1-3-A3:"何らか"の魔人による関係性アキネイター
風邪で死んでました
「……えーではこれより、被告人・上城新君への裁判を執り行いたいと思います」
「犯罪の嫌疑を自分の母にかけられてるマ?」
「今から幾つか質問をするので正直に……正ッ直に答えてください。因みに黙秘権はありません」
「はぁ……(困惑の相槌)」
動画を逆再生したみたいなヌルっとした動きで元いた位置に戻り、何故か凄く真剣な表情で何事かを無断で始める未遥さん。
謎に醸し出されている"圧"に負け、俺の横に正座し直したエミさんは、少しばかり目元が赤く腫れていた。それでも面が良いのは流石に美少女といったところか、洗面所からタオルを魔法で取り寄せ渡しておく。
いい加減お腹が空いたのだが、これもうおかず冷め始めてないですか? 逃がす気無さそうな未遥さんに若干げんなりしつつも、さても唐突な質問コーナーで俺はしゃあなしに答え始めた。
「じゃあそもそも論、あなた達ってどんな関係?」
「え、相棒?」
「兼、親友です」
即答。後に、タオル越しのくぐもった声が軽い訂正を付け加えた。
とても何か言いたげな顔をした未遥さんだが、「そうなった流れは?」と先ずは主題の進行を第一に選んできた。……さてどう答えたものか?
「多分分かるだろうから例えますけど、俺が行った異世界って最近のナーロッパとかじゃなく、一昔? 前のMF文庫〇的なSF学園物に異世界掛けたみたいな感じで」
「ああ石鹸の系譜ね、ドラグナーがマシンドールでファフニールなバハムート?」
「そうそう、どっちかってとアスタリスクなキャバルリィがワールドブレイクでブレイドダンス」
「学内学外で対抗戦してて優勝したら願いが叶いそう。ああエミちゃんってそれのバディ?」
「そうそのバディ、因みに大会名は覇天祭って言いました」
「何で今までの話からこんな会話に派生出来るの!?」
俺にアニメを叩き込んだのはこの人だ。
「で、その覇天祭って出場条件がありまして。まず中等部は中等部の部、高等部は高等部の部に分かれます」
「そもそもの出場機会は計六回ね」
「で、当然ながら戦闘力毎に生徒にランクが付けられるんですけど、ランク毎に出場コストが設定されます」
「コスト……ああ編成の? チームの合計値が大会の基準値以下じゃないと出場出来ない感じ?」
「はい、とても面倒臭いことに。例えばS級の生徒がチーム組んで出たい場合、残りはS1B1、A2、C3のどれかじゃないとそもそも出場無理です」
「ゲームのレアリティ指定大会か何か? SS級とかは無いの?」
「あるけど生徒は基本的にそこ行けないです」
S級自体、中等部なら学年に一人いれば良い方だ。高等部からはそれなりに増えるらしいけど、だとして戦闘力という一点でSS級は在学中にまず間違いなく届かない。
届く場合というのは三連覇した末に殿堂入り措置としてぶち込まれるような、覇天祭が始まって以来誰も成し遂げなかった記録を打ち立てた時とかだろう。つまり例えば俺。
「……それさ、一般特級呪霊と宿儺がS級の同コストにぶち込まれてるとか無いよね?」
「S級上限2+B級ランク詐欺1がお察しの通り理論値」
「クソゲーでは?」
クソゲーですよ? だからちゃんとクソゲー押し付けたら優勝した訳ですし。
「エミ、君の当時のランク査定は?」
「……中等部一年次はB級(A~S級)、二年でS級最上位?」
「なにその人権最強ユニット」
「最強でしょ? 最強なんですよ。だから相棒にしました」
「我が息子ながら余りにもゲーマーの攻略過ぎる、幼馴染とかに対する情は無いの?」
「これが小説媒体なら幼馴染に初期配布キャラとかルビ振ってそうな未遥さんに言われたくない」
「凄い、何か私が絶対理解しちゃいけなさそうな会話を平然と目の前でしてるこの親子」
うんそうだよー? エミは分からなくていいんだよー? 頼むからこのまま純粋なまま育ってくれお願いだから……!
「……じゃあ、そこからの付き合いなの?」
「まぁ。三年間も一緒に過ごしてれば仲良くもなりますよ」
「ふうん……次の質問、ならその三年間の内どれくらい同居してたの?」
「「…………」」
「どうして同じタイミングで並んで目を逸らすの、カナ?」
やましいことは無い。やましいことは断じて無いよ? 無いですよ? ただ詰め方と質問の角度が怖いだけでね? 普通直前の会話からそんな切り口で突っ込んできますかあなた!?
