第83話 戦い終わって……?
蔓状の魔樹を倒し、冒険者ギルドに戻って報酬を受け取った後、大分遅めの昼食をささやかな祝勝会を兼ねて三人でとることに。
せっかくなので、リノが絶賛していたちょっとお高けど絶品の魔物肉をいただけるお店にも行ってみたかったけど、今の時間は閉まっているか……。一仕事終えた後にすぐ、いいお肉を食べたかったなぁ、残念。
昼食と夕食の間のような中途半端な時間帯になるもんね。開いているお店を探すより、冒険者ギルド内の食事処か屋台での買い食いで済ませた方がいいかも。
冒険者ギルドの食堂は帰ってきた討伐隊でかなり混雑している。ゆっくり食べたかったので外に出ようということになり、屋台を見て回ることにした。
町中は活気があって楽しそうだった。
早朝から大勢で討伐部隊を結成して町を出たわけだし、このところの森の侵略も知っているはずだけど、それについて特に触れている感じはしないかな。
冒険者はともかく、住民が流出している訳でもないし、普段通り屋台もいっぱいだしで、平和な光景が続く。
辺境の町で暮らす以上、森の中にいる魔樹を倒したくらいで騒いでも仕方ないって思っているのかもね。
……それもそうか。生まれたときから魔物や魔樹に囲まれて暮らしているんだもんなぁ。
庶民は思った以上に普段通りでたくましいというか動じていないみたい。まあ、この町の領主様を信頼しているって言うのもあるんだろうけど。
レンガで舗装されたきれいで歩きやすい道を歩きながら、何を食べようかと相談する。
美味しそうな匂いを放つたくさんの屋台は、見て回るだけでもお祭りみたいで楽しいけど、お腹が空きすぎちゃってる現状では、スモール・ワームのお料理でも何でもペロリといけそう。
もう片っ端から食べたくなっちゃう。だって、みんな美味しそうに見えるんだもんっ。
その中でも、やっぱり強烈に食欲を刺激する匂いと言うのはあるわけで……。
焼きたての香ばしいその匂いを嗅ぐと、どうしてもそれをガッツリ食べたい気分になってくるよねっ。いっぱい働いた後だし!
「というわけで、ここはやはりお肉でしょう!」
「もちろんっ。当然、お肉一択ですよね!」
「あ……そう、なのか? まあ二人がそれでいいんなら肉で……」
……すみません。先輩を差し置いて、ちょっと強引に勢いとノリに任せて決めちゃいました。
ごめんね、ラグナード。でもここは譲れないんだっ。肉肉しいものを身体が求めているのっ。
せっかくのお祝いなので、いつものホーンラビットの串焼き肉の他にも、別の屋台で売っているいろんな種類のお肉を買い求めてみた。
後で皆でシェアするんだ。これは食べるのが楽しみです!
