118 吊り橋(外伝)
外伝的なお話です。
親方はいつになったら戻ってくるんだろうか。
用事があるから町に一回戻って来ると言ったきりだ。
今回の俺たちの仕事もつり橋をかけることだ。
親方はつり橋を得意にしていて、あちこちで依頼を受けては架けて回ってる。
もうやり方はお前もわかっているんだから、準備しとけと投げやりな指示をもらってそのままだ。
また飲みすぎてどこかの路地裏で寝てるんじゃないだろうな。
最近は近くに魔物がでたなんて話もあるし、一人というのはどうも心細い。
まあでも、そろそろ一人前だと親方に認めてもらいたいからな。今回の仕事はちょっと気合いを入れている。
「あ、いたいた」
そんなことを言いながら、まだ十才くらいの女の子が三人現れた。二人は獣人だ。
「ちょっと親方さんは急な仕事でね、わたしたちが手伝いに回されたの。君も作り方は知っているんでしょ。始めといてくれって」
「一応知っちゃいるが、子供三人で作れるもんじゃねえぞ。もう少し人手はいねえのかよ。俺はこの仕事で一人前だって親方に認めさせてーから、気合入れてんだぞ」
「素人だけど、人手としては十分なはずだから大丈夫。よっ」
そう言って木に手をかざすと、木が真っ二つになった。
「チア」
「はーい」
大人数人でも絶対に持ち上げられないような木を、よいしょ、と軽々と人族の女の子が持ち上げた。
「まあ、こんな感じ」
「……何なんだ、お前ら?」
「簡単に言うと、魔術師と力持ちと……子守りメイド?」
「……役に立つならなんでもいいけどよ。とりあえず行き来するためにロープを張っておきたい」
「わたしは飛んで渡れるからそれはいいや」
「俺が渡れねーだろうが」
魔術師ってのはなんでもできるんだな。
ちびのくせに。
これ、完成までやっちまえるんじゃねえか?
そうしたら親方も俺のことを認めるしかないだろうな。
「ここで指示を出してくれたら、わたしらでやるよ」
「大工事の親方みたいだな。まあ、さっきの見た感じだと、そっちのが早い……か?」
「うん、そう思う。でも橋の作りはよくわからないから、指示もらわないと作れないけどね」
まあ、そりゃそうだ。
一瞬子供相手に負けた気になったが、そもそも職人の俺と魔術師なんてものは住む世界が違うんだ。比べても意味はない。
「まあ、今回のはそんなややこしいものでもないけどな。それぞれの崖に主塔……柱を二本ずつ建てて、崖を渡して二本の大縄を張る。二本の大縄に足場をつけた縄をたくさん渡していけば、その足場を渡って向こうに渡れる橋ができるわけだ」
「じゃあ、穴を掘って柱を埋めればいいんだね。大体の場所を指示してよ」
場所を指示すると、硬い地面に簡単に穴ができていく。すげーな。
「柱は運んできてもらってたはずだが……あれ、おかしいな」
柱を置いていたはずの辺りには古く朽ちたものしかなかった。
記憶違いか?
頼んでいたはずなんだが、村の連中が場所を間違えたのかもしれない。
「何かの手違いじゃない? 新しく太い木を切って設置すればいいと思うけど。加工とかわかる?」
「あー……それは大丈夫だ。柱は高い方が吊り橋が丈夫になるから、ある程度は高さが欲しいな。本当は材の自然乾燥とかさせておきたいんだが……」
「そうなんだ。まあその辺は必要なら魔法でやるよ」
次々と指示どおりに作業が進んでいく。
手配していた大縄は届いてないが、魔術師の子供が作っていた。縄を編むのなんぞ一朝一夕でできるものじゃないんだが……。魔術師ってのは便利なもんだな。
手配していた大縄については、また次の現場で使えばいい。
次の橋を作る時にも手伝って欲しいくらいだが、多分、子供だから安く雇えただけで、ちゃんと雇うと魔術師ってすげえ高いんだろうな。
親方はあの子供にいくら払ったんだろう。
そういや、大縄の金も追加で払っといてもらわないといけない。伝えるのを忘れないように気をつけよう。
さすがに一日では終わらなかったので、三人は一度帰っていった。
主塔の間に大縄が張られ、橋げたが吊り下げられ、更には歩きやすいように縦板も渡された。
縦板は重量が増すので最初は考えていなかったが、大縄が丈夫だというので渡りやすくするために足しておいた。
それでも、ほんの二、三日ですべての作業が終わってしまった。
「よっしゃあ! 完成だ!」
「お疲れ様ー」
「やったね〜」
「おう、お前らもありがとな。いやあ、結局親方は来なかったな。まあ、これだけ早くできあがっちまうなんて思ってもないだろうからな」
さすがに親方もこれは予想外だろう。
あの厳ついヒゲ面が驚く顔が目に見えるようだ。
「お、明るくなってきたか。そろそろ夜が明けるな。……あれ、なんで夜中に作業してたんだっけ?」
「もうすぐ完成するところだったからじゃない」
「そうだったっけか」
おかしいな。そういう無理は絶対にしないように教えられてきたはずなのに。
そもそも、俺は今までずっと、いつ作業をしてたんだ?
「お兄さん、いい仕事だったよ。親方さんはもちろん、誰が見たって立派な橋だね」
急に仕事を褒められる。
実際の作業はほとんど任せてしまったから、自画自賛かね。
「おう、当たり前だ。お前らもありがとよ。そういえば、聞いてなかったけどいくらで雇われたんだ?」
「んー、銅貨一枚」
「その冗談はつまらねえなあ。それなら次も頼んじまうぞ」
まあいい。親方に聞けばわかる話だ。
「うん、その時はよろしくね」
「バイバイ」
「さよなら。お気を付けて」
朝日がまぶしい。
逆光のせいか、三人の顔がよく見えない。
「一仕事終わったせいか、体が変に軽いな……。あれ、どっちに行くんだっけ?」
「そうだね……。一番、まぶしい方かな」
「お、そうか……。ああ、本当だ。やっときたのか……親方が呼んでらあ」
◇ ◇ ◇
「お疲れ様。一人前になったお祝いと、新しい門出に」
立派な尻尾を持った獣人の少女は、橋のそばにある小さな苔むした墓に酒をかける。
通る者のない古い道にいつの間にか架けられた橋は、事情を知るわずかな者を除いた、大勢の人々の首を傾げさせた。
下流にある立派な橋が豪雨による鉄砲水で流された年、幾人かが感謝の言葉とともにその吊り橋を渡ったという。




