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第78話 報告



 昼前の冒険者ギルドは利用する人も少なくいつも通り閑散としているけど、なんだかちょっと雰囲気が違ってる? いつも以上に静かなような……。


 この時間に対応してくれるのはエドさんのことが多いんだけど、珍しく受付に座っていない。

 どうしたんだろうと思って見回してみたら、他の職員さんも知らない顔が多いというか、いつにも増して平均年齢がぐっと上がっている……ような? 


 ――何かあったのこれ?


 不審に思いながらも、まずは例の件を報告しないとだからとりあえずその疑問は後回しにする。すごく気になるけどっ。




 空いている受付で、いつものように買取の査定をしてもらう。


 ここ数日は主に調査をしている関係で、持ち込んだ魔石は少量だったため、待つことなくすぐに終わらせてくれた。


「さっそくだが、今日の調査結果を報告したい。急ぎの案件だ」


 報酬を受け取った後、例の件をギルドに伝えようとするとすぐに、カウンター横に設置されていたテーブルに案内された。


 ――いつの間にこんな机が……昨日まではなかったよね?


 近辺の森まで出てきた、迷いの魔樹発見に端を発する一連の事案は緊急性が高いので、こちらの臨時カウンターで専用に聞き取りする事になったらしい。




 先程とは別の、同じく老齢の男性職員さんが向かいに座る。


「お三方ともはじめましてですね。本日は私が対応させていただきます」


 こちらに軽く頭を下げて挨拶してくれたこの男性職員さんは、ラルフさんというらしい。

 見ない顔だと思っていたら、こうした非常事態の時に臨時で手伝いに来てくれる人みたい。


 聞けば、すでに退職したギルド職員の中から、長年勤めあげた経験豊富な者を有事の際に臨時召集できる体制が作られていて、退職の際に慰労金と引き換えに暗黙の了解的に登録させられるんだとか。


 というか異世界でも退職金とか貰える事にびっくりなんですけどっ。何かすごくない? 人の思考って世界が違っても似通ってくるのかな。

 ともかく、冒険者ギルドの限られた資金で滞りなく運営する為にと考えられた制度らしい。


 ラルフさんも退職と同時に登録したとかで、今朝がた緊急召集されたんだと苦笑しながら教えてくれた。


 なるほど。 ギルド職員さんの、この突然の老齢化はそうゆう事情だったのかっ。


 エドさん含め、いつもいる比較的年若い職員さん達は全員、すでに迷いの魔樹の討伐に出払っているからいなかったみたい。

 彼らもこの町の戦力として頭数に入っていたんだね。総動員しているとは知らなかった……ご苦労様です。



 元々、この町のように儲けの薄い、旨味の少ない辺境だと上級冒険者が中々来てくれないので、町を存続させるための救済措置として、冒険者としての経験もあって強い職員が派遣されて来るらしい。

 危険な討伐に参加して大丈夫なのかと思ったけど余計な心配だったみたい。皆さん優秀なんですね。


 まだ会ったことのないギルドマスターも含めて、この辺りで一番危険で手薄になっている南の森の方へ行っているんだとか。

 領主様とも連携して活性化しているダンジョンの警戒と、魔樹の捜索及び南の森の魔物の間引きをしているらしくて、いつの間にか冒険者ギルドは完全に臨戦態勢に突入していた。




「それで、急ぎの報告と言うのは?」


「……北の森でこれを見つけた」


 例の、見た目はごく普通の茶色い蔓。一部を切断し、持ち帰ってきたものを袋ごとカウンターに置いた。

 これは今、一定量の魔素を蓄え魔核が形成されるまでの間休眠し、死んだ振りをしているから見分けるのが難しいと思うんだけど……。



「これは!? 蔓状の魔樹ですかっ。よくこれを森の中で……。見つけてくださり感謝します……」


 流石に、一目みただけで言い当ててきた。やはりと言うか彼も『鑑定』スキル持ちらしいね。


 超ベテランの元職員さんらしく、当然ながら蔓状の魔樹の緊急性も十分に理解していた。話が早くて助かる。


「それで……これはどこにありました? 個体数は分かりますか。大きさとかも?」


 次々とされる質問に、ラグナードが代表して答えていく。


「見つけたのは、果樹の林を越えて虹色の樹の群生地近く。場所は中奥地帯だが、比較的外周寄りまで出てきている。反応は一体だけだ。大きさは把握できていない」


 質問に答える形で、調査内容を詳しく説明していった。


 低い樹が密に生い繁り、そこに背の高い草藪と蔓性の植物が旺盛に繁殖をしている場所だった事。

 広範囲に渡ってそれぞれが複雑に絡み合い見通しも利かず足場も悪く、本体のある場所まで辿り着けなかった事。


 その為、正確な大きさや位置までは不明な事を、包み隠さず聞かれるまま詳細に答えた。



「周辺の木々は元気にみえた。足元には魔樹の反応がなかったし、まだ根を張り巡らせれるほど育っていないか、この場所に移動してきたばかりなんだろう。それほど大きく成長していないと思う」


「……ありがとうございます。まずはそれだけ分かれば十分です」


 町へと本格的に侵略してくる前に擬態を見破った。まだ森の中にいる内に、蔓状の魔樹を発見できたのは大きいと、本気で感謝された。


「さっそく討伐隊を編成しなければ。出来るだけ人数を揃えて一気に殲滅したいですね。集めるのに少し時間はかかりますが」


「上級冒険者が協力してくれたら少人数で済むんだけどな……」


「残念ながら中々この辺境までは来てくれませんから。そもそも依頼料が高過ぎて出せませんし、ここは地味に人海戦術といきましょう」


「そうするしかないか。今回も長寿種族は協力しないだろうしな」


「それは……仕方ありません。人族の町の防衛戦に参加してくださる方は滅多にいらっしゃいませんし。今町にいる方々もこの町を監視するためにいらっしゃているだけですからね。いつも通り、傍観の姿勢を取られると思います」


 そうなんだよね。


 シルエラさんも協力要請されたけど受けないって言ってたし……いざとなればお店ごと時空間魔法で転移して逃げるんだって。

 その時は一緒に私を連れていくからって言われたけど……。じゃあパーティーメンバーも一緒にお願い出来ないかと頼んでみたら断られた。ラグナードはいいけど、リノは人族だから駄目って言われたんだ。



 ――この問題は相当根深いらしい。



 あんなに冷たい顔をしたシルエラさんを見たのは初めてだったから、それ以上何も言えなかったよ……。






いつもお読みくださりありがとうございます。

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