メイン通りにある大きな広場には中央に魔道具でできた噴水があり、それを ぐるりと取り囲むようにして屋台が並ぶ。
休憩できるテーブルや椅子も多く設置されているので、空いている一つに陣取って、買ってきた料理を並べる。
メインは肉料理だけどスープや果実酒、パンの実など、たくさん買い求めたのでテーブルの上はそれらでいっぱいになった。
もちろんデザートの甘味もいくつか買ったよ。だって甘味を売ってる屋台の前を通る度に、ラグナードの耳と尻尾がソワソワっと動くんだもん、そんな可愛い反応されたらもう、買うしかないでしょっ。
テーブルに隙間なく並べられた戦利品を見て、ちょっと買いすぎたかなぁとも思ったけどまぁ、食欲大魔神のリノがいるからなんとかなるでしょ。
「「 お疲れ様でした~!!」」
「うん、お疲れ様」
果実酒で簡単に乾杯をし、さっそく出来立ての料理に手をつける。
まずは初挑戦のフォレストボアの肉を……。猪型の魔物肉か。猪肉自体、食べたことがないんだけど、どんな味がするんだろ。
大きめにカットされた固まり肉を炭火でじっくり炙り焼きしたもので、美味しそうな焼き色がついている。
まだ湯気を立てている熱いお肉を手持ちのナイフで一切れ切り分けて、さっそく食べてみた。
「う~ん、これは美味しい! 炭火の香りが肉の臭みをいい感じに消し取ってくれてる」
「ですよねっ。ホーンラビットよりちょっと固めの肉質ですけどそれがいいんです。しっかりと噛めば噛むほど口の中に野趣あふれる旨味が広がってもう、最高ですよ!」
「うんうん、いい味出してるよねっ」
次はこっちのお肉……。ヒメフロッグの肉か。カエル型の魔物で東の草原で獲ってきたものらしい。
以前だったらグロいって絶対食べようとしなかっただろうなぁ。でも、スモールワームのお肉を克服した私にはこれくらいもう平気なのだよ……多分。
戦い後の高揚感も手伝って、ついノリノリで買っちゃったけど別に後悔なんてしてないしっ。よ、よしっ、チャレンジしてみますかっ。
どれどれ、覚悟を決めてそっと口の中へ……。
「……うん、いける。あっさりと淡白な味でこれもまた、いいね! ちょっとウォークバードのお肉に似てるかも?」
「ああ、言われてみればそうかもですっ。こっちの方がさらに油が落ちてる感じがしますけど。さっぱりとしてて、いくらでも食べれますよね。付け合せの野菜と一緒に食べるのもまた、おいしいですよ!」
「本当だ。香草も入ってるんだね。また味が変わって飽きずに食べれそう」
私たち二人がお肉の食べ比べをしている横でラグナードは一人、美味しそうに甘味から先に手をつけていた……それ、食後のデザートに買ったやつなんだけどね? でも嬉しげに尻尾がフリフリ揺れているし……まあ、いいか!
「これで全部終ったね……」
「本当、時間はかかりましたけど倒せてよかったです。これで元通り、採取中心の依頼に戻れますよねっ」
「そうだね!」
「うん。まあ、とりあえずはな」
「……とりあえずは?」
それってどういうこと?
ここはきれいに終われる雰囲気だったでしょっ!?
――何か嫌な予感がひしひしとするんですけどっ。
「蔓状の魔樹があったあの周辺はもう大丈夫だが、また別のところにこう、ポコポコ湧いて出てくる可能性が……ある」
「ええぇ、何で?」
「多分だが、森の浅い部分にまで地脈から漏れ出る魔素がいつもより少し多く広がってるのを感じた。魔樹の出てきやすい環境になっている」
あれを倒して全て終了って訳にいかなかったらしい……。
「……じゃあ、まだ続くの?」
「そういうことだ」
そういうことらしい……。
いやいやなんかあの場にいた討伐部隊の皆さんもこれでもう終わりっぽい雰囲気出して喜びを噛み締めていなかった!?
えぇぇ~。これがまだまだ続くのっ……本当に!?
「じ、じゃあもしかしてさっき受付でラルフさんがまたお願いしますって言ってたまたって今後またあった時にまたって言う意味だったんじゃなくって……」
「明日からまたっていう意味だな」
「そ、そうだったんだ……」
「そうだったんですかぁ」
「まぁ、そうだな。で、でもそのうち終わるさっ、なっ!?」
それはそうでしょうけれどもっ!?
というわけで、そこからの日々はまた同じことの繰り返しだったのであえて言いません、省略させていただきますけど……。
何度か同じように総力を集結して討伐隊を組み、アタックを繰り返し、その都度改良されていく全身タイツを着込むのにも慣れて来た頃……。
今度こそ、ようやく本当に冒険者ギルドからの収束宣言が出ることになって、一連の騒動に終わりを告げる事ができたのでした。
皆さん、本当に大変お疲れ様でした!!
いつもお読みいただきありがとうございます。




