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上三川城落城

 下野国 祇園城 小山晴長


「そうか、上三川城が落ちたか」



 勘助からの伝令によって祇園城に上三川城落城の報が届く。上三川城主今泉泰高以下重臣と泰高の妻子は上三川城三の丸に建てられた今泉家の菩提寺である長泉寺で自刃を遂げた。上三川城は勘助の火攻めで大半が燃えたそうだが、幸いにも本丸と長泉寺、そして城下には延焼しなかったらしい。


 俺は伝令に泰高らを丁重に葬るよう命じる。泰高には落合郷での戦いで辛酸を舐めさせられたが、死ねば敵味方関係ないということや彼らの最期が見事であったことに敬意を示すためでもある。また上三川の領民たちも長年自分たちの殿だった今泉家を丁重に弔えば小山に余計な敵対心を抱かないだろうし、今後の統治に悪影響が及ぶ可能性も低くなる。


 一方で黒須彦左衛門が上三川城から脱出した落合業親を取り逃がしたとのこと。人数では有利だったにもかかわらず業親の武勇にひるみ逃走を許したらしい。女子供連れで進軍速度が速くなかった相手を逃がしてしまった黒須の不甲斐なさに溜息をつきたくなるが寝返りの功もありこの件は不問にすることにした。ただこれで戦功は帳消しになるがな。せめて業親だけでも討ち取っておけば多少の褒美は出たであろうに。奴は所領安堵だけだな。


 正直勘助が内通させた黒須とやらを俺は高く評価していなかった。泰高と不仲だという理由だけで簡単に小山に寝返ったこともそうだが、どうやら不相応な野心も抱いているらしい。黒須は寝返りと上三川城落城の暁に上三川城主の座を所望したようだが、勘助に一蹴されて諦めたとのこと。だが不相応な願望を迂闊に口にするあたり、そこまで使える人材でもなさそうだ。今はまだ利用価値はあるが、さてどうしたものか。


 逃げた業親は上三川城の北西に位置する石田館に向かったらしい。勘助からはそのまま追撃して石田館を落とすかどうか打診があったが、俺はそれを止めて燃えた上三川城の再築を優先するように指示を出す。


 石田館を落とそうと動けば宇都宮城から救援がやってくる可能性があり、そのまま上三川城までこられたら焼けた城での防戦を強いられることになる。ならば先に宇都宮の襲撃に備えて上三川城を再築するのが最優先だと判断した。業親を逃がすのは正直よろしくないが仕方あるまい。深追いして宇都宮の本隊がやってくれば業親どころではなくなるのだ。業親が今後も小山の前に立ちふさがることに辟易しつつも、泰高を討ち取り上三川城を確保できたことは十分な戦果であると評価しなければならない。



「ついに上三川城が落ちましたな」



 朗報を受け取った八郎らは喜びを隠せていないようだったが、俺はここからが本番だと考えていた。上三川城落城が嬉しくないわけではないが、上三川城が落ちたということは宇都宮城の南の防衛拠点がすべて小山の手に落ちたということだ。宇都宮城―上三川城間にも支城はあるがどれも館や砦のような小規模なものばかりだ。


 宇都宮にとって上三川城を失ったことは大きな痛手となる。だからこそ間違いなく宇都宮は上三川城の奪回に動いてくるはずだ。その優先度は芳賀や那須よりも高くなる。今後は上三川城を巡って激しい戦いが起きるだろう。それに備えるためにも今までの軍備を見直して再編成をおこなうことが必要になってくる。資金も揃ってきたのでそろそろ常備兵を導入してもいいかもしれない。



「油断するな、これからが本番だぞ。せっかく落とした上三川城を奪われてはならぬ」


「ははっ」


「これから上三川城を巡っては宇都宮との間で何度も戦になるはずだ。勝てれば宇都宮城への足掛かりができるが、負けて上三川城を奪われれば宇都宮は上三川城を拠点に小山の城を攻めてくるだろう。上三川城がどちらの手に落ちるかによって今後の情勢が決まるといっても過言ではない」



 俺の言葉で喜びを隠しきれずにいた家臣たちの表情が引き締まる。彼らも上三川城防衛がどれだけ重要なのか理解したのだ。



「ではその上三川城は誰に守らせましょうか?」


「そうだな、対宇都宮の最前線になるだけに戦巧者に任せたいが、同時に上三川城は鬼怒川に面していることもあって経済の拠点にもなりうる。ただの前線拠点にするには勿体ない立地だ。それを考えると、施策にも通じている者が理想になるな」



 そう考えると、上三川城にはある程度信用できる人物を配しておきたい。弦九郎は器量はあるがまだ若く経験も少ない。資清も十分任せられるが、小山での功績をもう少し積ませたいところ。他の重臣は実績こそあるがこの大事な拠点を任せるには少し決め手に欠けるし、他の拠点からの異動となるので後任探しもしないといけない。どこかに実績十分で戦に長ける人物は……いや、いたな。


 俺は勘助らの報告をもとに書状で上三川城にいる勘助らの論功行賞を記し、一〇〇〇に満たない兵で上三川城を落とした勘助には家禄の加増と正式に侍大将へ昇進させた。平三郎や九郎三郎にもそれぞれの活躍を汲んで褒賞を与える。そして書状の最後にあることを記していた。


 山本勘助治幸を上三川城主に任ずる、と。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 小山家は総兵力はどの程度なんですか?
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