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亡霊×少年少女  作者: 雨霧パレット
太陽の魔女
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狡猾な女王蜂

きらびやかなクリスタルパレス上階にあるいつもの一室で、鷹乃はひとり湯浴みを楽しんでいた。

邪魔くさいしきたりに縛られた存在の、姫巫女はもういない。

しかし絶対王者となったいまでも、この部屋には侍女をひとりも通さない。

多少の不便を感じるときもあるが、決して敵が少なくない鷹乃にとっては都合がいいときの方が多分にある。

「ふふ……」

上等な石鹸から香る豊かな薔薇の芳香と泡を、肌と鼻腔で存分に堪能して微笑む。

開け放たれた巨大な天窓の外、広大なる星空の北側では、流れ星が一筋だけ輝いた。

だが目蓋を閉じている鷹乃には、その儚くも美しい光景は見えていない。視えているのは遠き《豊かの海》にいるはずの、彼女だった。

「カグヤちゃん……あなた最高よ、流石だわ。ゾクゾクしちゃう」

右腕を伸ばし、左手で優雅になぞるように薄紅色の泡を延ばす。

細く引き締まった優美な腕の筋肉が、湯の熱でやや不規則に揺れる蝋燭の光に照らされ、ひどく艶めかしい。

頬の紅潮は、決して熱い湯に浸かっているからではない。

猫足の湯船近くに置いた小さい円卓から、カグヤから奪った能力……拳大の美しい(ざく)()(いし)を手に取った。

ぺろりと、赤い舌で石を撫でるように舐めて、ひとりでに蠱惑的な笑みを浮かべる。

————この石を使えば(かご)(ひと)のわたくしにも、こんなに簡単に『予見』ができる。素晴らしい、ワンダフル。

もちろん制限があるが、《プロジェクト》の遂行にはとりあえず差し支えないでしょう。ただ……。

鷹乃はもう一度、目蓋を閉じて深く意識を集中させた。

だが、望んでいる光景は視ることが叶わず、徒労に終わったことでため息をついた。

この場で唯一の懸念材料は、白の門の向こうへ消えたあの男……ヨルムンガンドだ。

彼が『門の向こう側』でいったいなにを企んでいるのか、ことと次第によっては抹殺も考えねばならない。いや、おそらくその道しかない。

「残念ね……割と気に入ってたのに」

身体の相性はもちろん、顔も性格も、頭の回転が速いところも。

でも、だからこそ駒としては扱いにくい面もあることは、鷹乃もよくわかっていたことだ。

彼はいつか遠い未来で、最大の敵として自分と対面することになるだろう。どちらが魔王でどちらが勇者なのかは、言わずもがな。

そのリスクを承知して負った上で彼を飼っていたのだ、いまさら文句は言えまい。

「さて……いったいどうしましょ」

トプン、と泡と湯があふれそうな湯船に身をゆだねる。

職人技が効いた優しく丸い陶器の(へり)に頭を預けて、白い天井を仰ぐ。

湯気が立ちこめる様子を観察してから、やがて鷹乃は見る人からしたらひんやりとした薄ら寒さすら感じる微笑みを浮かべた。

「うーん……キングが積極的なチェスも、なかなかスリルがあっていいですよね」

ぽつりとなにげなくひとりごちて、湯船からあがった。

ゲームにはある程度のスリルが付きものである、が鷹乃の持論だ。

スリルのないゲームなど、ただの作業でしかない。

鷹乃はそういう煩わしいだけの作業は嫌いだ。だから。

————そろそろこのせかいにも、飽きてきましたしね。まぁ……いいでしょう。

鷹乃は大判の手ぬぐいを身体に緩やかに巻きつけて、躊躇いなく湯船の底にはまっている栓を抜いた。

湯船に張った湯が、勢いよく音を立てて下水道を潜る音が石造りの壁に反響する。

その様子を、鷹乃は――――太陽の魔女アマテラスは。

頬を紅潮させて満足げに眺めている。

「新しいゲーム盤の上に立つのは、いつだってなかなか勇気がいりますね」


鷹乃さんはなかなか腹を割って話してくれません。

嫌われているのでしょうか?( ´・ω・`)

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