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第75話 調査結果⑤



 ◇ ◇ ◇




 翌日からも毎日、北の森に通い続けた。



 私達のパーティーの役割は、討伐隊より先行してトレントの捜索をすることなので、できるだけ『索敵』で魔物との遭遇を避け、少しでも広範囲を見廻れるようにしている。


 ただし、収束宣言が出るまではいつ終わるとも知れない連日の依頼となるため、中々思うように休みが取れない可能性がある。


 支援魔法や魔道具、ポーション等で魔力の回復はできるけど、十分な休息が得られないと気力や集中力など精神的な疲れは取り除けず蓄積していく。ミスしないか心配なんだよね……。


 ベテラン冒険者のラグナードはともかく、場数を踏んでいない私とリノだと、どうしてもペース配分が上手く出来ずに彼のお荷物になる未来がみえている。

 なので、命取りになる前にと事前に冒険者ギルドと交渉し、一定の規定数を満たせばその日は終了としていいという契約内容にして貰った。

 ギルドとしても、討伐に回せる冒険者パーティーの数には限りがあるから対応出来る数があればいいと、私達の等級の事も考えてすんなりと了承してくれたんだ。よかった。


 ラグナードの『索敵』範囲が広いおかげで、開門直後から活動した場合、大体午前中には終われる計算になる。


 これで午後はゆっくり身体と精神を回復させる時間に当てることができる事になり、ちょっと安心した。







 もちろん、こうして手に入れた午後の自由時間はスキル習得の為の訓練の他に、自分達の為に採取や討伐をすることもある。


 休みを犠牲にしてまで手に入れたいものと言えば、もちろんあれですよっ。白チーズ茸ですよっ。さっそく採りにいきましたとも!


 樹の下の方に寄生していたものは、何かに齧られて駄目になっていたけれど、上の方にいくにつれてきれいな状態のものが幹を多い尽くさんばかりにニョキニョキと生えていて、これなら好きなだけ採取できそう!


 居酒屋のご主人から、目一杯大きくなったものよりほんの少し、小さめのものを選んだほうが味がいいと聞いていたので探して見る。


 ――うんっ、上の方にちょうど良さそうなのがたくさんあるっ。これならいっぱい採れそう!


 白チーズ茸の軸はしっかりと幹にくっついており、少々の衝撃ではびくともしない。

 三人の中で一番体重が重いラグナードが乗っても平気なほど頑丈なので、木登りする際の足場に出来るくらいなんだ。

 採取してしまえば何故か少し軟化するんだけどそれまではとっても固いので、万能ナイフのノコギリ刃の方を使い、力を入れてギコギコと引いて切り取っていく。


 数日に渡り、時間を作っては寄生場所に行き、毎回三人分の背負子が一杯になるまで運んだ結果、約束していた三軒のお店に満足してもらえる量を採取できた。とっても喜んでくれたので頑張ってよかったっ。




 そうして今度こそ自分達用の白チーズ茸を確保したので、その日は三人で茸パーティーをして楽しんだよ!


 食欲が爆発しているリノはともかく、私と彼は満足するまで食べたんだけど……あれは人を駄目にする美味しさだったねっ。


 まずは念願だった白チーズ茸のステーキ! 贅沢にも分厚く切って、自家製の香草塩をパラリとふり、素材を生かしてシンプルに焼くだけという一品だったけど、ずっと食べたかったもの。


 茸尽くしのスープも作った。又々女将さんにお借りした大鍋に、白チーズ茸の他にも虹色茸や水白茸、水光茸や金茶香茸、瑠璃玉茸、オーブ茸、豆茸など、これまでに採取して乾燥保存してあったものも含めて、たくさんの種類の茸をこれでもかっていうくらい入れる。

 そこにラグナードが少々干し肉を提供してくれたので細切れにし、採ってきたばかりの香草も加えて味付けしていく。

 弱火でコトコトと煮込んだものは、ポタージュのようにコッテリと仕上がった。

 見た目も香りもトロトロに溶けたチーズのようで、少し黄色味がかって艶々したスープは、見ているだけで食欲を刺激される。


 どちらも堪らなく美味しかったんだけど、それ以上に絶品だったのは、ホーンラビットの丸焼きだったんだよね!


 あれはちょうど白チーズ茸を採取して帰る道筋で、付け合わせの香草なんかも採りつつ、他にも何かないかと探している時にバッタリと出会ってしまった運の悪い奴がいて……それはもう立派な大きさの個体だったんだけど、リノにはお肉の塊にしか見えなかったらしく、いい笑顔で瞬殺してくれたんだ……。うん、ありがとうね。


 せっかくいい素材が手に入ったので、それをメインにしたお料理はどんなのがいいかを考えて、ローストチキンっぽく調理する事を思いついたんだ。

 ホーンラビットを丁寧に下処理し内臓を取り出したお腹の中に、刻んだ香草や野菜、乾燥させてあったパンの実を砕いたものと共に、白チーズ茸をいっぱい詰め込み、丸ごと焼いてみたんだよね。


