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第73話 調査結果③



 その日の夕方、町に戻ってから、白チーズ茸を直接お店に持ち込んで買い取りして貰った。


 ラグナードの行き付けの居酒屋さんと、それぞれが宿泊している宿屋の併せて三ヶ所なんだけど、どこでも大層喜んでくれたんだよね。

 やっぱり品薄になっているらしく、今の時期は市場でも中々手に入らないそう。


 結局、自分達用に一個ずつ確保する予定のものも、懇願に負けて泣く泣く引き渡してしまった。後で食べようと思ってたのに残念っ。

 まだまだあったことを伝えると、ぜひとも追加で納品して欲しいと依頼されたので、三人で相談して明日また採りに行くことを決めた。今度こそ自分達用にも欲しいからね!


 お店からすれば、市場での価格が高騰しているので冒険者から直接買い入れする方がお得だし、私達も冒険者ギルドよりかなり高い値で買ってもらえるしで、双方共に利害が一致したからいいんだけど。


 それに、そろそろブーツを買い換えたかったのでお金が必要だったから。


 連日、ほぼ人跡未踏の地に通って戦闘を繰り広げているせいなのか、一月も経っていないのに、私とリノのはすでにボロボロになっちゃってるんだよね。


 ラグナードに聞いたら、私達が履いているような普通のブーツは、森での活動だとすぐ駄目になるので、ちゃんと「物質強化」の付与魔法が掛かった物を買った方がいいとのこと。それでも一ヶ月持つかどうからしいけど。


 魔道具屋さんで売っているらしいので、この後、ギルドに行く前に寄って行くことになった。







 と言うわけで、近くにある魔道具屋さんまで来ました。


 それぞれのお店は歩いて行ける距離で、この世界的にはとっても便利なんだろうけど、もっと便利でコンパクトに買い物出来たコンビニやショッピングセンターなんかを知っている身としては不便に感じちゃうんだよね。そんなの贅沢だってわかっているんだけど。




 お店のカウンターに座っていた店主のマールさんが買取に応じてくれたので、ラグナードが背負子から例の物を取り出して渡す。


 霧の魔樹の樹液を固めた物だ。


 この素材は稀少で、高い幻術耐性効果もあるみたい。直接持ち込むと魔道具を安く作ってくれるらしいので、付与魔法付きのブーツと一緒に注文するつもりなんだ。


 

「これはまた、いいのをもってきたねぇ。細工しやすい固さだし、この色だと聖魔水晶が溶け込んでいるんじゃないか」


「……その通りだ」


 一目みて素材を言い当てましたよ。さすが高レベルの『鑑定』スキル持ち。

 ラグナードも『鑑定』はレベル3だと言ってて、それでも店主さんのスキルを看破出来ないってことは、更に高レベルだってことだもんね。当然か。



「随分たくさんあるけど、これ、全部売ってくれるのかい?」


「ああ、一部を除いてそのつもりだ。三人分の幻術耐性の魔道具を注文したいから、その残りになるが……」


「いいともさ。魔道具のお代もそこから引かせて貰うってのでいいね?」


「頼む。それと二人に物質強化付きのブーツを見繕いたい」


「わかった。色々あるから後で選んで貰うよ。じゃあまずは、この樹液を硬化して貰おうかい。安く上げたいんだろ?」


 冒険者の懐事情をよくわかっていらっしゃる。錬金術師に頼むとお高くなるので、節約のために自分達の分だけ魔法処理をすることにした。




 マールさん曰く、聖魔水晶が溶け込んでいると、より高レベルの魔道具を作れるそうなんだけど、水分を抜き硬化することで純度が増して更に高い幻術耐性効果を期待出来るとのこと。頑張ろう。


 不純物がない一番きれいなところを『鑑定』して貰ってから、用意してくれた専用の手袋を使って手に取る。こうしないと皮膚が溶けちゃうからね。

 出来上がりの大きさを想像し、縮む事も考えて大きめに三つ、切り取っていく。

 念のため、私の聖魔法で『浄化』してみたら、一層、綺麗になったと『鑑定』結果に出たらしく、満足そうに頷かれた。



 次に、指示された通り、生活魔法の『乾燥』を使って硬化を開始する。三人とも使えるのでそれぞれ自分のをやっていくんだけど、早々に魔力量の少ないリノがへばってしまった。