「まず、まずですね? エミって俺とは別の学園の生徒だったんですよ」
「うん、それで?」
「初等部時代に学園間で交流戦したり、無人島に二人で三ヶ月遭難したり、まぁそれなりの関係値は元々ありましてね?」
「凄く気になる情報が出たけど一旦スルーするとして、うん、それで?」
「……さっきこの子の両親がモンスターのせいで亡くなったって言ったじゃないですか」
「え? う、うん」
「あれ、正確にはエミの両親だけじゃなく地方毎モンスターの大暴走の被害に遭ってまして、この子の学園それで潰れたんですよ」
「………………は?」
ニコニコ顔で圧をかけていた未遥さんの顔が固まった。
「──疎開先というか、編入先があらた君の学園になって、それで仲良い顔見知りがあらた君以外に居なくて……親族が居ない寂しさとか、心細さとか。色々ちょっと心が重い時期にバディに誘われたから、そこから彼に頼んでルームシェアして貰ってました」
「……まぁ幸い好成績取って広めの個人宅貰ってたから、人二人住む分には困りませんでしたけど」
「……エミちゃん」
「はい?」
「ちょっとこっちに来なさい」
「え? は、はい」
唐突な使命に困惑しながら静かに立ち上がり、おっかなびっくりテーブルを回り込んで未遥さんに近付いていく……と、手が触れうる範囲に入った途端、エミが有無すら言えぬまま胸の中に抱き締められた。まるで食虫植物の捕食光景だ。
別に避けられただろうに怪我させぬよう、無抵抗のまま飲み込まれたエミに合掌。何やら顔から哀愁を漂わせているが一旦無視の方向で。
「今日からあなたはうちの子です、私のことはお母さんだと思って甘えてください」
「はい!?」
「……俺と違って虐待はされてないから母を名乗られても困るのでは?」
「ならこの庇護欲はどこで消化しろと!?」
知らねぇよ。
「あ、あの、みはるさん?」
「なぁに? エミちゃん」
「いや、あの、もう別に両親のことは気にしてないっていうか、トラウマは乗り越えたっていうか……その、気にしなくて大丈夫なので」
「私が勝手に気にする。よって暫く離しません」
「理不尽……!」
理不尽に思うよな? それ実は五分前の俺の立場とほぼ同じだぜ?
ああなったら止まらないんだよなあの人、実体験として身に染みてるからよく分かる。だからそんな目で見られても助けないてか助けられないの。大人しく供物やってなさい。
「次の質問、えっちはしたの?」
「これまだ続くのかよ……しないしてないする気もない」
「こんなにこの子可愛いのに!?」
「付き合ってないのにするわけなくね?」
「じゃあ新君はこの子が彼氏連れてきたらだう思うの!?」
「え、普通に嬉しい。エミが選んだ人なら絶対良い人だろうし、頼むから幸せになってくれ」
「ッエミちゃんは!? 新君に彼女が出来たら!?」
「寧ろ私が作らせるために来てますけど。こいつ自分からまるで幸せになろうとしないんで」
「マジかよ初耳」
「手ぇ繋いでドキドキとかは!? 超至近距離で目ぇ見つめ合ってドキドキとかは!?」
「「今更?」」
「関節キスは!?」
「「え、今更?」」
「じゃあ! 一緒にお風呂に入ってもあんた達興奮しないの!?」
「「え、今更……?」」
「ダメだコイツら!!! まるで恋愛に発展する気概が無い!!! 誰かちょっといやらしい雰囲気にしてくれよ!!!」
「あなたはなにをいっている?」
インターネットカルタ未履修のエミさんがひらがな発音で本気で未遥さんの頭を心配しておられる。そうだね、怖いよね、唐突に脈絡の無いやばい発言飛んできたら。平然と日常会話にミームを混ぜるな。
息を荒くして捲し立てていた未遥さんは、一度落ち着かせるように大きく息を吐いた。
意図してない物ではあるんだろうけど、それが真下で膝枕(強制)されているエミの耳辺りに直撃して悶絶しているのが少し面白い。
「えぇ……本当に何も無いの?」
「未遥さんの頭がpixiv過ぎるだけで本当に何も無いですって」
「ねぇサラッと刺さないで新君? 今久々に効くの貰ったよお母さん?」
効く方が悪くない? とは言わないでおいた。何故なら俺にもダメージくるから。
この人、かのプレイリスト発言食らったら息出来るんだろうか?
