第81話 戦闘開始!
茂みが揺れる音と共に、魔物の反応が急速に迫るっ。
「ちぇりゃあああああぁっ!」
即座に対応し、容赦なく剣で切り捨てた。
――ゴブリンだ。
尚も奥からは、ガサガサと音を立てて草藪を突き破り、何匹も向かってくる音が聞こえるっ。こっちにも群れでやって来たらしい。
「伐採の音を聞きつけてどんどんやってくるみたい!」
「大丈夫だ、反応数はそれほど多くない。落ち着いてやれば、対処できる!」
「「分かった!!」」
ゴブリン達が来た方向にいたもう一組の冒険者パーティーが、最初に反応し、対処していく。
蔓状の魔樹と魔物に挟まれた格好になるので、私達は予定通り安易に加勢せず、いつでも援護できるように気をつけながら、まずは様子を見ることに。
一緒に行動しているのは全員人族の冒険者パーティーで、ルーナさん、サラさん、カルドさん、アルさんの男女四人。
女性二人は後方から弓で、男性二人が前に出てそれぞれ剣と槍を振るい、飛び込んでくるゴブリンたちを魔法を使わず武器だけで、一体ずつ確実に撃退していく。
ゴブリンと遭遇した一瞬だけ浮き足立ったが、その後は危なげない連携で殲滅していった。
「お疲れ。いいコンビネーションだ」
「どうもです。これでもパーティー結成して三年目になるんでね、慣れたもんですよ」
ラグナードが土魔法で掘ってくれた穴に、手際よく魔石を切り取ったゴブリンを放り込みながら少し話をする。
彼らは同じ村出身の幼なじみだそうで、大きくなったら冒険者になると決めて、村にいるときから皆で必要な訓練をしていたんだとか。
他にも二人ほど一緒にやる仲間がいたみたいだけど、指針や目標が合わずに別々にパーティーを組むことになったらしい。
彼らだけがこの町へ来て、その二人は一攫千金を夢見てダンジョン街へと旅だってしまったみたい。いきなり初心者が行くなんて無謀だ……生き残れればいいけど。
冒険者は互いに命を預けなきゃいけないから、能力の他にもそうした方針が合わない者同士でパーティーを組んでも駄目になるよね。二つに割れたのは仕方ないこと。
やっぱりお互いに支え合え、信じられる者同士じゃないと上手くいかないし。話を聞いた彼らもそうだし、私達のパーティーもそうだから。
その後も何度か断続的に襲ってくる魔物を排除しながらじりじりと魔樹の本体に向かって前進していく。
ここら辺は北の森の外周近くということもあって、中奥でもまだそれほど強い魔物が出てきていないので何とかなってるけど……。
「まずいな、思ったより前に進まない。この音に引かれて寄ってくる魔物が多過ぎる」
「途切れることなく来ますもんね。休んでいる暇がないと言うか。今はまだいいですけど、これが続くと俺たちの体力も徐々に消耗していきますよ」
「ああ。かといって一度に来るのは一気に魔法で討伐できるほどの数ではないし……」
「中途半端に時間差でバラバラに来るのが鬱陶しいですよね。個別に対応するしかないっていうところがまた、厄介で……」
「そうなんだよな」
それぞれのパーティーのリーダーであるラグナードとアルさんが対策を話し合う。
主に、ポイズンラットやゴブリンを相手取っているが、奴等はこちらが強者か弱者かに関係なく、いくら倒されても真直ぐに次々と突っ込んでくる。
魔物同士、連携をとる事もないので、魔法と武器で確実に倒していってはいるものの、討伐部隊全体に襲いかかってくる数としてはジリジリと増えており、早くも消耗戦の様になってきている。
こちらもボトルゴードの町では一定レベル以上の冒険者を揃えてきてはいるけど、それでも魔力と体力には限りがある訳で、決して楽観出来る状況ではない。
一応、ラグナードの土魔法を使って、先程、魔物を遺棄する用に作った穴をそのまま横に細長く広げ、即席の落とし穴として利用することに決まったけど。
飛び越えられない幅になっているので、立ち往生して纏まった数になったところでまとめて魔法で殲滅する作戦だ。
伐採作業中の人達を触手から守る任務もあるため、中々こちらから打って出るというわけにもいかないからね。
でも、伐採が進むにつれてその場所から離れていくから、念のため、刈り取って大量に出た草や蔓、枝などを生活魔法で『乾燥』させてから穴の中に放り込み火をつけておいた。
火を嫌う魔物もいるので防御壁代わりになればいいなと思ってやってみたけど、どこまで効果があるかわからない。まあ、やらないよりはいいってことで。
それと、ラグナードに言われて冒険者パーティーだけじゃなく、一緒に行動している木こりさんや猟師さん達もまとめて、少しでも作業スピードを上げる為にも支援魔法の『HP回復』と『MP回復』を掛ける事になった。
レベル1の支援魔法だし、一度で一時間程度しか効果が持たないのと、何もしない時と比べ若干回復速度が上がるくらいの効き目しかない。
ただ、すぐ体感できるポーションのような性質は無いけど、膠着状態が続いているこんな時には少し改善できるから、一緒に行動している間はこまめに掛け直すことにした。
――そうやって策を練り、消耗戦を有利に乗り切れるよう力を尽くしていたところに……。
ゴブリンとポイズンラットの混合集団が襲って来たっ。もうっ、こいつらしつこい!
急に増えたその魔物達に冒険者パーティーだけで対応できず、猟師さん達も撃退に加わり、集中攻撃に移る。
必然的に松明の数が減ってしまった、その時……。
その注意が逸れた一瞬の隙をついてすかさず蔓状の魔樹が触手を伸ばし、襲いかかってきたっ。
「なんて賢いんだ、触手の癖に!」
「本当、この機を見る能力、すごいですっ」
「何誉めてんだっ。今それどころじゃないだろ!」
「音と熱に反応していますっ。気をつけてっ」
「切れる者は触手を切り落とせっ。後のことは気にするな!」
「「了解!!」」
動きを予見していたかのように、触手が動くっ。 複数の手足を操る一体の魔物のように意識を持ってこちらの弱い人員、隙のある場所へとよどみなく……。
こんな時のために全員、スライム製の全身タイツを着用しているので大丈夫だとは思うけど、少しでも素肌に密着されたら魔力を吸い取られて干からびてしまうので気を付けないとっ。
間近に見るこの蔓性の魔樹の動きは、なんと言うか……蛇が素早くのたくっているような、それが何本も互いに意思を持って絡み付き蠢いているような気色悪さがあって、本能的な嫌悪感を感じて竦みそうになってしまうんだけどね。
「うらぁっ!」
「せいゃあぁぁっ!」
向かってくる触手に、容赦なく何振りもの剣や斧が襲いかかる。蠢く魔樹の根がまだ張り巡らされていないので、足元を警戒しなくていいから全力でいける!
巨大な剣の恐るべき一撃で薙ぎ払われ、普段は樹木を切るのに使われる斧が何度となく振り下ろされる。
蔓状の魔樹の防御力は高く、高レベルの冒険者以外は生半可な攻撃で表皮を貫くことはできないから皆、思い切り振り抜くっ。
一回の威力は弱くとも、何度も受けてしまえば流石にダメージは蓄積し……徐々に触手が切り落とされていった。
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