表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン作成記  作者: MS
第二章
24/102

二章第二話

 城塞都市ハルから出立した隊商の荷物は食料品が主だ。

 本来ならヌイ帝国内で生産された布物を運ぶのだが、平時には取り扱わない食料品を運ぶのも、利に聡い商人ならではである。所属しているギルドの取り扱い品以外を運ぶのは禁じられているのだが、抜け道はあるし儲けの為に多少の危ない橋は渡るのが交易商だ。

 複数の交易商からなる隊商は馬車が十台、護衛の傭兵や労働奴隷を合わせ百名近い人数となる。小魚が群れを作り身を守る様に、商人達も力を合わせ危機回避と経費削減に励んだ結果だ。

 その隊商を交易路傍らの森から観察する存在があった。


 隊商に見つからない様に偽装を施した、小鬼ゴブリンは森奥へとゆっくりと下がっていく。

 隊商からの発見されぬ様に注意しながら、だったので詳しくは観察出来なかったが。

 創造主である彼からの指示でゴブリンのランは隊商を偵察。確認できた武装した人間は四十近く。

 気付かれぬ様に慎重に、離れた場所で待つ彼の元へと急ぐのだった。



 彼の地下迷宮から交易路までは流れが穏やかな小川を二本越えた先にある。

 小川が比較的に近い故に交易路が出来たのだろう。

 現状の彼の戦力は骸骨兵が十一体、小鬼が四匹。

 ホムンクルスと水精霊は迷宮で留守番だ。

 彼自身を加えても数は十六。

 周辺の調査と道作りは一応の終息をむかえた。結果を述べれば魔物の群れの痕跡は発見出来ず。猪や兎、野鳥等を狩る事に成功する。それらは褒美として小鬼達に与えた。

 残念ながら動物を殺してもポイント加算はならなかった、が結果的に彼に交易商襲撃を決断させる事に。

 隠し扉を発見可能な程の存在が近くに居ない事もあり、防衛要員は残さずに出て来た。

 迷宮と交易路のほぼ中間にある小川近くに簡易拠点を築き、偵察を任せたランの帰還を待っていた。

 柔軟皮鎧の上にフード付きの黒いローブ、さらに緑に染められたマント。

 発見された時の為に、フードを深くかぶり口や鼻を布で覆い隠している。

 骸骨兵やゴブリンも武装の上から緑色のマントをまとい迷彩としていた。

 彼の思惑として、交易商は全滅させ情報漏洩を防ぐつもりだ。

 隊商は荷馬車が一台から二台、護衛は四人から八人。商人や使用人も同数ぐらい、と予想している。

 彼の周囲を囲む様に伏せている骸骨弓兵の手にあるのは小弓ショートボウでなく、機械式弓クロスボウだ。

 甲冑すら貫通する威力があり、この武器と続いて登場した銃が戦場の花形だった騎士を消し去った。

 ウウゥル大陸では魔術付与で強度等の強化がある為に戦闘職として騎士の地位は高い。

 弓の様に使用者の筋力に左右されずに高い攻撃力を持つ。女性や筋力に不安がある者に好んで使用される武器の一つだ。

 クロスボウで奇襲し、馬等の足を潰し様子を見る。僧侶が居るならば、近接戦闘はせずショートボウを使い射殺す。

 その後に骸骨兵を突入させ、自分もゴブリンを護衛に援護だ。

 草むらや茂みを掻き分ける音をたてながら――誤認されぬ様にわざとだ――ランが戻って来た。



 ランから報告を受けた後、労う為に食事に。

 煙が出るのを嫌った彼の意向で、火の使用を禁じ。故にゴブリンは野菜を生でパンと一緒にかじりついている。

 どちらかといえば肉を好むゴブリンだが今の処、不平や不満はみられない。

 改めて考えてみれば交易路として成立しているのだ、襲撃元になる魔物の群れ等狩りつくされたのだろう。

 盗賊の真似事、いや皆殺しが前提にあるので強盗か?

