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第67話 始動



 冒険者ギルドにはこれからも長くお世話になる予定だし、昇級も含め賢くつき合っていかないとね。


 頑張ればスキルレベルと言う目に見える形で結果が出て、努力が必ず報われるっていう事が実感できたのもあり、心地よくてやり過ぎちゃってた。


「まぁ、ここが辺境だったのが救いだな。今度からは上手く計算してギルドに持ち込めばいいさ」

 

 裏技として、ギルドを通さずに直接、鍛冶屋や魔道具屋に魔石を持ち込んだり、肉屋や薬屋などで素材を買い取ってもらい換金する方法を教えて貰った。


 そういうのも別に違法ではないらしく利用出来るとのことで、ラグナードが普段持ち込みをしているお店の情報も聞かせてくれる。




「それで、パーティー結成の歓迎会までしてもらっといてなんだが、明日と明後日の二日間、ちょっと別行動させてくれないか。ジニア村の様子を見に行ってきたいんだ」


「あの北にある小さな開拓村ですか」


「そうだ。一応、何かあったらギルド間で連絡し合う決まりがあるから無事なのは分かっている。だがこっちの状況から予想すると短期間で事態が動く事も考えられるからな。同族もいるし心配なんだ」


 あの村の事は私も気になる。この世界に来てからずっと森の中にいてボッチだった私が初めて遭遇した人達だし、色々親切に教えて貰ったし。


「確か、あそこにはろくな外壁も無かったよね。常駐の冒険者もほぼいないみたいだし防御力も低そうだった」


「そうなんだよな。この町にもまだまだ住める場所は沢山あるのに、危険を冒してまで新たに住む場所を広げなくともいいと思うんだが。人族の権力者というのは強欲だからなぁ。民の命より、森から少しでも多く支配領域を奪う方が大事らしい」


 繁殖力の低い長寿種族からすると、考えられない政策なんだろう。今は迷いの魔樹が増えて来て危険だという情報がギルドを通して入る為、村人総出で壁を造っているらしいけど心配だよね。

 ラグナードは土魔法が一番得意なので、土壁造りの手伝いに行きたいとのこと。魔法で建造するから短時間で出来るみたいだけど、たった二日で大丈夫なのかな。


「分かった。私達が付いてっても足手まといになるし待ってるね。もし滞在が長引きそうならギルドに連絡を入れてくれる? 何もなければ三日後から始動ってことでいいかな」


「悪いな、そうしてくれると助かるよ」


 


 その日は、冒険者ギルドの受付でパーティー登録を済ませ、三日後、開門時間前に北門に集合する事を約束してラグナードとは別れた。




 ◇ ◇ ◇




 それからの二日間は、北の森で迷いの魔樹を探して外周と中奥の境目辺りを目安にリノと二人で慎重に活動した。


 八級以上の冒険者に強制依頼が発動されてた事もあって、北の森にはいつもより多くの冒険者が来ていたけど、彼らはもっと奥へと入って行くため鉢合わせする事もなかった。


 ラグナードに教えて貰った知識を活かして、魔素溜まりを確認したらすぐ、新たな魔樹が根付かないように聖魔法の『浄化』で消し去っている。


 処置した場所には聖魔水晶がある事があって、高値で売れるらしいのでさっそく探してみた。

 大きさも数もその時によってまちまちで、土に紛れるように存在しているから『魔力感知』スキルで探して回収する事になったけど、幾つも見つける事が出来たのでよかった。これ、結構高値で売れるんだって。


 聖魔水晶を使ってギルド証の魔法陣を左手に定着させたように、この水晶は主に魔法の触媒として使われているらしく、ギルドよりも直接魔道具屋さんに持ち込んだ方がより高く売れるとか。

 これもラグナードからの情報なんだけど、さっそく魔石の一部と共に持っていったら、本当に高値で買い取って貰う事が出来たよ。やっぱり情報って大事だよね。


 冒険者ギルドには、迷いの魔樹やその他の魔石は不審に思われないよう、いつもよりほんの少しだけ減らして提出しておいた。

 これでようやくリノの革鎧代も全額返済でき、明日からの新パーティー始動に向けて金銭面でもすっきりと片付いたのでよかった。




 そして、いよいよ森の奥へ行くにあたって私の護身の為にも短剣術をスキルとして取る準備をする事になった。

 『短剣』スキルを持っているリノから、本格的にその扱い方を教えてもらう。魔物を討伐するのに結構使ったと思うけど、スキルとして生えてこなかったからね。 


 上下左右、斜め、突きの九種類の斬撃の型を一通り習った後は、時間を見つけて自主練することに。

 

 でも普段使ってない筋肉を急に酷使したせいか、全身が筋肉痛になっちゃって痛いです……。

 こんなのに聖魔法の『治療』が効くか心配だったけど、ちゃんといい仕事をしてくれて、バッチリ治りました。さすが魔法、便利だね!


『短剣』スキルはレベル1を取るだけなら簡単で、リノは一週間毎日素振りをしたら取れたそうなので、私も地道に頑張ればすぐ手に入りそう。

 ただ、レベルは一年経っても上がってないらしいけどね。努力を続ければレベルアップも可能らしいけどどれくらいかかるのかなぁ。



 

 でもこうして本物のナイフを自分が毎日使う事になるとは想像もしてなかった。魔法を使うのとは違って現実味があるっていうか……。

 町中でも普通に武器を持ち歩いている人達で溢れているのを見るといまだにドキッとするし、「あぁ、そっか。異世界に来ちゃってるんだったよね」って思う。


 同じ地球からでも、銃とかナイフを日常的に持っていい国から来たならともかく、持ってるだけでも捕まっちゃうっていう日本から来た身としては、こんなに身近に本物の武器あるのは慣れない。


 平和な国から突然きて、よく無事にここまで生きてると思うよ……精神的にも肉体的にも、ね。




 ◇ ◇ ◇


 


  そうして迎えた三日目、ジニアの村には目立った問題は起きてなかったとギルドの受付で伝言を受けていたので、ラグナードとは予定通り開門時間に北門前で会うことが出来た。


 今日はいよいよ北の森の中奥に入る予定。


 私達の実力では二次災害になる可能性が高く、怖くて行けなかったから初めて足を踏み入れる事になる。

 魔樹以外にもまだ対峙した事のない強い魔物がいっぱいいるし、ちょっと緊張してきたっ。


「……お前らさえ良ければ、まずは10km程街道を行った後に、森の中奥より手前付近まで入ろう。その辺りでパーティー戦をして慣らしながら巨木群辺りまで進んでから、奥へと行くのはどうだ?」


 と、提案された。


 北門近くは、冒険者の他にも木こりや猟師もいて手は足りてるはずだから、少し遠くの狩場に行こうって言われたんだ。

 巨木群近くならよく通っていたし、他より馴染みがある。その事はラグナードも知っているから、きっと私達の為にと考えて選んでくれたんだろう。

 いきなり森の奥へ行くには彼と一緒でも怖かったので、とってもうれしい申し出だった。


「私達もそれがいいかな。道中、大きめの魔素溜まりがあれば『浄化』して進むんだよね」


「そうなるな。指示はその都度だすから」


「分かりました、頑張りますっ。じゃあ、出発しましょうか!」



 こうして三人での初パーティー戦が始動した。






いつもお読みいただきありがとうございます。

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