火縄銃の生産
今回も短いです。
下野国 祇園城 小山晴長
「ほう、これは遜色ないな」
平兵衛から受け取った火縄銃を試し撃ちしたところ、以前大陸から購入した火縄銃の感覚にかなり近い。見事に火縄銃を再現できていることに感嘆の息が漏れる。
「素晴らしい出来だ、平兵衛。よくやってくれた」
火縄銃の出来を褒め称えると、平兵衛は嬉しそうに破顔する。
「そりゃ何よりですぜ。見たことない構造だったが、螺子よりは簡単に再現できたぞ」
「流石というべきか。これを量産することは可能か?」
「できるか否かで言えばできる。銃の構造自体は里の奴らでも再現できたからな。馬鹿みてえな数じゃなければ納品できるぜ」
平兵衛だけでなく、里の人間も銃の構造を理解しているとは驚いた。さすがは踏鞴戸の里だ。
「なるほど。ではひとまず、十ほど頼めるか?」
「おうよ」
とりあえず火縄銃の量産は目処がたった。問題は火薬と銃弾の確保になる。火薬に関しては各地で生産している分でしか補充はできないだろう。可能ならば大陸から輸入したいが、それは非現実的だ。
そして弾丸。その材料である鉛の交易だが先日進展があった。長年工作を続けた甲斐があって、ついに北飛騨の江馬時経との接触に成功したのだ。
時経は初め下野から人が訪ねてきたことを訝しんでいたようだが、三木直頼と姉小路家の紹介もあって話に応じてくれたようだ。
鉛の交易についても話が通ったようで、時経の許可が下りたが、ここからが難題だ。
鉛を買えたのは良い。だがどのように下野まで輸送するべきか。北飛騨からならば越中に抜けてから信濃、上野を経由するのが一番だが、厄介なのは信濃の一部と上野が敵対する山内上杉の領土ということだ。
おそらく関所がいくつかあるだろうが、その際に下野への、特に小山への品物と露見してしまった場合、可能性は高くないが、荷物を奪われる危険があった。もしそうなれば小山にとって痛手となる。そう考えると、確実に下野に到着する経路を探さなくてはならない。
家臣らと相談した結果、一部の鉛を越中経由の陸路で運び、残りを飛騨から美濃、尾張と南下して海路で古河まで輸送、そこから下野に持ち込む経路を使うことにした。
美濃や尾張を経由するのは膨大な費用がかかるが、確実に下野に持ち込むためには割り切るしかない。一応港として利用予定である尾張の津島を支配する織田信秀に書状をしたためる。彼は守護代織田大和家の家臣筋だが、実質的な尾張の支配者だ。念の為、話を通した方がいいだろう。
「しかし本当によろしいのですか。かなり費用が嵩みますが」
三郎太が心配そうに話しかける。
「正直痛いことは痛い。だが将来得る利益のことを考えれば投資みたいなものよ」
「それほど鉄砲のことを買っているのですね」
「ああ、数が揃えば戦が変わるぞ。木砲のようにな」
そのためにも今は資源を集める時期だ。無駄使いというわけではないが、ある程度銭をばら撒く必要がある。
それから月日が流れ、一五四二年秋。鉛の交易も始まり、鉛の第一陣が飛騨を出発した頃、下野では次代を担う若者の元服がおこなわれていた。
今年元服するのは政景叔父上の嫡男獅子丸だ。叔父上と藤岡の娘の間に生まれた獅子丸は齢十五を迎えていた。そして無事に元服を終えると名を藤四郎景康と改めた。
景康は今後政景叔父上のもとで研鑽を積み、いずれは跡取りとして小山家を支えてもらう予定だ。まだ初陣は飾れていないらしいが、いずれ機会があるだろう。
翌年には景康の異母弟笹竹丸の元服が控えている。皆川の娘を母に持つ笹竹丸は元服後に皆川の名を名乗らせるつもりでいる。
皆川宗家はかつて竹丸の死によって断絶したが、下野での名門ということもあって再興させることにした。尤も下野北部に皆川は残っているが。あれは討伐しようにも山奥が過ぎるので蘆名に任せても良い気がする。
世代交代の波は確実に小山にも吹いていた。
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