 準備を整えた最終段階になっても、いまだに迷いがある。食欲も落ちているが、パンを無理やり水で胃に流し込む様に食べる。

 食事内容は彼もゴブリンも一緒だ。やはり映画か小説の知識だが兵と同じ食事をし支持を得る、を実践しているのだ。

 個人としての記憶がない、という事は親等の家族や学校、仕事で経験し身につけたはずの人付き合いの仕方や要領も無くしてしまった事に。

 故にあやふやな知識でも試して反応を伺うしかない。

 記憶が残っていれば、もう少し要領良く動けただろうか?

 そんな思いを抱きながら試行錯誤する彼だった。



 今回発見した隊商の襲撃は見送る。

 数が多すぎて返り討ちの可能性が高い、加えて取り逃がしが出るのが目に見えているからだ。

 無謀と勇気は違う。イース達骸骨兵も、ラン達ゴブリンも彼は愛着が芽生えていた。必要ならば死ねと命じるが、悪戯に消費する気はない。


「ハブ、マリ」

「「へい(はい)、親分」」


 食事を終えたゴブリンを呼び寄せる。

 他のゴブリンと変わらぬ、土色の肌に赤い瞳。気が弱い者ならば腰を抜かすか、漏らしかねぬ凶相。


「地下迷宮に戻り食料を運べ」

「へい。じゃあ取りに戻ってきやす」


 運搬用の背嚢を空にし、背負うと急ぎ二匹は迷宮に向かう。

 刹那的にエレナ達の安全確保に骸骨兵も同行させるか、との考えも浮かぶが却下する。

 何かしら裏切る兆候があるならまだしも、無闇に疑うのも逆に不信を育てるだろう。

 無くした、いや消された記憶の中で手酷い裏切りでも経験したのだろうか?

 それか元々疑い深い人格だったのだろうか?

 思考を切り替え、これから先を考える。ゴブリンを補給に戻したのも長期戦を睨んでの事だ。

 食事中は脱いでいたフード等を再び被り、この様な事を考え時間を潰す。

 傍らには骸骨兵長イースが無言、不動で控えている。残ったゴブリンのランとヤン以外は木の上や影に身を潜めて警戒していた。

 ちらちらと彼を伺うヤン、黙々と食事の後片付けをするラン。


「ラン」

「はい、親分」

「ヤンを連れ、何か狩ってこい」

「わかりやした。ヤン行くぞ」

「へ、へいっ!」


 ヤンの視線に気付き、ランと共に仕事を命じる。

 獲物が狩れても、狩れなくても別に構わない。骸骨兵と違い疲労等があるゴブリンが、創造主である彼の側では休めぬだろうと体よく離しただけだ。


 初の実戦、人殺しが先伸ばしになり安堵するが、覚悟が揺れてしまい苛立ちもする。

 そんな矛盾を感じながらも思考を進める彼。

 ポイントを稼ぎ迷宮を育て、魔物を増やさねば。

 そして迷宮心臓部の宝石を狙う存在に対抗可能な力を蓄える。

 その為に罪もない交易商や旅人を襲い、殺さなければならない。

 これが宝石を狙う相手なら、ここまで迷ったりもしないと思うのだが。

 深く考え込む彼に、イースの闇を宿した眼孔が向けられていた。

 風で揺れる枝、鳥や虫の鳴き声、川のせせらぎ。

 森の中に自然と作られた広場にある、簡易拠点に聞こえる音はそれぐらいだ。

 傍らにスケルトンが存在しないならば、森林浴中の旅人と紹介されても納得できるだろう。

 もっともウウゥル大陸に、まだ森林浴の考えや文化はないが。




 襲撃計画が存在する事等知るよしもない、交易商一行はゆっくりと予定通りの日程で行動できていた。

 護衛の傭兵達も過度の緊張もなく、しかし油断もなく警戒している。

 ヌイ、フルゥスターリ間は逆に安全で帝国内がかえって警戒と注意を払わなければならない。

 人間の常として四六時中緊張を持って行動は出来ない、緩める所は緩めねば。

 彼らが一行がハルを出立してから晴天が続き、長距離移動が多い交易商達を喜ばせていた。これで商談も上手くいけばいう事なしなのだが。

 内乱等で本業の布商の仕入れが厳しくなっており、彼らに危ない橋を渡らせている要因の一つだ。

 この一行の旅は安全に終わりそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