113 ナポリタへあいさつ
「あなたたち、貴族からの指名依頼多いわね……そういう仕事中心にやってくつもりなの?」
「別にそういうわけでもないんですけど、一回名前覚えられると、紹介されたり、頼まれちゃったりして……」
「貴族出身でもないのに珍しいわよ。じゃあ、薬の作り方の調査と材料の調達ね。これであなたたち二人もDランクよ。もうわかってたから手続きも終わってるわ」
「ありがと」
「ありがとーございます。じゃあ、これからナポリタだねー」
受付嬢さんが何かに気がついたような顔をする。
「もしかしてクマ狩り?」
「あれ、今年も春の狩りやってるんですか?」
「ああ、ごめん。違ったのね。クマ狩りの方は明日からやることになってたはずよ。今から行っても着くまで三日はかかるものね。間に合わないでしょ。どうしてもやるなら途中参加になるわよ」
春に何らかの理由でクマが山から下りてくると、町の付近まで魔物などが追いやられるので、狩りをしながらクマを追い返したり狩ったりするのだ。
二年前は、それでしばらく町の外に採集に出られなかったことがある。
ギルドを出てから、チアが話しかけてきた。
「もちろん参加するんだよね」
「うん。孤児院の採集組のためにも、ちょっとがんばっちゃおうか。おりんもいいよね」
「ええ、もちろんです」
あまり目立たないように道から外れたところで魔道具の靴の力で一気に加速してナポリタまで移動した。
多少見られて噂になっても、しばらくこの国を離れるので問題なかろうなのだ。
変な妖怪のうわさとかが生まれるかもしれないな。
孤児院や風の探索者の宿舎の前に、冒険者ギルドを訪ねた。
例の魔物狩りは、Dランク以上の依頼になっていた。
上がったばかりだから、ぎりぎりセーフだ。
受付のおじさんは子供三人組のわたしたちに心配そうな顔をしていたが、他の参加者リストらしきものをめくったあとに手続きをしてくれた。
依頼を受けて、改めて孤児院へ向かう。
採集に出れないので、定食屋でバイトしているグラノラ以外はみんな揃っていた。
「みんな、元気にしてた?」
「ロロだー」「チアだー」「お土産あるー?」
わちゃわちゃやってきた子たちに、どどんとパウンドケーキを出してあげる。
夕ご飯までは時間があるので大丈夫だろう。
夕ごはん用には三人で食べていてもほとんど減っていない鹿の魔物ジャングル・キュリネイア入りのシチューを用意してある。
「そら、ここにいない子も呼んできな」
「やったー」「ガスパルどこー」「ソフォラ、どこ行った? 来いよー。ロロがパン持ってきたぞー」
年少組がにぎやかな声を残して飛び出していく。
パンじゃないよ。ケーキをお食べ。
「おかえり。私たちもいいの?」
「いいけど、先にみんなの手を洗わせて。わたしは飲み物出しとくから」
「おう、わかった」
卒業組のグラクティブとハルトマン、ルーンベルが子供たちを追いかけていった。
少しすると、『風の探索者』の四人やいなかった子を一緒に連れて戻ってきた。
子供たちみんなが早速パウンドケーキにむらがっていく。
元冒険者の『風の探索者』やグラクティブたちは、パウンドケーキよりこちらの近況が気になったようだ。
「夏ぶりだね。順調かい?」
「ヴィヴィも久しぶり。わたしたちはDランクになったよ」
「もうDランクなのか……。俺たちはまだEランクだ」
ハルトマンがうらやましそうな顔をする。
「ギルドの仕事メインにやってるって考えたら、わたしらも特別早くはないよ。三人はまだ修行メインだし、戦えるようになってから、本格的にやり始めたら案外遠くないと思うよ」
「そうだな。Dランクになるには、最低限実力を示せる実績がいる。そこをクリアできるなら、時間はそれほどかからないはずだ」
元ギルドの臨時職員だったキセロが補足する。
「実績か……ロロたちは何を狩ったんだ?」
「チアはオークとアックスビークとゴブリンとアザラシスライム!」
「わたしもオークなんかだね。おりんはシルバーエッジを狩って先にもうCランクになってるけど」
卒業組の三人がわたしたちを驚いた顔でわたしたちをまじまじと見る。
『風の探索者』の面々もおりんに少し感心したような目を向けた。
「……ロロはともかく、チアもオークを? 大丈夫だったか? 危なくなかったか?」
「冷やっとしたところもあったけど……まあ、チアにもいい師匠がついたからね」
オークキングの不意打ちの時は、ちょっと危なかった。
「しかし、先を越されてるなあ……。そうそう、みんないるのは外に今出れないからなんだ。またクマらしいぜ」
「知ってるよ。わたしらもクマ狩りに参加するもん」
「ホントに!? ……危なくないか?」
「参加者は結構いるらしいが、気をつけろよ」
「うん、ありがと」
ストラミネアは獣人の村付近にあるわたしが大昔に作った遺跡もどきをチェックしに行っているので、今回は同行していない。
もしいたら、夜中にやっといてとでも言えば、わたしらがやることは何一つなく、ストラミネアが山の魔物を一掃してしまうだろう。
「三人でやってるんだよな? パーティーの名前とかもうあるのか?」
ハルトマンが期待した顔で聞いてきた。
「ん? 今だと王都Cランク以下混合90番、だったかな」
「それ、割り振られるやつだろ。もうちょっとカッコいい名前とかつけないのか?」
「……ナポリタ孤児院卒業班とか?」
「ああ、行方不明の時は身元がわかると便利ですもんね」
「合理性のかたまり!」
ところで、後ろでパウンドケーキがどんどんなくなっていってるけど大丈夫かな。
「グラクティブたちも食べてきたら?」
「ん、そうだな。少しもらうか」
「あまーい」「おいしー」「じゅーすもあまーい」
「……あれ、もしかして甘いの?」
みんなのリアクションに、ようやくルーンベルも気付いたらしい。小さい子に譲って我慢してるのかと思った。
「ケーキと柑橘系のジュースだもん。そりゃ甘いよ」
「ちょっと、全部食べないで! 私まだだから!」
甘いお菓子だったと知って、慌ててテーブルに向かって行った。