「これは、ウマイな……」


「めちゃくちゃい美味しいですよねっ」


「……本当、美味しい」


 ――語彙力が崩壊しちゃっているけど、それはもう言葉を失うくらいに、ただただ美味しかったんだってっ。


 ……思い出しただけでもヨダレが出そう、とっても贅沢な時間でした! ご馳走さまです。また食べたいなっ。







 こうして適度に休息を挟んで楽しみつつ、心身をリフレッシュさせながら、広い北の森の中を少しずつ踏破し、侵略してくるトレント探しを根気よく続けた。


 その間に、私には『短剣術Lv1』や『棒術Lv1』が、リノには『身体強化Lv1』や『投擲Lv1』のスキルが取れたりして、順調に自己強化も進んでいく。

 私の『棒術Lv1』のスキルは、ラグナードから長剣術を教えて貰って練習をしていた時に、いつの間にかという感じで生えていた。

 リノの方は遠距離攻撃用にと、投げナイフを何本か購入して練習していたらあっさり取れたらしい。


 ラグナードが言うには二つ共、習得しやすく大体一日練習してたら覚えられるので、冒険者ならほぼ皆持っているスキルなんだとか。

 ふーん、武術スキルの中でも取れやすいとか取れにくいとかあるのか……知らなかった。

 ただし、そこからレベルを上げるのは他のスキルと一緒で時間が掛かるのは変わらないらしいけど。

 とりあえず私も、次の武術スキルは『投擲』の習得を目指してみようかなっ。




 装備に関しても、少しずつ強化はしていっているけど、初心者装備からまだまだ脱け出せていない。

 だって、新品で、耐久性があって付与魔法付きの武具ってとってもお高くて手が届かないんだもん。

 安全に冒険を続けるにはすぐにでも欲しいんだけどね。ポーションなどの消耗品にも本当にたくさんお金がかかるから、お金が貯まらない……。


 連日の未踏破地域での探索でボロボロになったブーツを、付与魔法付きのものに買い換えたのに加えて、霧の魔樹の素材を魔道具屋さんに持ち込んで注文した、幻術耐性のブレスレットも約束通り翌日には出来上がってきたのでそれを装着した事もあって、北の森の中奥で活動するための最低限の装備は整ってきていると思うけど。


 特にこの幻術対策の魔道具には、常時発動で「幻術耐性+3上昇」の付与魔法が付けられたので、トレント以外の幻術にもちゃんと耐性があるものになり満足している。


 私達の弱点を補う魔道具を色々購入したおかげで、これまでより長い時間、三人で安心して森の中を歩けるようになった。危険度も下がり、時間のロスが減って、捜索が捗ったので、高かったけど本当に買ってよかったよ。




 そうした慌ただしい日々の中で遂に、リノも九級冒険者に昇級した。やったねっ、おめでとう!


 連日の迷いの魔樹を含めたトレントの捜索依頼には、報償金の他に冒険者ギルドから多めの昇級ポイントが配られた為、予定よりも早く上限に達したんだよね。


 昇級ポイントの100点が溜まり十級からレベルアップ出来ると分かった時、どうするかラグナードにも相談したんだけど、素直に昇級する事に決めた。


 本来、十級から九級への昇級には平均して約一月かかるらしく、彼女の昇級期間はそれより短めではある。

 でも今回は、通常とは違うイレギュラーな依頼で稼げたものだと分かっているので、あまり目立たないから大丈夫だろうと判断したんだ。


 ただ、昇級には当然お金がかかるから、装備費用だけでアップアップしてる状態のリノには、ちょっとキツかったのでした……。




 ◇ ◇ ◇




 森の中に、落ち葉や草を踏み締める足音が微かに響く。


 獣道らしきものもなく、足元は覆い尽くすような勢いで背の高い草藪が生え、その草藪も所々頑強な蔦に複雑に巻き付かれていて、足罠のようになっている。奥に行くにつれて益々、足場も不安定になる。


 それでも森に不慣れな人族のリノが、森歩きに適した種族である獣人族のラグナードやエルフ族の私に遅れず着いてくることが出来ているのは、新しく買い換えたブーツがあるから。


 本人は、「物質強化」と「俊足」の付与魔法付きのこのブーツを買うとき、森で自分だけ足音を消せないことを気にして「忍び足」が付与されたものと迷っていたみたいだけど、最終的にはラグナードに薦められたこっちを選んだ。それで正解だったと思う。


 この捜索には何よりスピードが優先されるし、心身を健全に維持する為にも午前中に終わらせたいから、付与魔法の補助無しだと人族のリノには結構厳しいペースのはず。

 私達の速度について来るには「俊足」の付与は必須で、このブーツはその役割を十分に果たしてくれている。


 私と彼がほどんど足音を立てずに動けるのは種族本能的なものだから、そんなに気にしなくていいし、ラグナードの『索敵Lv5』がある限り、多少の音を立てても魔物から逃げ切れる事を伝えて納得して貰ったんだよね。




 徐々に、北の森の中奥に通うのにも慣れ、少しずつだが順調に攻略していっていた時……それに出会った。






いつもお読みいただきありがとうございます。

ブックマーク登録や文章評価ポイント、ストーリー評価ポイントなど、入れてくださった方々に感謝です!

のんびり進行になりますが、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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