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126  天狐の神社へ

 次の日も、要求されていたとおり金狐と一緒に夕ご飯を食べた。

 遊び終わった後に料理したので、時間は遅めだ。


「金狐ちゃん、わたしに加護をくれたよね? わたしの考えてることがわかったり、記憶が読めたりするの?」

「普通はそういうのはないわよ。よほど力の有り余っている高位の神か、強力な加護を与えて(パス)が太いとかならありえるけど」


 ああ、そういう感じなのか。


 私が魔法で力を喚び出した神々は、高位の神ばかりだ。

 黒狐は寄生虫の件を解決したお礼にと、強い加護をくれたのだろう。銀狐の加護がなくなってもわたしの身体能力などが低下しないようにと考えてくれたのかもしれない。

 ソフィアトルテに関しては、会ったときの環境が特殊だったのもありそうかな。


「そういえば、黒狐はどうしてた? しばらく会ってないけど相変わらずなのかしら」


 お酒を机に並べながら、やっかいな魔物を駆除する手伝いをした話を金狐に教える。

 金狐が手酌で酒を飲み始めた。


「ったく、そんなことになってたなんて……言えばちょっとくらい手伝ってやったのに」


 慌てたように、金狐が付け加えた。


「ま、まあ暇つぶしくらいにはなったでしょうからね」


 ツンデレだなあ……。


「それから、天狐様の所までは遠いから、準備して行きなさいよ。もちろん途中にも宿や町もあるけどね」


 次の目的地は銀狐の所……と言いたいが、その手前にある天狐の神社に寄っていけと黒狐にも金狐にも言われている。


 黒狐、銀狐の師匠で、日国(ひのくに)に昔からいるお稲荷様らしい。

 無視すると失礼にあたるから、ということだろう。


 とんかつの卵とじと口を往復していたチアの箸が止まった。まだもぐもぐしてるけど。

 今日はお米があるので、ご飯に合うおかずを多めに作っている。


「そんなに、ほおいの?」

「チア、食べながらしゃべらない」

「黒狐のところからここまでの三倍はあるかしら。あなたたちの足なら一月以上かか……」

「じゃあ、三日でいけるね」

「人の話を聞きなさい。あんた、アホなの? 馬でもそんなに早く着かないわよ。それとも身体強化してずっと走る気?」


 アホ呼ばわりされたチアは、ご飯のおかわりをしている。

 ……どこまで盛る気なのか、だんだん日本昔話みたいな盛り方になってきている。


「わたしたちの移動速度、魔道具の靴を使うから速いんだよ。黒狐姉様のとこからここまで半日できたし」

「半日!? 黒狐の手助けをした話といい、魔術師ってのは色々できるのね」


 この国は昔からいわゆる普通の魔術師はほとんどいない。

 金狐の口ぶりからすると、今も大差ないのだろう。


「これ、おいしいわね」


 金狐が横で日本酒を飲みながら、さっきから勢いよくぱくぱくと食べている。

 

「でしょー。稲荷ずしだよ」


 大豆も手に入ったし、豆腐自体も売られていたので、お稲荷様といえばこれかな、と作ってみた。

 金狐が知らなかっただけなのか、それとも油で揚げる系の料理はこちらではまだ珍しいのか。


「なにその名前?」

「狐と色が似てるからかなあ……わたしが付けたんじゃないし」


 言いながら、わたしもさっきからずっと食べている。

 なんか異常においしい。

 久しぶりだからとかを明らかに越えている。

 お稲荷様の加護があるからなのか? そういうものだっけ?


「明日は揚げ出し豆腐でも作ろうかな……きつねうどんもいいな」

「これ、そんなにおいしいですかね?」

「チアはハンバーグの方がいいな」


 それはなんかジャンルが違うでしょ。


 それから五日後、追いついてきたストラミネアとともに、出発した。

 子供たちが喜ぶからとか、お供え物が欲しいだけだからとか言い訳をしながら、三人でまた来なさいよ、と金狐が見送ってくれた。

 素直じゃないのが、わかりやすすぎて逆に微笑ましい。 


 山で野営というか、ログハウスお泊りをしながら西に向かって移動していく。

 ストラミネアと合流してから出発したので、見張りを任せられる分、ぐっすり眠れる。

 速度を出しにくい場所もあったので、結局四日目の朝に大きな町についた。


「この辺りって話でしたけど」

「この町のどこかにあるのかな。大きい神社だって言ってたから、誰か知ってるでしょ」


 そこらにいた人に聞いてみる。


「この町自体が神社の門前町だよ。向こうの山に見える建物すべてが神社だからな」

「……ホントに?」

「まあ、この国で一番大きな稲荷神社だからな。知らないと大抵驚くもんだよ」


 山にはたくさんの建物が見えている。

 あれ全部神社の関連施設なのか。


 神社へ続く大通りを歩いていく。

 道では団子やせんべいを売っているお店もあって、看板には狐が描かれていた。

 遠くから来る人も結構いるのか、もう半分観光地だな。


 試しに団子とせんべいを買ってみる。


 団子というか餅っぽい?

