1-3-A4:例えば異世界で無双ハーレムが出来なくもない奴が日本に帰ってくる場合の理由
MADTOWNに時間を破壊されています
構成力が足りず3で終わらなかったのでよもやよもやのA4突入
「……この時期に、鍋?」
「人数増えたから誤魔化し効くかなって」
「別の誤魔化しは済んでませんけど? 後で詳細は聞くからね?」
あれ以上質問攻めにされても埒が明かない。ので、強制的に話を打ち切るべく台所から昼食を持って現れた訳だが、エミが作っていたのは鍋だった。
多少冷めていたので軽く温めた後、保温一時間表示の白米を茶碗に3つ盛り付け、取り皿用の空の器達と共に空気でいっぺんに掴んでリビングに持っていく。直で触ると熱いものも、触らず持てるのなら関係無いのだ。
大きな四角テーブルの中央に簡単な敷物を敷き、鍋を着地。未遥さんの隣の辺に移動していたエミの更に隣を自分の席とし、コの字のようにそれぞれ囲み、食器他を並べていく。
向こうじゃ手馴れた動作ではあるけど、よもや母の前で見せることになるとはなぁ……
「ポン酢と刻みネギで良かった?」
「卵も欲しい」
「なら殻の捨て皿も要るか……これで良し」
冷蔵庫から卵を、適当な器をキッチンから飛ばしてキャッチ。雑に渡せばエミさんが満足気な顔をする。……知的好奇心に餓えている未遥さんとは対照的に。
「新君、魔法って私でも使えるようになれるの? それ、凄く家事に便利そうで欲しいんだけど」
「魔力無いからキツイと思います。5~6年は勉強いるんじゃないですかね? 費用対効果はカスとだけ」
「逆に勉強すればいけるの!?」
「知識と練度で使えてるだけで俺も今魔力ほぼ無いので……うし、いただきます」
「「いただきます」」
思えば当然な疑問に簡潔に答えながら、着席して挨拶を一つ。漸くのご飯にありつけるとあって自然と腹が鳴り空腹感が唐突に押し寄せてきた。
鍋の蓋を取れば手頃に切られた野菜達とシメジがメインにこんにちは。白く茹で上がった豚肉が疎らに散り、大きな湯気と食欲を誘う匂いが勢い良く吹き上がる。
うん、実に美味そう。早速取り皿にポン酢とネギを雑に振り、オタマで盛り付けた具材を箸でちゃんと絡めて一口……熱っつ!
「エミちゃんは料理得意なの?」
「うー……ん? 生きるのに困らないレベルだとは思うけど、お菓子とか豪勢なのとかはあまり自信が無いわ……あ、無いです」
「楽な口調でいいわよー? あ、なら今度何か教えましょうか? 特にこの子が好きだった味付けとか」
「……なら崩すけど、私の料理ってそもそもコイツの好きな味しか作れないのよねぇ……」
「…………ほぉう???」
空腹のまま米と鍋をかっこんでいた俺と違って、女子組は会話をしながら鍋をちまちまと突いている様子。若干気になる話題ではあるけれど、口内が熱い物でいっぱいの為言葉を挟めねぇ……! あまりにも行動がガキ過ぎんか俺?
「はむっ──私が料理を覚えたのってアラタと関わるようになってからなんだけど、直に教えたのがコイツだから味付けや調味料の効かせ加減とか全部、コイツの好きな感覚そのまんま覚えちゃってるのよねぇ」
「おい新君? エミちゃんが君専用のお嫁さんとして既に完成しちゃってるんですけど? なんか私の作る物に若干味似てるなぁとか思ってたけど、これはどう責任を取るつもりで?」
「弄りがしつけぇ……」
「凝った物をあまり作らないのもあるけど、手癖で作ると大体コイツの好みに自然と寄ってるの。もうある種の呪いねー」
事実叩き込みはした。そしてエミはレシピ通りにちゃんと料理を作れる人間だった。
……しゃあねぇだろ無人島に遭難してるのに料理の作り方が危なっかしかったんだから!? それで教えて呪いとか言われてもどうしろと!? ……と、極めて叫び返したくはあるのだが、流石にみっともないので不満気な表情を返すに留めておく。
全くこのカプ厨めぇ……掛け算は二次元の中でだけやっててくれよ……!
