第90話 キノコがいっぱい
しかし、町近くでこんなに繁殖しているのなら、魔素の濃い森の中だともっと凄い事になっていそう……。
中々まとまった雨が降らない日々が続いていたから、少しの雨量の時しか体験した事がなかったけど、それでも雨の後は森の中の生命が急成長し、豊かに溢れかえるのを何度か見てきた。
魔物も植物も、乾いた砂が水を吸収するように雨水に含まれる魔素を急速に取り込み成長するので、活気が出るというのかな。賑やかになる。
――勿論、その分危険度も上がる。
普段、森の奥にいるような強い力を持つ魔物や野生動物が出てくる可能性があるから、いつも以上に周りに気を付けて行動しないといけないんだよね。
分かっているんだけど、それでもやっぱり雨がもたらす豊かな恵みは楽しみでもあるんだ。
だって、今日は絶対どこかにアレが生えているはずだしっ。マジックキノコとか白チーズ茸とか金茶香茸とかがね! 美味しい茸から高価な茸まで各種様々な茸を、いっぱい採りたいっ。
命大事に……お宝探し、頑張ります!
最初は、彼がお薦めの薬草採取ポイントに連れていってくれるとの事なので、いつもの巨木群が見えて来てからも更に北へと進んでいく予定になっている。
街道に等間隔で埋め込まれている光り石は2km毎にある。今日は北門を出て十個目辺りの所まで行くつもりだと話してくれた。
基本、冒険者は乗り物を使わず人力で移動するので、往復するとマラソンくらいあるこの距離を走り抜くのはスキルがないと結構大変です。
やっぱり彼女が付与魔法の「俊足」が付いたブーツに買い換えてから、移動速度が上がったよね。能力を補強してくれる上に疲れも軽減されるし、本当に魔道具って便利だなぁ。
さすがに街道の上にはないけど、それ以外はどこまでも水白茸が生えている不思議な光景が続く中、ラグナードを先頭にリノを真ん中に挟んで走っていく。
順調に飛ばしていっている内に、段々と初めて彼と出会った場所に近づいてきた。
森が街道を塞ぐ勢いで両側からせり出している場所が前方に見える。『視覚強化』スキルを取ってから、より遠くまで見通せるようになったんだよね。
ボトルゴードの町に拠点を置いてからは、この距離まで来たことは一度もなかった。少し前の事なのに何か懐かしい。
ゴブリンの大群に遭遇して絶対絶命のピンチになっていた時、ラグナードが颯爽と現れて助けてくれたんだよね。今日は鉢合わせしないといいなぁ。
トレントの大規模な討伐が終了した直後なので、今だけは森の中も比較的安全なはずだけど。大丈夫だと思いたい……。
そんな事を思いながら走っていたら、先頭にいた彼が停止の合図を出した。
「よし。ここで一旦休憩してから、森の中に入ろう」
「「了解!!」」
早速、シルエラさん直伝の万能ドリンクを飲む。気力、体力、魔力を効果的に回復する飲み物で、十種類の果物と薬草を使って作るジャムがベースなっている。
魔法を使って調理することで、素材との相乗効果をもたらし、一段上の味と効能になったもの。
微かな甘みとまろやかな喉越しの美味しい飲料水で、飲んだ直後からじんわりと活力が沸き上がってくる感じなんだよね。栄養ドリンクの強化版ってとこかな?
冒険のお伴に最適なので、シルエラさんに教えて貰ってからずっと、三人分作って持ってきている。お世話になってます。
それと一緒に、魔力と栄養を手早く補給するため、こちらも微量だけど魔力回復効果のあるお手製のドライフルーツや干し肉も食べておいた。
勿論リノはそれだけだと足りなくて動けなくなる可能性があるので、来る前に早朝から開いている屋台で串焼肉を購入したものをさっそく広げていた。おおっ、肉肉しいね……すごい重量感。
幸せそうな顔で頬張り、何本もきれいに平らげていく。うんうん、森の中に入ってしまえば落ち着いて飲食なんて出来ないからね、今のうちにお腹を満たしておくといいよ。
三人とも補給が終わり、自分とリノに支援魔法で『HP回復』と『MP回復』を掛け直しておく。一時間しか効果が持たないので、今日もこまめに掛けていくつもり。
休息を取っている間にすっかり雨も上がり、雲の切れ間から陽が射してきた。霧雨を浴びてしっとりと濡れてしまった防具や服を、生活魔法の『乾燥』で乾かしてから森の中へと入っていった。
いつも以上に鬱蒼とした森の中を、魔物に注意しながら慎重に進む。何が見つかるかワクワクしながら、二人の後について歩いていった。
希望のものが全て見つかるとうれしいけど、どうかな? あったらいいなぁ。
入ってすぐにまず目につくのが、淡い光を放つ水光茸。
姿形はどこかマッシュルームに似ていて、今日のような雨降りの日に群生して生えてくる。
【 水光茸:薬用茸
効能:HP・MP微量回復効果
可食:生食不可
火を通すと美味
乾燥させたものにはHP・MP微量回復効果が付くので
ポーションにも使う
採取:季節を問わず雨の翌日のみ群生するが、一日で消滅する
林や森の生木に生える 】
となっていて、下級ポーションの原材料となる茸だ。
今回は、私達がいつも使用しているパワーポーションの素材を主に集めに来たんだけど、作成には延寿の木の葉、三つ葉草の花、水光茸、魔石の四つが必要らしいので、欲しかった素材の一つではある。
それに水光茸は、ポーションほどの即効性はなくとも、干したものを食べるだけでHP・MPが微弱回復していくという効果があるのも魅力的だ。
熱を加えても効き目が落ちない為、料理やお茶にと手軽に使える利便性の高い薬用茸だから自分達用のもいっぱい欲しいんだよね。
あちこちの樹の幹に、びっしりと群生しているから今日中なら取り放題なんだけどさ。これだけの量があるのに、本当に一日で全部消えてしまうんだもん……異世界って不思議だなぁ。
条件が揃えば年中採れる為、冒険者ギルドでも通年依頼が出ていて、乾燥させてから売ると二倍の価格で買取してくれるという、冒険者としてもお得な茸。
出来るだけたくさん採りたいけどまだ来たばかりだし荷物になるからと、帰る前に採取することにした。
いつもお読みいただきありがとうございます。