 でも一番、総魔力量が多いラグナードが彼女の分を手伝ってくれたので、無事に三つとも仕上げることが出来たよ。



「どれどれ? ……よし、これはいい。きれいな仕上がりだよ」


「どうも」


 はあ、疲れたぁ……。仕事帰りで魔力量が回復していないときにするもんじゃないね、これは。

 ようやく停止の合図が来たときはもう、魔力がギリギリになっててクラクラしちゃった。


 そうやって頑張って作ったものは、カチコチに固まって琥珀そっくりの見た目になった。

 これならいいのが作れるとお墨付きをもらえたので、やった甲斐があったよ。明日にはもう出来上がるらしい。

 そんなにすぐ仕上がるのか……やっぱり専属の付与魔法師とかがいるんだろうなぁ。




 注文するに当たって、リノは既に「幻術耐性+1上昇」のブレスレット型魔道具を持っているけど、どうしたら一番幻術耐性を強化出来るか相談してみた。


「この魔道具には、トレントの幻術により特化した耐性を付与してある。だがその分、それ以外の魔物や人が使う幻術対する耐性には少し弱いんだ。今回はこんないい素材があるんだし、そこに重ねて付与した方が効果が高まるよ」


「なるほど。売ってしまうよりも組み合わせた方がお得なんですね?」


「そうさね。相乗効果で、トレントの幻術耐性もプラス2上昇くらいにはなるはずだし」


「分かりました。じゃあお願いします」


 掛け合わせる事で幻術耐性が上昇してお得だと教えて貰ったので、リノの「幻術耐性+1上昇」のブレスレット型魔道具はお店に預ける事にした。


 その後、私とラグナードも新たに作る魔道具の型を聞かれたので、同じブレスレットにして欲しいとお願いしておいた。




 さて、霧の魔樹の樹液を使って作る魔道具の効果なんだけど、まずはトレントだと迷いの魔樹はもちろん、霧の魔樹レベルの幻術にまで効くものが出来そうだと教えてくれた。


 霧の魔樹って割りと珍しいトレントで、この辺りでは滅多にお目にかかれないらしく、その樹液に聖魔水晶が沢山溶け込んでいる素材は更に稀少で上質なんだとか。色んなタイプの幻術を破る効果を期待できる。


 獣人族もエルフ族も元々魔樹には耐性があるとはいえ、それ以外の幻術、例えば、他の魔物や人族の作り出した魔方陣魔法を使った幻術には耐性がないものもある。

 特に魔方陣魔法は、人族が長寿種族に対抗するために研鑽されてきた歴史がある為、私達には効きやすくなっているみたい。


 予防策としては、魔方陣魔法で作り出す幻術に詳しい人族に、耐性のある魔道具を依頼するのが一番いいらしい。なので、私達とリノでは微妙に違う幻術耐性を付与して貰う事になった。


 どうやら、私が記憶喪失になって見知らぬ森の中にいたと聞いたときから、機会があれば護身のためにこういった魔道具を身につけた方がいいと思って考えてくれていたらしい。

 素材を持ち込みにして、お手頃価格で新人冒険者の私でも、手の届く範囲のものが何かないかとね……。


 そんなに考えてくれてたなんて知らなかった。すごくうれしいっ。


 ラグナードに、なんでそこまで偶然会ったに過ぎない私を気づかってくれるのか聞いてみたところ、実は初めて会ったときに『鑑定』で私を視たらしく、十六才のエルフの子供だと知ったからだと教えてくれた。

 何か事情があるのかもしれないとその場では聞かなかったけど、何でこんな幼子が一人でいるんだとびっくりしたといっていた。


 シルエラさんにも驚かれたけど、獣人族も百才を越えないと里から出ないんだって。

 人族の町で小さな子が一人で冒険者をするなんて、危なっかしくて放っておけないからとこれまでも様子を見てくれていたらしい。

 シルエラさんの事も知っていて、保護者代わりのエルフが町中に出来てほっとしたと教えてくれた。全然知らなかった。



 そんな事情もあって、あっさりとパーティーに加わるのも了承してくれたみたいです。


 幼児扱いされるのは正直戸惑っちゃうけど、そのお陰でこうして助けて貰えてるんだよね。ちょっと複雑な気持ち。でも本当に有難いと思っているよ、お世話になります。


 こんなに次々といい人達に巡り会えているのもやっぱり『幸運』スキルのおかげなのかなぁ?

 親切にしてくれる町の人達のためにも、魔樹の討伐を頑張ってこの町を森の侵略からはやく守りたいな……。





いつもお読みいただきありがとうございます。

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