「……じゃあ逆に聞くけど! なんであなた達それで付き合ってないのよ!?」
「親の逆ギレ!?」
「言っとくけどこれ、恋人どころか熟年夫婦の距離感だからね!? 隣に常に居ても違和感が無いって言うなら、寧ろ相方と付き合わない理由を述べろ気になってご飯が喉を通らねぇ!」
「全然食べてるけど……?」
「あなた白米完食間近ですけど?」
「うるさい! いいから! 別にお互いのこと好きなのは違い無いでしょ!? じゃあ何で恋人になろうとしないの!? そうなってない方がもう逆に不健全よ!? 納得の行く回答が得られるまで私今日帰らないからね!?」
えぇ……どれだけ息子の栄養摂取の邪魔に熱心なの……一向に腹が満たされ……胃小さ過ぎて割と満ちてるわ畜生。マジでなんなのこの体?
てか恋人になろうとしない理由? それそこまでして聞きたいてか深掘りたい話題なの? 事実としてそうじゃないとだけ知っときゃ終わる話だと思うんすけど。
箸を食器の縁に掛けて置き、頬杖を着いて軽く目を閉じ思考する。主にどこまでぶっちゃけるかについてだけど……身内だしまぁいいか?
「……1、憑依型の意識転移タイプだったから、その状態で人と付き合うのは申し訳無いとか以前に、持ち主の魂と貞操が俺の意思一つで歪に穢れされるのが嫌だった」
幾つかある理由の内、これが一番大きなもの。
アラン・アーバント。俺が憑依させられてしまった、世界で最も高潔でカッコイイ少年。彼の命と人生を乗っ取ってるのに、人様の体で恋愛なんて出来るかボケが。
最終的にあの子だけが消えて『アラン』という体を託された日から常日頃罪悪感で息するだけで辛いのに、より加速させるそれは俺にとっちゃブートジョロキアを超える劇薬に他ならない。
"ふむ"と言った感じで聞いている未遥さん。次に話すなら順番的に……
「2、過去の人付き合い+異世界で増えた各種トラウマ。最終的に日本に帰る気だったし、そもそも出来る精神状態じゃ無かったのがある」
これもまた"ふむ"と理解はされる。
別にエミは帰るギリギリで俺を捕捉してきたのであって、そもそも持ち帰ってくる予定は無かったのだ。
魔王討伐戦だかに俺が抜けても大丈夫なよう戦力的な代打は用意したし婚約も解消しておいた。未練を殺し尽くすよう奔走する中、言い方は悪いが現地妻なんて作れる身分にねぇ。
「……待って? トラウマは兎も角他の理由は日本に帰ってきてから全て解決してない?」
「それを踏まえて3、そもそもお互いに恋人をあんまし求めてない。特に俺みたいなカスよか良い人は幾らでもいるだろうし、エミみたいな最高の人間はもっといい奴と付き合うべきじゃね?」
「はい出た身分を理由の盾にウジウジする系主人公特有のいつもの返し! 二次元で親の顔程見てきたからそれ! 破れ鍋に綴じ蓋って言葉ご存知ないオタクかい!?」
もっと親の顔見ろよ、親。
「破れ鍋であることは認めるけど綴じ蓋はエミに失礼では? 別にこの子誰にでも合うぞ」
「新君に合う蓋は多分エミちゃんしか居ないわよ!?」
「だとしたらより合わせなくていいです。俺もう十分過ぎるくらいこの子に救われたから、頼むから自分の幸せ最大化してくれよ」
「なんなの? 新君は自分に自信が無いの!? ただ一緒にいるだけで笑ってくれそうなのに!?」
「それが恋人である必要性無くね?」
「この新感覚令和キッズめ……! 新君に性欲は無いの!?」
「……黙々と私が食べてる中、二人で恥ずかしいこと話すのやめてくれない?」
食事を忘れ親子でヒートアップする俺達と、それを冷ややかな目で一瞥する話題の渦中その人の図。
まだしつこくぐだぐだ言っているが──その疑問の答えこそ、俺が言いたくなくて最後に回したカードそのものなんだ。
恋愛対象に見れるのか? だの、性的な対象に見れるのか? だの、なんで付き合わないの? だの。……ならそれら全てを引っ括めて黙らせられる禁句を、恥を捨てて言えばいいんだろ!?