 あんことかは入っていないシンプルなものだった。

 

「このせんべいっていうのは、ちょっと慣れない味ですね」


 おりんが遠回しに苦手な味だと言った。

 そういえば、しょうゆ系の味付け好きじゃなかったな、この子。


「チアは平気ー。いらないならちょうだい」

「わたしも平気」


 むしろ懐かしいまである。

 チアが横でぼりぼり音を立てながらせんべいをかじっている。


「私はロロ様の作るお菓子の方がいいです」

「ロロちゃん、辛いお菓子作らないよね」

「まあ、ポテチくらいかな。材料なかっただけで一応こういうのも作れるよ。ただ、他人(ひと)が作ったってだけで五割り増しでおいしい」

「十才で主婦みたいなことを言わないでください」


 なんとなくさっきから周りからの視線を感じる。

 この辺りも獣人は珍しいのかもしれない。


 そのまま鳥居をくぐる。

 どこに行けばいいかな。


「ちょっと、ちょっと。お祭りでもないのに、神社の中でそんな耳付けてたら怒られるわよ」


 若い巫女さんが建物の陰から現れるなり、目が合ったわたしの耳に手を伸ばした。


 伸ばした巫女さんの手は私の耳に届かずに弾かれる。

 ストラミネアの仕業だ。


「え? あれ!?」


 目を白黒させながら、慌てて巫女さんが手を引っ込める。

 じっとわたしを見る。狐耳が本物だと気付いたらしい。


「本物ですよ」

「ふぇっ!? え……ええと……誰、いやどちら様ですか?」

「天狐……天柱稲荷様へ、ごあいさつにうかがった者です。黒稲荷様と金穂稲荷様からお手紙も預かっています」

「へ!? ちょちょちょ、ちょっと待って。あ、お待ちください!」


 巫女さんが敷地の奥の方へ走って消えていった。


 周りの人たちが足を止め、遠巻きにこちらを見ている。

 お稲荷様の総本山的な場所で狐耳だから注目されてたのか。

 直接お目通りできると話した時でさえ金穂稲荷の時のおじさんとか割と反応軽かったし、あまり気にしてなかった……。


 巫女さんはすぐに、見れば上の者だとわかる年配の男性と、数人を引き連れて走って戻ってきた。

 年配の男性が、わたしを見て目を見開くと、最敬礼をして頭を下げる。


「ご、ご使者様、遠い所より、ようこそ、いらっしゃいました。すぐに、ご案内、させていただきます」


 お、おう……。

 めっちゃ息上がってるけど大丈夫?


 さすが総本山だけあって、神様本人の手紙と言うとすごい効果だ。


「その場で待たす者があるか! 奥へお通しせんか!」

「ひええっ!」


 わたしの耳をつかもうとした巫女さんが、一緒に現れた人たちに怒鳴られていた。


「あの……落ち着いてください。黒稲荷と金穂稲荷のお二人にあいさつに行く際にと手紙を書いてもらったりはしましたけど、わたしは別に使者とかじゃなくて、稲荷様の加護をもらっているだけの普通の人間なので……」

「神様に手紙を書いてもらうのは、普通じゃないです」

「稲荷神に姿が近付くような強力な加護を授かっている時点で普通ではないです」

「神様にどうやってお会いしたんですか!?」


 あれ、おかしいな。状況が悪化したぞ。


 遠巻きに見ていた人たちがざわざわし始めている。

 人だかりはみるみる増えていっている。

 

「余計にひどくなってますにゃ」

「お茶菓子もらえるかな」

「金穂稲荷のトコと温度差がすごいな……」


 巫女さんが、手の弾かれたところを撫でながら首を傾げる。


「ホントのホントに人間……ですか? さっき手を弾かれた不思議な力は……」

「あれはうちの精霊が……」

「せい……!?」

「一番いい部屋にご案内しろ!」 


 うっかりまた余計なことを言ってしまった。

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