「──じゃあ一応聞くけど、キスとかもどうせしてないんでしょ?」
くだらない事を考えている間に、ふと未遥さんはため息混じりにそう聞いてきた。
念の為、答えは分かっているけれど。そんな感じの諦めの滲んだ発言は目を閉じて行われたが故に、彼女は俺達の反応に気付くのに少し遅れが出た。
間。
予想してなかったそれを感知した未遥さんが、目を開けて捉えてしまったのは──
「「………………(目逸らし)」」
──本っっっ当に気まずそうに揃って視線を明後日の方向に逸らしている俺達だった。
「…………私にpixivを閃かれたくなければ詳細を吐けぇ!!!」
「ある魔法の儀式をやるために一度だけ! それ以降一切して無いです!」
「ほぉ!? 言い方と焦り方的にそれは唇の方だなぁ!? ならmouth to mouth以外の経験があるかも聞こうじゃないか!?」
「……今まで食わされたパンの枚数を覚えてるとでも?」
「エミちゃぁん!? これはどういうことかなぁ!?」
「ちがっ……! 軽いから! 私のキスは軽い挨拶みたいなやつだから! 別にそいつ以外にも普通にしてるからっ!」
「じゃあ両親を除くちゃんとしたファーストキスのお相手は?」
「………………(顔を逸らす)」
「新くぅん!? これはどういうことかなぁ!?」
俺はエミを捨てて一度台所へ逃げ出した。
用語:一昔前のMF文庫J的なSF学園物
大体2015年近辺に放送されてた、似た様な要素ばかりなラノベ産SFアニメ群が何だかんだ作者は一番好きです
言葉では言い表せないこの平成感は多分通ってきた人には面白いくらい通じると思うし、沢山の作品達が頭に浮かんでいることでしょう
あの流れは電撃でもガガガでもGAでも無く、体感MF文庫Jの系譜なんすよね(個人の感想)
用語:ドラグナー
MF文庫J発『星刻の竜騎士』の略。石鹸(1-1-B1参照)の本家本元にして、石鹸の系譜の源流
エーコのつの可愛くて好き
用語:マシンドール
MF文庫J発『機巧少女は傷つかない』の略。EDの回レ!雪月花がかなり有名
当時の作者はネット環境が無く、深夜アニメをリアタイしていたため、EDが流行ってるなんて露知らずOPにハマっておりました
推しは夜々じゃなくシャーロット、あとケルビム好き
用語:ファフニール
講談社ラノベ文庫発『銃皇無尽のファフニール』の略。当時絵が心から好きでした、余りにも可愛い
私の記憶だとこの辺から石鹸枠が無くなっていった覚えがあります
用語:バハムート
GA文庫発『最弱無敗の神装機竜』の略。作者の性癖が歪みました
あまりにも好きなキャラが多過ぎる。そして機体もかっこよくて困るんだこれが……!
ファフニールと同じく、石鹸枠の終端寄りの作品です
用語:アスタリスクなキャバルリィがワールドブレイクでブレイドダンス
1-1-B1でも新君が挙げたラインナップですが、これらは全て『学園物かつ学内or学外で行われる異能を用いた公式戦があるハーレム物』という、新君の行った異世界と似た様な共通点があります(キャバルリィだけ少し怪しいですが)
未遥さんがパッと挙げたラインナップは『石鹸の系譜の始点と終点』という構図ですかね
用語:覇天祭
1-Sより『各学校の代表チーム同士を戦わせ、優秀者はどんな願いでも叶えられる』異世界の大会、トーナメントでは無くバトロワ形式で年一開催(設定的にはワールドトリガーや精霊使いの剣舞等が近い)
中等部の部と高等部の部があり、アラン君とエミが出たのは中等部の部×3(三連覇)
@1枠については一年目は三年の先輩、二年目&三年目は一つ下の後輩と出ている
特殊な空間で行われるため人を殺しても本当に死にはしないが、それによりアラン君の魔法は戦闘では無く殺傷性能にのみ特化してしまっている。こわいですね
備考:コスト
ゲームの編成画面とかでたまにレアリティ毎に編成コストが設定されてたりしません?大体それ
コストはランクでしか決まらないので、例えば『S級の中でも特に強い奴』『何らかの理由によってランク検定が出来てないor正確な実力が把握されてない奴』がチームにいる場合、合計コストでかなりのアドバンテージが稼げます
尚、覇天祭を無傷で三連覇したアラン君はSS級(一人でコスト上限オーバー)にぶち込まれて無事出禁になりました
高等部は出なくていいんだってさ、良かったね!(日本へ帰還)
用語:一般特級呪霊と宿儺
アラン君「我々は共に"S級"という等級に分類されるそうだ」
アラン君「俺と……お前がだぞ?」
用語:幼馴染
猫を虎にするより最初から虎育てた方が強い
幾つもの物語を読んできた上で、アラン君は我が身可愛さにそう決めました
余談ですが、例えるならエミはちゃんと周年性能です
用語:頭pixiv、pixivが閃く
二次創作脳になることの隠喩、閃くんじゃないそんなもの
備考:ファーストキス
記憶に存在する物に限るとして
アラン:母
エミ:アラン
新:実父