「……じゃあ最後の理由。これは主観の話じゃなく事実として、エミは恐ろしいくらいの美少女だ。その上性格も良ければ俺のことが種別は置いといて大好きだし、いい匂いもすればスキンシップがノーガードで、スタイルも声も最高ときた」
「惚気? まぁ事実だけど」
「だる」
「こんな風に恥ずかしいと照れ隠しに悪態付くのもただの萌えキャラだし、俺はこんな子と実質中学生から今まで仲良く同棲してる訳でして……もし仮に、いつだろうと俺がエミと付き合い始めたらどうなると思う?」
「どうって──」
「だる。だるこいつ。マジでだるい」等と小さな声で鳴いている萌えキャラさんですが、コイツは本当に自分の魅力を理解しているのだろうか?
はぁ〜……と長い溜息をつき、伏し目がちに視線を逸らす。コの字状にテーブルを囲う最中、向いた方向には誰もいない。
重々しく、そして深刻そうに。エミが中学生頃から彼女になってる世界線の青少年だぞ? そんなんどうなるかなんて、火を見るより明らかだろ……?
「ブーッ……!? ……は?、はぁ!?」
「~~~~ッそれは! そう!」
「なに納得してんの!?」
"ダン!"とこれには流石のエミとて台パンも出ます。
でもこれ俺と未遥さんの反応の方が正しいぞ? じゃあエミさん聞きますけどさァ……!
「エミ。仮に俺と付き合ったとて、急に押し倒されたら抵抗するの?」
「……多分しない、けど」
「一緒に風呂入ろうと言われようが、人目さえ選ぶならいつキスなりセッなりしようがあなたどうせ抵抗しませんよね?」
「~~~~ッしない、けどぉ!」
「──ね? こんな奴と思春期に付き合って一緒に暮らしてたら爛れるに決まってんだろォがァ! そんな不健全な暮らし送ってられるか、この子の青春が壊れるわ!」
「分かった。新君は悪くない。あなたはとても健全かつ高潔な意志の持ち主だわ。思えばこの子は余りにもえっちすぎる……!」
「ねぇ何言ってるの!? 本当に何を言ってるの!?」
──あなたの目の前にはエミがいます。
彼女はとんでもない美少女で、モデルのように飛び抜けたスタイルを持ち、何を頼んでも大抵のことはしてくれます。
さて、あなたは学生ですが、こいつがあなたの彼女です。なんなら同居もしています。この状況であなたはさぁどうする? ……そうだね、十中八九爛れるよね。不健全極まりねぇよボケ! そんな生活この子に送らせられるかよ!?
四六時中薄着だし、距離感はバグってるし、俺が精力を魔力に変換出来なきゃまともに同居なんかしてらんねぇよ。一応俺だって男だぞ?
