第71話 調査結果①
スモールトレント付きの迷いの魔樹を討伐してリノと合流した後、ラグナードの『索敵』スキルで魔物を上手く避けながら、行きとは別ルートを進み調査をしていく。
成長期を終えて親株になりそうな個体や、魔素が濃い場所にあり急成長する可能性がある個体だけは間引きながら、時間と体力の許す限り調査範囲を広げようと道なき道を進んでいくんだけど……。
人が稀にしか入らない森を移動するのは中々上手くいかず、背の高い草藪やゴツゴツと不規則に隆起した地面も歩きづらくて、消耗が激しい。
思った以上に数が多く、一つのパーティーだけでは早期の討伐と捜索をするのは厳しいと分かって、リノの体力が落ちてきたことをきっかけにその日は引き上げた。
◇ ◇ ◇
夕方、冒険者ギルドへ行くと、いつものように窓口で魔石を換金してから調査結果を報告する。
巨木群辺りの森の中奥に、私達だけでは早期対応が難しいほどの迷いの魔樹を確認したと聞いたエドさんに、もう少し詳しく聞き取りをさせてほしいと頼まれた。
了承すると、二階にある小会議室の一室へ案内される。
テーブルの上にはすでに北の森が描かれた地図が広げておいてあり、いくつか書き込みもされていた。ここで冒険者達から聞き取った調査結果をまとめているんだとか。
私達にも、今日調査した迷いの魔樹の位置を出来るだけ正確に書き込んでほしいと言われたので、『マップ作成』スキルで確かめながら記入していった。
こうして俯瞰してみてみると、ごく一部の範囲を捜索したに過ぎないのがよく分かる。
この世界の森は想像以上に広く深く、対処しきれるのか心配になってくる巨大さなんだよね。
大陸全土を覆っていた森を切り開いて人の住む領域を何とか少し切り取れてるって感じ。
でも、この町には何気に毎年何度も、異常に繁殖力が旺盛な森の侵略を防いで共存してきた実績があるんだからすごいと思う。まあ、活性化している森は豊か過ぎる恵みを約束してくれるから、危険を回避できれば魅力的なんだろう。
「そうですか。やはりそこに魔樹がありましたか……」
「あの場所はこれまでも手付かずになる時があったんじゃないのか?」
「はい。あそこまで行ってくれる冒険者が中々見つからないので、指名依頼を出すか、それさえ無理な時はギルド職員で間引きをしているんです。分かってはいるのですが、こまめに見回れる程、手が足りない時がどうしてもあるんですよね」
「ここの領主から、兵を借りれなかったのか?」
「いえ、領主様にもお願いして通常なら協力体制は整っています。ただ、ここ数日は何故か南の森のダンジョンも活性化しておりまして、決壊を防ぐためそちらに兵力を集結させる必要があると。あそこも普段から冒険者に不人気な為に攻略が進んでおらず、兵士の数も足りないらしくてすぐに人手を回す事は難しいそうなんです」
南の森のダンジョンって確か、強い魔物がウヨウヨいる森の中を通らないと辿り着けない割には、大したお宝が出ない所だったっけ。
ダンジョンの中は、幅の狭い真っ暗な迷路が延々と続いて、小型の魔物が大量に出てくるし罠もやたらと多いって聞いている。
私もそんな旨みがなくて危険なところにわざわざ行きたくないから、冒険者に人気がないのも分かるなぁ。
「間が悪いな。じゃあ、冒険者パーティーをいくつか回して貰うしかないか」
「すぐ手配します。今回はラグナードさん達のおっしゃるように、この場所から森全体に増えているといっていいと思いますし、今ならまだ余裕がありますから。一気に潰せば間に合うでしょう」
「そうだな」
相談した結果、私達のパーティーは、今日調べ切れなかった場所を明日以降に捜索することになった。
そこでもし迷いの樹を見つけられなくても、一日分の捜索依頼料が支払われることを確認して引き受ける。
人族のみのパーティーだと、捜索を中心に活動するには幻術に耐性がないため限られた数しか派遣できないけど、迷いの魔樹がある場所を事前に把握できていた場合は幻術対策が取りやすく、ランクの低いパーティーにも対応できるようになる。
手分けした方が討伐の効率が上がるので、今日の調査で発見した魔樹は、早速、そういったパーティーに依頼を出すことになった。
「緊急性の高い魔樹だけは、捜索しながらの討伐をお願いします」
「わかった」
冒険者ギルドを出て、明日も同じように北門前で待ち合わせる事を確認してからラグナードと別れ、宿へ戻った。
いつもの時間より遅く、ちょうど夕食時だった事もあって女将さんも忙しそうだ。
一階の食堂は混み合っていたが二人が座れるスペースはあったので、先に食事をしていくことに。
冒険者が多く滞在している宿だけあって、周りから聞こえてくる会話も迷いの魔樹関連が多い。
こうやって他の冒険者さん達が今回の事態をどう考えているのか知れるのは興味深くて、こっそり聞き耳をたててみた。
リノも同じように聞き取りをしているみたいで、早くも内陸の町へ移動しようと相談している話が聞こえてきて不安になったのか、そっと質問してきた。
「まだ大丈夫ですよね?」
「たぶん……ね」
エルフは森との親和性が高い種族で、森の変化を敏感に感じ取れるらしいからリノも聞いてきたんだと思うけど。
シルエラさんから魔法を習うついでに教えて貰ったのは、森が本当に危険になるのは地脈からの濃い魔素が広がる時だということで、それはエルフの本能で分かるものらしいんだよね。逃げ出したくなるような衝動に駆られるみたい。
私は生粋のエルフじゃないからその辺は不安もあったんだけど、これは考えずとも感じ取れる類いのものなので心配はいらないと言われた。
今のところそんな前兆はないから、まだ対処できる範囲だとしたギルドの判断は支持できるし、それに狼人族のラグナードも自然からのサインに敏感だから、彼が特に反応しなかったいうことはまだ大丈夫だと思うとリノに伝えた。
「ちょっと安心しました。なんか、冒険者になってすぐ、こんな事態に遭遇するとは思わなくて……」
「そうだよね。私も一人だったら逃げる事を考えたかもしれない」
「新人の冒険者にはキツいですもんね。私のいた村ではこんなことなかったんですが……」
「そうなの?」
「はい。辺境の森ならではなんですかね? こんな事が毎年何度も起きているって……信じられないです」
「う~ん。でも早期対応さえ誤らなければ、大侵食になる前に防げるらしいし、この町にはそれを耐えきってきた歴史があるから」
「そうですよね。今は、私より強い二人が一緒のパーティーにいてくれるのが心強くて……」
「私も同じだよ。ラグナードもいてくれるし、何とかなる気がする」
「確かに。じゃあ、明日から頑張るためにも、いっぱい食べて鋭気を養いましょうか! 次はこれとこれ、注文しちゃいませんか!? 美味しいんですよっ」
「あ、私はもういいから。お腹いっぱいです」
「ええっ!? ノリが悪いですよ、そこはもうちょっと頑張りましょうよっ」
「いやいや無理だから。リノのはちょっとじゃないしっ」
想定以上の迷いの魔樹を発見して不安になっていたけど、こうして最後は楽しく会話しながら食事をし、明日からの緊迫した捜索を前にリフレッシュして備える事が出来てよかった。今夜もぐっすり眠れそうです。
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