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119  日国の遺跡もどき

「着いたんですかね」

「そのはずだけど……とりあえず出てみようか」


 こちらのは小さめだけど、遺跡もどきの基本構造は似たようなものだ。

 階段の下の壁には、亀の絵が彫ってあった。


「亀だー」

「ケプラー、開けて」


 階段の上の扉が開かれた。

 外に出ると、辺りは真っ暗だった。


 特に壊れてもいないし、埋まっていたりもしてしない。

 ただ、前の遺跡もどき同様、人が入り込んだ感じはあるな。


「ロロ様。あの像、屋敷の池に勝手に住み着いていた亀じゃないですか。私、亀と同じ扱いなんですか……?」


 おりんが、階段を隠していた噴水の上にある亀の像に納得いかなそうな声をあげる。


「合言葉のヒント用で意味はないから。深く考えないで」

「全部私でいいじゃないですか。それで、ここは何をしまっていたんですか? 前の所は危険な魔道具の類でしたけど」

「陶芸が趣味だったロックフィールド伯爵からのもらい物の山。捨てるのも悪いし、飾るにも限度があるしで扱いに困ってたやつ」

「そんなもののために魔術で建物を建てたんですか……」


 一度助けたことがあって、それ以来なにかと作品を貰っていたんだけど、下手ではないが、素人作品なので芸術的な価値も特にない。

 個人的に仲のいい御仁だったので、捨てるのもためらわれた。

 転生前のわたしが死んだら捨てられそうだな、とせっかくなので一区画作って飾らせてもらった。


 もちろん、それとは別に地下部分にわたしの固有空間(ストレージ)からアイテムを取り出せる魔法の鞄(マジックバッグ)も置かれていた。

 本命は転生前の持ち物で、陶磁器はあくまで目くらましのオマケだ。


「人がいます。向こうの区画の方で、動いてはいません。これは……おそらく寝ているようですね」


 ストラミネアから警告が飛ぶ。

 まだ早朝なので、寝ているの自体は別におかしくはない。


「泊まるために作っていた部分だね。誰か住んでいるのかも。チア、剣を抜けるようにしときな」

「はーい」


 警戒しながらのぞくと、おばちゃんが寝ていた。

 少なくともお尋ね者などには見えない。

 

「あのー」


 声をかけると、おばちゃんがのそのそと起きてきた。


「あら、ごめんねえ。こんな早くから観光かい? 見るだけなら無料だから、入っていいよ」

「……えっと、ここはなんなんですか?」

「おや、知らないで来たのかい? ここは焼き物の町、ウグイス沢が生まれるきっかけになった場所さ」

「……は?」

「ホントに知らないんだね。奥に展示してあるけど、ここは珍しい陶器や磁器がたくさん見つかった古い建物でね。細かい話は省くと、それがきっかけでこのウグイス沢は磁器の町になったのさ」


 え? 冗談でしょ? ……マジで?


「……ロロ様」


 おりんが半眼になっている。

 いや、そこまでわたし知らないから。


「……ロックフィールド伯爵も草葉の陰で喜んでるね」


 おりんが盛大にため息をついた。

 まさかあの御仁も自分の作品がきっかけで焼き物の町が一つ生まれるとは思ってもいなかっただろう。


「えっと、おばさんはここに住んでいるんですか?」

「いや、いつもは通いだよ。雨が降ると町まで歩くのが嫌だから泊まるんだ。山道だからね」

「ああ、なるほど」

「一応これでも管理人だから、詳しい歴史の話を聞きたいならちょっと待ちな」


 いや、焼き物の町の歴史はいらないんだけど。


「歴史はいいんですけど、他に聞きたいことがあるんで、ちょっと中を見て待ってます」

「おや、そうかい。悪いね。支度してくるから待ってておくれ」


 寝起きのおばちゃんは奥に引っ込んでいった。

 どこかに運んだのかなくなっているものも当然多いが、置いていなかった棚が追加され、雑多に並べていたはずの陶磁器がきれいに展示されていた。


 ……観光スポットになってるな。


 しばらく待っているとおばちゃんがやってきた。

 寝起きの先ほどと違い、着替えて眼鏡もかけていた。


「お稲荷様!? ……じゃあ、そちらは猫神様ですか?」

「お稲荷様から加護をもらっているだけで一応人間ですし、そちらは普通の獣人です」


 さっきまでは眼鏡がなかったので、あまり見えていなかったらしい。


「ちょっと縁のあったお稲荷様を探していて……。近くに神社とかありますかね。お稲荷様を祀っている所なら助かるんですけど」


 闇雲に探しても仕方がないので、餅は餅屋。お稲荷様探しなら神社だろう。


「それなら、北の山にある黒稲荷様でしょうか。小さなお社で、宮司などの管理者はいませんけれど」

「黒稲荷……ありがとうございます。行ってみますね」


 人がいないなら直接的なヒントはないかもしれないかな。

 でもせっかくだ。一応行っておこう。 


「それでしたら、少しお待ちを」


 早速出発しようとしたら、おばちゃんが奥から木の蓋のついた小さな磁器の瓶を持ってきた。


 あれって……とっくり?


「お酒です。少ないですけれど、参られるのでしたら、よければこちらを」


 奉納用にとおばちゃんがお酒を用意してくれた。

 お金を払おうとしたが、神様におわたしするものにお金は取れないと断られてしまったので、丁寧にお礼をいう。


「色々とありがとうございました」

「いえいえ。お気を付けて。それと、山の生水はお飲みにならないようにしてくださいね」


 さて、それじゃ黒稲荷の社を訪ねてみるとしよう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 若気の至りが焼き物の街を産んだか
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