加えて、同居し始めた当時なんてお互い12~3歳だ。その時期に発育途中のコレが彼女になってたらとか、想像するだけであまりにもえろ過ぎる。
「た、ただ……いやいやいや、てかあんた性欲あったの!?」
「日常生活で邪魔だから常に殺してるだけで別にありますけど? 人間なんで」
「……何故だろう、言ってることはそれはそうなんだけど凄く頭が受け付けない……!」
「彼女が出来れば普通はしたいし、仮にエミならそうなるのでは……?」
「ねぇこれ私が間違ってるの!? あとその他人事みたいな目線はなんなの!?」
「俺には遠い世界の話だし? あ、ご馳走様でした」
「同じく、"ご馳走様"でした」
「……ッお粗末さまでした!」
耳まで赤くしながら半ギレで食器を重ねていくエミ。流石に羞恥心を殺して隠してたカードを切ったまであるな、あまりにも効果覿面だ。
俺とて別に菩薩じゃない。魔法で消せるから消してるだけで、逆説的に消すことが出来る程度にはそもそも性欲は持っている。
まぁあっていい思いをしたことも無ければ、女の子とルームシェアする上で邪魔にしかならんから消してるだけで、肉体が青少年故にもし仮に万が一彼女でも出来ようものなら、頭がピンクなことも普通にしたくなることでしょう。こともあろうに同居してる彼女に対して。
いやね? 同棲してるなら流石に駄目だろ。何とは言わんが某サムシングのハードルが低過ぎる。
この子まだ15だぞ? それに別にお互い付き合う必要性も無いんだぞ? 拒否しないからっつって適当に恋人になって"Lets Go 爛れ"するのはあまりにもエミの人生舐めてるだろ。責任取れるかこの歳から……!
「……えっち」
「未遥さん分かったでしょ? この子のやばさ」
「今の顔と声イラストにしてツイートしたら返信欄に絶対「この後滅茶苦茶コピペ」と「やらしい雰囲気メガネ」が貼られてるわ」
「何言っても揶揄われるのなんなのこの親子!?」
赤面状態で抱えた食器で口元隠しながら流し目かつ、普段明るく元気な子が細い声でそんなこと言ってきたらそらこんな反応にもなるよ。
あまりオタクという弱い生き物を舐めるなよ? 面と向かって叩き付けられる萌えはちゃんとダメージ減衰させないと雑に恋に落ちるから気を付けていけ。
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「……それで? どうして直ぐ私に連絡しなかったの?」
魔法で洗い物を秒殺してきたエミが"これ以上話しかけるなオーラ"を出して部屋の隅で毛布に引き篭る最中、ふとそんな質問が投げかけられた。
……答えないという選択肢ははなから無いけど、流石にこれは恥ずかしいなぁ。
「……これまで未遥さんには滅茶苦茶お世話になってきたじゃないですか」
「うん」
「だからこれ以上迷惑は掛けたくないなっていう、子供みたいな意地ですよ」
顔を背けながら、そっけなくそう話す。
肉親を失い途方に暮れたあの日の俺を有無を言わさず引き取ってくれたこの人に、これ以上何かを進んで頼りたくはない。
きっとこの人は何だろうと頼れば助けてくれるし、それを迷惑だとは思わないのだろう。
そう、そんなことは分かっている。だからこそ連絡に踏み切れなかったのは、言語化してしまえば余りにも情けない、子供の意地でしかない。
「お金は?」
「向こうの物品の換金は終わってます。それとバイトも始めました」
「身分証は?」
「なんとか作れました」
「日用品は?」
「足りない分は都度買い足ししてけば……」
「スマホやベッド、あと女の子なんだから化粧品とか、そこら辺は都合出来るの?」
「……それは」
穏やかな顔で俺の言葉を受け止めた未遥さんは、やがて静かに聞いてきた。
無常なまでの現実問題。返しは用意していたつもりだった。自分でどうにかなると思っていた。
でもいざ聞かれてみれば悲しいくらいに言葉に詰まり、自分でどうにもならない事が俺の口を止めてしまう。
「……いい? 私はね、家で邪魔だったからあなたに一人暮らしを勧めた訳じゃないの。こうして休みが取れたら見に来る程度にはね? 君のこと心配してる。……ちゃんとうちの子だと思ってるんだよ?」
