第80話 討伐隊結成
色々と衝撃的な情報にちょっと取り乱しちゃったけど、異世界まで来て全身タイツを見るはめになるとは……その上、 全力で装着をお勧めされる羽目になるとは思わなかったよねっ。
どう見てもピッチピチの全身タイツなこの絶対防御スーツ……。話している内にテンションが上がって来たラルフさんと違って、こっちは下がりっぱなしです。
尚も、嬉々として詳しく説明してくれたんだけど、頭までしっかり覆い尽くす形状ということで、顔のとこに一つ丸い穴が空いているだけらしい。これを装備の下に来て、触手の侵入を防ぐよう設計されたんだとか。
これ、全員で着たらめちゃくちゃ怪しい集団に見えちゃうんじゃ……。装備の下に装着するならまだ変態度が薄まるからいいんだけどさ、長時間着用する事になるし、あの、どうしても自然現象的に催しちゃう事もでてくるじゃないですか? そうなっちゃった時には、どうすればいいんだろ。
――あそこに穴なんか空いてないんですけど?
「いいところに気づかれましたねっ」
「あ、そう?」
「はいっ、さすがお目が高い。それはですねぇ、なんとこのスーツが素早く吸収してくれるんですよっ。凄くないですか!?」
「そ、そうですね……?」
「そうなんですよ、だから画期的なんですっ。まだ試作品ですので、残念ながら小の方だけしか分解出来ませんし、分量も一日分が限度なんですけどね」
「えっ……と言うことはこれに、直接? 吸収してくれるってそれ、まさかスライムがまだ生きてるってこと……?」
「いえそこは大丈夫です完璧に生命活動は停止していますご安心ください。 実はですね、スライムの吸収能力を残せる技術が最近発明されたんですよ。臭いや音も同時に吸収してくれますので、こっそり済ますことができるんです。ゆっくり致せない危険地帯とかでも安心安全の仕様となっております」
「……確かにこれがあれば、どこでも安全に冒険出来るな」
「そうですそうなんですっ。分かってくれますか! 私たちの時代に何故この便利グッズがなかったんだって、皆で悔しがってたんですよ! 冒険者にとっては夢のような仕様ですからっ」
いい笑顔で猛プッシュされたっ。
いやまぁ、分かるよっ? 理にかなっているって事は。分かるんだけれどもっ。
ただ、ちょっとこう、羞恥心とかいろんな事で拒否反応が出そうになってるだけで……。
抵抗はあるけど、安全性をとるならそんなこと言ってられない、か……? 実際、危険な森の中でのおトイレ問題は深刻なんだし……冗談じゃなく命懸けだからね。
「分かりました。ありがとうございます」
「はいっ、是非お試しください」
……仕方がない、着るか。
それにこれならエルフの外見……特徴的な耳もすっぽり覆い隠してしまうから気にせず動けるし……。
うん、よしっ、覚悟を決めよう。二人も抵抗無さそうだし……っていうかむしろ、便利だからって嬉しそうですね!?
いつの間にか町中のトイレ事情も改善されそうって話題で盛り上がっちゃってるしっ。確かにそれも大事だよねっ。
あぁもう、シリアスだった空気がどっかいっちゃったよっ。
でもまあ、それだけ今回の討伐はきちんと作戦を立てれば対処出来る程度の難易度だって事で。
こうして皆に余裕があるのはいいことだ。予想外だったけど、全身タイツのお陰で安全性も上がったことだし。
ちなみにこの全身タイツは使い捨て用らしく、討伐の後、研究の為に回収される予定です……。
◇ ◇ ◇
二日後の早朝、討伐部隊が出発した。
大所帯なので荷馬車もたくさん用意され、乗り込んだ順に出発していく。
今回は、冒険者だけじゃなくて、北の森に詳しい地元の猟師さんや木こりさんたちも一緒に行ってくれる。木こりさん達は森のエキスパートだからトレントにも詳しいんだって。心強いよね。
昨日までには予定通り、狩猟ギルドや木こりギルド、冒険者ギルドからそれぞれ依頼された者達が即席パーティーを組んで一緒に現地に向かい、蔓状の魔樹の全体像を掴む為の調査をしたらしい。
ラグナードが予想したように、それほど大きくはなかったようだけど、やはり場所が場所だけに人出はいるという結論になった。
実際に見て、やはり魔樹を倒すより、本体のある場所まで辿り着く迄の人が踏み込めない程繁ったジャングルの伐採の方が大変そうだという同じ結論に至ったそうで、木こりギルドから人員を多く派遣してもらうことに決まったらしい。
周囲の魔物を警戒しつつ、前へ前へと森の中を進んでいく。
相変わらず現場に近づくにつれて足場が悪い所が続くけど、調査隊が軽く道を作ってくれてあったお陰で、初めての者もそれほど足を止めずに歩いて行くことが出来た。
私たちと一緒に行動しているのは、もう一組の冒険者パーティーの他に、狩猟ギルドからロホさん、 木こりギルドからアルベロさんをそれぞれ代表にした一団で、数十人ほどになる。
結構な大所帯だがこれでも討伐部隊の一部で、他の一団もそれぞれ指定されたポイントに別れ、黙々と向かっている。
音や魔力に敏感な魔物や魔樹に少しでも察知されないようにと、森の中ではできるだけ物音や声を立てない。
作戦自体は森に入る前に伝えられているので、現場に到着した部隊からさっそく作業に入っていくことになっている。
私達も指定された場所に着くとさっそく目印を頼りに横に広がり包囲網を形成していった。
やはり、大半の者は近くで見ても何処までが魔樹の蔓なのか見分けがつかず感知できないみたい。本当に隠密と擬態が上手い奴だよね。
討伐部隊全体の準備が出来るのを待ってから、あらかじめ決めてあった合図と共に一斉に松明に火をつける……。
すぐに炎に反応して、一部の蔦がウネウネと不気味に蠢きだすっ。うわっ、これだけいっぺんに動かれると気持ち悪いって!
炎で牽制して、本体のある中心部に向かって追い立てながら、草薮や蔓、枝などが複雑に絡み合って進めない状態の森を、木こりギルドの人達が中心になって打ち払い、人が通れる道を作るためにただひたすら黙々と手を動かす。
蔓状の魔樹は、下手に切り刻むとその切れ端からも増殖するという厄介な性質を持っているので、こうして地道に本体まで炎で追い込むのが一番いい。
火魔法を使わないのは、大火事になるのを阻止する他にも、その魔力に反応した他の魔物が寄ってくるのを防ためもあるので……。
ただ火力が弱かったり、数が少ないと、消そうとして触手を伸ばしてくるので、程よい火加減と一度に触手が対応力出来ないほどの多くの火種を用意するのが重要になる。
今のところ、こうして広範囲を包囲して、一斉に大勢の持つ松明で追い立てる作戦は上手くいっている。
後は、そうした一連の作業をしている間に、伐採の音に引かれて寄ってくる魔物の討伐が必要になんだよね。
今回、冒険者は、木こりギルドや狩猟ギルドの人達が伐採と触手を牽制している間、彼らを魔物から守りつつ、魔樹を追い込んでいくのが主な仕事になる。
初めてそれほど時間は経っていないけど、どうやらもう来たみたいで、あちこちから戦闘音が聞こえてきた。
――ここでもすぐ、迎え撃つ事になりそうだ。
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