アマテラスとツクヨミ
亡霊×少年少女
第四話『神ノ帝国』
諸説はさまざまだが、日本書紀に登場する神のイザナギとイザナミの間には、ふたりの子供がいたとされている。
兄の名はアマテラス、弟はツクヨミ。
ふたりは誕生の祝いとしてそれぞれ、父のイザナギから異なる神の力を賜っていた。
兄のアマテラスは何度でも生まれ変われる永遠の命を、ツクヨミは万物を生み出す神の御術を。
優しき心を持ったツクヨミは神の御術を、民草のために分け隔てなく使い、皆に愛されていた。
病気や怪我をしている者には、慈愛の癒しを。
いまにも枯れそうな草木には、恵みの雨を。
破壊された物には再生を約束し、ときに————死者には永久の生すらも、必ず約束した。
全知全能なる神たらしめるその力は、多くの民を魅了し、敬虔なる崇拝を集める。
しかし生まれながらに嫉妬心と征服欲の強いアマテラスは、それを面白く思っていなかった。
なぜ父は神の御術を弟に授けたのか。
なぜわたくしには、永遠の命などというくだらないものを寄越したのか。
どうしてわたくしには、戦う力を与えてくださらなかったのか。
悔しいと、憎いと歯噛みした。
わたくしであれば、ツクヨミなんかよりもっと上手く使ってみせる。
父上の隣に立って、戦うことだってできる。いずれは父上の跡を継ぐ事だって、わたくしには……。
————神の御術を得る真にふさわしき者は、このわたくしだ……っ‼︎
自分は偉大な父のその跡を継ぐに、誰よりも相応しいはずだ。羨望の目を、崇敬を集めるに値するのは自分のはずだ。
しかし事実、アマテラスは永遠の命以外に、特別な力はなんら与えられていない。神の子であるにもかかわらず、アマテラスは無力だ。
しかし考えてみろ。
悪鬼たちは皆一様に、《神の御術ではないなにか》を使っているではないか。
あの餓鬼どもに力があって、わたくしに無いはずがない。
アマテラスは苦心に苦心をを重ね、ただただツクヨミへの憎悪と自分勝手な嫉妬心を重ね合わせ。
長い長い時間をかけてついに、《悪の御術》を完成せしめた。
『陰陽術』とアマテラス自ら名付けたそれは、大地を枯らし、生命を残忍に奪い、せかいをひと息で常闇に変えた。
ツクヨミをその《悪の御術》をもって殺し、アマテラスは望んでいたせかいのすべてを手に入れる。
太陽や月さえも、小さな星々に至るまで。この遍く森羅万象の全てさえ支配してみせる。
月光虫の光でどうにか照らされたせかいで、残ったひとびとはアマテラスを怖れ、口々にこう呼んでいた。
————『太陽の魔女』と。
その忌み名を物ともせず、彼は残虐の限りを尽くした。
自らの父であるイザナギに処刑されてなお、アマテラスはその与えられた命で生き長らえる。————すべての記憶を留めたまま。
アマテラスの生命の炎は、いまも太陽のごとく熱く燃え滾り続けている。
その炎を消す英雄は、果たして誰なのだろうか。