「……」
「聞くね? ──何か困ってることはある?」
諭すような話し方に刺されている。
俺の中での大人のモデルケースは彼女だった。
或いは人間性の見本でもあった彼女は、どれだけ真似しようとしても容易になぞれるようなものじゃない。
大人は子供を守るものだと彼女から学んでいたが故に、当時8歳のアラン君の体に憑依した高校生の俺から見たあの世界は……同年代にあたる子達は皆、遥か年下の守るべき子供達でしかなくて。
良い人間になりたくて異世界で未遥さんのように振る舞った。
困っている子が居れば助けて、手の届く範囲なら何とか救って、立ち塞がる悲劇の運命を破壊して……経験を積んで大人なった気でいたけれど、こうして長年振りに対面してみて分かるのは、敵わないなぁという呆れにも似た笑い。
子供扱いなんてされたのは、果たしていつ以来なんだろう。
「……異世界に七年居て、精神年齢なら多少大人になれたかなぁとか思ってたのに、まだまだガキですかね」
「ジェネレーションギャップに吐血したことない奴を私は大人だと思ってない」
照れ隠しに不貞腐れてみれば、彼女らしく思想の強い謎の返しをされた。
相も変わらず私の母は愛深くおもしれー女である。
キリッとした顔で言い放った途端、何かを思い出したのかシームレスに虚無顔でその場に崩れ落ちるところとか、やっぱ真似したくても出来ねぇよ。
さっきまでの大人ムーブからの落差が酷い、唐突に何?
「……最近彼方ちゃんの学校の話を聞いたんだけど、今の子はVtuberや3Dモデルは知っててもMMDは通じないんだって……寧ろMMDの亜種としてVtuberや3Dモデルがあると認識してたから、それ聞いた時危うく泡吹いて死にかけたわ」
「草とでも言えばいいですか?」
「全盛期が10年以上前? はははそんな訳無いでしょう」
「あなたに叩き込まれたから知ってますけど、MMDの出来た頃って俺まだ生まれてませんよ?」
「かひゅっ……」
彼方ちゃん、俺以上にこの人から英才教育受けてるからなぁ。"MMD? 何それ?"とか中学校で言われてる姿想像したら何か俺も悲しくなってきた。
トドメ刺されて悶絶してる未遥さんであるが、将来俺もこうなるのかなぁとか思ったら寒気してきた。……え、てか待って、これ常識の線引きちゃんとしないとエミも似たような場面に出会すのでは? …………この件を考えるのは後にしよう!
「……てかサラッと流したけど、新君七年も異世界に居たの?」
「ええ、まぁ」
「永住しようとかは思わなかったの?」
「あ! それ私も気になってた!」
話だけは聞いていたらしい。端っこで拗ねていたエミが好奇心全開で急に俺と未遥さんの会話に入ってくる。……気になってた?
「最初はあにめ? や漫画、あとは楽曲とかをもう一度見聞きするために帰りたがってたんだと思ってたけど、別にそんな素振りこっち来てから丸で見せてないわよね? 私に勧めるだけ勧めておいて、自分からは寧ろ遠ざけてない?」
本当によく俺のこと見てるね君? ちょっと一回静かに出来る?
「向こうでの暮らしは快適だったの?」
「お金は死ぬ程あったし、私以外にも仲の良い親友が何人か居たわ。世界そのものを嫌ってはいたけど……なんか理由としてはそれだけじゃ足りてない気がするのよね」
「うーん? でも二次元文化以外に心残りになるようなものあったかしら? 新君恋人以前に友達も少ないわよね?」
「……黙秘していい?」
「「ダメ」」
ちくしょう追求を躱せねぇ、でもこれ話すのクソ恥ずかしいんですけど……!?
エミの推測自体は合っている。確かに俺は二次元文化のためにここに帰ると決意はしていない。時間が経ち過ぎて話の前後が思い出せなかったり、連載を追うまでの当時の情熱が冷めていたり、そもそもエミで忙しかったりと。
諸々の理由で今は後回しに出来るそれらは、俺の本当の帰りたい理由に比べれば些事でしかない。
これを言えるかどうかで言えば別に言える。
ただ、エミはまだギリセーフとして、終わってれのがここに未遥さん居ることなのだ。
居なきゃ普通に話せるけれど、この人が居るからこそ、ここでバラすのが嫌過ぎる……!
