたところだ。
チアも、あの一瞬で剣を体をかばうように構えて私の前に立ってくれている。
わー、お姫様っぽい。
役立たずとも言う。
「おりんちゃん、ありがとー」
「ベヒモスってブレス吐くんだねぇ」
「のん気なこと言ってないで手伝ってくださいにゃ! 昔の私の結界だったらもたなかったですにゃ!」
「そう言われても、わたし戦えないし」
「今は地脈にいるんだから戦えるでしょう!」
「ああ、そうかも」
「いきます!」
おりんが足に向かって炎弾を撃ち込んだ。
地面が揺れ、大爆発が起こって、ベヒモスの姿が爆発の向こうに見えなくなった。
当然ながら、おりんは手加減一切なしの本気だ。
自分の装甲に自信があるのか、こちらをなめているのか、ベヒモスはそのまま攻撃を食らっていた。
火精霊のちからを借りて放つ魔法に匹敵するおりんの魔術は、どの程度ダメージを与えているのか。
一瞬遅れてやってきた攻撃の衝撃波を、おりんの結界が防いだ。
そのまま次々と攻撃を仕掛ける。
連続した爆発で、ベヒモスの姿が完全に見えなくなった。
ストラミネアが風を起こして、爆発の煙を吹き飛ばすと、ベヒモスの周囲の木々や岩は消し飛び、その周りのものはあらかた吹き飛ばされ、なぎ倒されていた。
その中心で爆発で体勢の崩れていたベヒモスがしっかりと立ち上がった。
「……あんまり効いていませんかね」
「さすがにノーダメージとはいかなかったみたいだけどね」




