第85話 女の子らしい会話って……
小さな籠に盛られた二種類の果物。
色からして珍しい。茶色に黒い縞がある実と、シルエラさんの瞳のような透き通った空色の実。市場とかではあまり見ない実のような?
まず、一つ目。
茶色に黒い縞のあるこの果物は「チョコレートの実」というらしい。
形は楕円形で鶏卵ぐらいの大きさ。皮を剥いてみると果肉はミルクチョコレートのような色をしていて、味の方はまんまチョコレートのようだけど、甘過ぎず食べやすい感じ。少し、ブラックサポテに似ているかも……?
「甘くて深い味わいですね、これ!」
「ふふっ。果物なのにお菓子みたいな面白い味でしょ」
「本当に。食感も果物らしくなくて不思議ですし」
手を加えずそのまま食べるだけで、レアで濃厚なチョコの風味があり、まるでガトーショコラを味わっているような感じなんだよね。
もうカカオとかいらないかも? この世界にあるのかは分からないけど。実際にこの実はお菓子作りにも使用されていて、チョコ味が効いて美味しいらしい。
しかし、パンの実を初めて食べた時もほぼパンと変わらない食感に驚いたけど、これにもびっくりしたよ。
両方共、木に生っている実なんだよねぇ。前の世界でも変わった果物はたくさんあったけど、本当、こちらにも不思議植物がいっぱいあるなぁ。
「ドライフルーツにしてもまた、味が変わって美味しいのよ」
「どんなのになるんですか?」
「少しね、味が締まって苦味が出てくるの。それがまた、いい風味になるのよ」
傷みやすいので、生食よりもむしろドライにしたものの方が手に入りやすいみたいだけど、今までドライフルーツのお店に行っても見かけなかったのは、売り出されてもすぐ無くなるかららしい。
甘味に少しの苦味が加わって味に程好い変化が起きる他、栄養価も高くなり男の人にも食べやすい、日持ちのする人気のおやつになるんだとか! ブラックチョコみたいになるって事かな? う~ん、不思議。
そして、二つ目……。
こちらの空色の果実は、「リプスの実」と言うらしい。 チョコレートの実より一回り小さく、コロンとしたまん丸な形がかわいらしい。
皮ごと食べられるということでさっそく一口齧ると、シャリッと小気味良い音がする。程よい酸味と甘みが果汁と共に口の中に広がった。
「……! これも美味しいですっ」
見た目はともかく味は梨っぽいかな? 食感もそうだし、食べた時にジュワーっと果汁が溢れてくるのも似ているかも。あっという間に一つ、平らげてしまった。
「そうでしょう? これも傷みやすいから生食できる新鮮なものは滅多に出回らないのよね」
「それは、残念ですね……」
新鮮なものほど味がよく、栄養価も高いみたい。こんなに美味しいのに手に入りにくいとか……甘味好きのリノやラグナードにも食べさせてあげたいけど、無理かなぁ。
いや~それにしても美味しかった、二つとも至福の味がしたよ。とっても満足です!
シルエラさんによると、今回のはエルフの里から今朝、時空間魔法を使って取り寄せたものらしく、採れ立てでとっても新鮮なんだとか。だから余計に美味しく感じたんだね。
ボトルゴードの町周辺の森でも採取ポイントはあるみたいだけど、エルフの里で採れるものには更に、HP・MPを回復させる効果も追加であるらしい。
確かに今朝がたの作業で疲れてた身体に、食べてすぐ実感できるほど効いているし……本当にすごいスーパーフルーツだよ!
その後もシルエラさんお手製の、魔力を含んだ焼き菓子、こちらもHP・MP回復効果のある木の実と一緒に焼きしめたものを食べながら、ここ最近の様子を話していく。
主に、迷いの魔樹を含むトレントの討伐について話していたはずが、何故か例の全身タイツの性能についてになっていき……。
「まあ、 優秀なのねぇ、その新しいスーツは」
「ええ、まあ、そうですね。見た目はちょっとアレですけど、確かに優秀なのは間違いないです……色々と。水分も以前ほど、その……節制しなくてよくなりましたし」
「まあ、女子は特に大変ですものね、その辺は」
「ええ、まあ。それに最近は、ひそかに水虫の方々にも人気になっていてですね」
「……水虫?」
「はいっ。いやあの……蒸れないからって! 冒険者や兵士の皆さんって重装備じゃないですか。あのタイツ、装着時は何故か余分な熱を奪ってくれるみたいで涼しく感じるほどなんですよ」
今までも魔法や魔道具を使ったり、聖魔法で治療してもらったり、塗り薬を買ったりとひそかに涙ぐましい努力をされていたみたいなんだけど、効果は一時的で再発しやすく、悩んでいる人がけっこう多かったらしい。
このスライム製の全身タイツという名の絶対防御スーツは、だんだん性能が良くなって、今では身体から出したものは何でも吸い取ってくれるまでになった。
もちろん、水虫そのものを治す力はないけれど圧倒的に再発しにくくなったと、特に兵士さん達の間で評判になっているんだとか。
その為、いつでも買えるようにして欲しいという要望が日に日に大きくなってきている。
「ま、まあ。そんな効果まで……」
「そうなんです。これも最近分かったことなんですけど、蒸れないから水虫だけじゃなくて汗疹とか臭いも防いでくれるってかなり好評らしくて。それならいっそのこと魔物対策だけじゃなくて一般販売用に素材が少なくてすむ、下着型のを色々販売出来ないかって。まあ、スライムが全然足りないから増産は雨の月まで無理そうなんですけどね」
「人族の便利な商品に対する情熱は相変わらずすごいわねぇ。私達は魔法で解決できるから、あまりそういった工夫をすることがないけれど」
「エルフは総魔法量が多いですもんね」
魔力総量は、長寿種族と比べて人族が一番少ない。人口は一番多いだけあって、中には高い魔力を持った者も生まれてくるけど、それもごくわずかだし。
なのでこれまでにも創意工夫し、魔方陣魔法や魔石を使った魔道具のような、魔力だけに頼らない、魔力効率のよいものをたくさん生み出してきたんだ。
……しかし、私はシルエラさんとのせっかくの優雅なお茶の時間に、こんな水虫だの汗疹だのスライムタイツだのと、汗臭くて残念な話題をしてていいものか。
もっとこう、女子会らしく可愛くて華やかな話題をしたかったのに何故こうなった……。
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