「あ、恥ずかしがってる。聞いたらそんなダメなこと?」
「爛れるだのえっちだの、私を散々辱めといて自分だけ逃げようとするのはズルじゃないかな〜? あ♡ら♡た♡ク♡ン♡」
腕掴まれて耳元でエミに猫撫で声で囁かれた。一旦詰みか? これもしかしなくても詰んでるのか?
俺が腰を浮かした瞬間に物理的に捕らえてきたエミさんは、なんとも嗜虐的な笑みを浮かべてらっしゃる。わぁ捕食者の目だぁ、俺今日この場で死ぬのかな?
暫しの逡巡。
逃げられないと、逃がす気は無いと、その体温で以て俺に伝えてくる少女に対し、俺は時間をかけて心に折り合いをつけていく。
何度も深呼吸を繰り返し、殺していくのは羞恥心。
誰の顔も見たくなく、明後日の方向に逸らした顔で。頬の熱さを自覚しながらやがて俺が吐いたのは……
「…………親孝行、出来てないからさ」
そんな、親の前では凡そ絶対に言いたくない理由だった。
「……結局、一番辛い時期に救ってくれたのは今の家族だから、それを忘れて一人異世界で生きてけないって言うか……」
母が死んでから虐待が始まり、やがて牢屋で狂って父が死に、心身共に衰弱していた俺を助けたのは未遥さんと彼方ちゃんだ。
ご飯を貰い、学校に通わせてくれ、そして何も無かった俺に趣味をくれた。
人として扱われず、自我と呼べるものを亡くしていた俺を、人に戻したのは今の家族だった。
それなのに、俺が家族に返せた物はまだ何一つも無い。
この恩を忘れて異世界で暮らす? ふざけるな、そんなこと出来るわけが無いだろう?
快適に暮らせようが、仲のいい友達が出来ようが、金があろうが、モテようが、そんな自分個人の幸福なんざ全てこの人達の幸せに比べれば瑣末事に変わりない。
異世界で定期的に想像していたことがあった。"俺の日本での体はどうなっているんだろう?"と。
俺の過ごした時間分、同じだけの時間が地球でも過ぎていたとしたならば。
折角打ち解けてきた最中だったのに、失踪という形で法的に処理されていたとしたならば。
こんな俺が相手でもきっと悲しんでしまうだろう家族を思う度に、泣いてくれる人達の顔を想う度に、何時だって死にたくなった。
まだ俺は受けた恩を何一つ返せていないというのに、どうして未練が無いと嘯き異世界で暮らしていられようか。
だからこそ俺は研究した。
覇天祭の報酬と私財を徹底的に注ぎ込み、異世界人生の大半を用いて、俺が異世界を渡った当日に戻れる次元渡航魔法を。
日本へ帰還するためのモチベーションはいざ換言してみれば小っ恥ずかしく、故に今まで誰一人として知ることも無い、誰しも持っているだろう普遍的で小さな理由。
『家族への恩返しがしたい』
異世界で叶うことのない夢を追い、今漸く実行の権利を得て、初っ端当の親から「私を頼れ」と言われているこの現状。
情けなさと恥ずかしさが綯い交ぜになって、俺は未だまともに未遥さんの顔が見れずにいる。
どうせ笑い飛ばされるんだろうなぁとか思いながら、小さな声で言い訳のようなことをボソボソと話していると、大きく息を吸いこむ音がした後に──
──などという、悲痛100%の未遥さんの叫びが何故かアパートに児玉した。
……この人は相変わらず発言の文脈が読めねぇなぁ?
お労しや母上
Q.新君とエミが付き合ったらどうなるの?
A.投稿サイトを変えざるをえない(理由はみなまで言うまい)ので恐らく大半の読者はこの作品に出会ってません、感謝して♡
別に付き合おうと思えば多分こいつら中一段階で付き合ってるけど、その場合その年から爛れてます。




