1-2-O:(……この日仮病にしたら大連休だなぁ)と思えるのは学生だけの特権
日本にはゴールデンウィークという謎の文化がある。
4月の29、そして5月の3から6日にかけて短い間に密集している祝日の連鎖。その前後の土日を足した期間の呼称であるそれは、学生達にとって神のような概要だ。
部活や委員会が特に無い生徒なら土日はただの休校日で、祝日の連鎖が加算されることで完成する筈の大連休はぐうたらするのに最適である……曜日の兼ね合い次第では。
4月28日、月曜日。
祝日を明日に控えた紛れもない登校日である。
「……あ、すいません、1年3組の上城です」
『……体調不良ですか? それとも一身上の都合ですか?』
「あー…………じゃあ、体調不良ということで」
『はいはい、担任に伝えておきますね。1、2は振替で30日は登校日ですがそれまでに治りそうですか?』
「熱が40度ある気がします」
『じゃあ7日までには治してくださいね』
通話を切る。ふう、これでよし。明らかに手馴れた対応なのは気付かなかったことにするべきだろう、偶然たまたま体調不良の生徒が同時多発して大変だなぁ(棒)
「朝っぱらから独り言?」
「電話……念話通信みたいなもんだね」
「何話してたの?」
「学校のズル休みについて」
「おばか」
午前の7時30分、朝食のバナナを剥いて食べてるエミは既に我が家の如く自然体だ。馴染むの早ない?
「昨日結局飯食いに行って買い忘れたもん買ってきて寝ただけじゃん、何もしてねぇんだよ何も」
「何もしてないどころか頼んだミックスグリルプレート食べ切れなくてグロッキーになってましたけどあなた」
「胃も縮んでたんだよ……! エネルギーがそもそも蓄えられないってなんなのこの身体……!?」
アラン君のパーフェクトボディは肉体相応にエネルギーの消費が激しかった。ついその感覚のままファミレスでデカ目のやつ頼んだ結果、見事途中で轟沈してエミに食べてもらったのが昨日の俺だ。
……思い返してみれば一昨日もカップ麺一つで割と満腹になってたわ、道理で異世界行く前は飴で普通に食い繋げてる訳だわ! 貧弱が過ぎるだろこの肉体マジでどうすりゃいいの……?
「……まぁ俺のことはさておいて、今日から少しずつエミの生活基盤を整えていきます」
「今でも十分暮らしてけるけど、他に何か要るものあるの?」
「まず──」
「まず?」
エミの対面に座って深刻そうに両手を組む。
碇ゲン〇ウのポーズで目を伏せ、じっくりと溜めてから言い放ったのは、当然ながら異世界人が日本で暮らす上で絶対に避けては通れない問題について。
「──身分証が要ります」
「それはそう」
ハッとした顔でバナナをむしゃる手を止めた少女は、自分が不法入国者なことを今になって気付いたらしい。
……本当に、どうすっかなぁ。
備考:現在の日本におけるエミの扱い
身分証&戸籍無しの不法入国者




