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第64話 再会



 懐中時計を買ったので支援魔法が切れる一時間毎にこうして樹に登り、休憩を入れる事にしている。


 スパンが短いけど、常に警戒してるから集中力が持たないのでそれくらいが丁度いい。


 シルエラさんから伝授された万能ドリンクといつものドライフルーツで補給するんだけど、こういう時の飲食って本当、身体に染み渡るんだよね。回復効果があるから当然なのかもしれないけど。


 そして今回はリノに貰ったクッキーもある……なんか、甘味ばっかじゃないこれ? でも、疲れたときにはそういうのが欲しくなるんだよね。

 ザクザクした固めの食感と噛み締める度に香ばしく立ち上る匂いのせいで、軽くの補給で終われなさそうというか、どんどん食べちゃいそうでこれは危険です。

 さすが彼女の一押し商品だけある、癖になりそう。これ見つけるのに『嗅覚強化Lv2』と『味覚強化Lv2』が大活躍したんだろうなぁ。はぁ、美味しいっ。




 何とか頑張って、やめられない止まらない魅惑の味を振り切るのに成功すると、支援魔法と聖魔法を重ね掛けしていく。


 よし、休憩終わりっ。


 鋭気も養えた事だし捜索を開始しますか。まだまだ時間もあるし、一体だけでも迷いの魔樹が見つかるといいなと期待しながら『索敵』を発動させた。





 休憩の度に二人で相談して、進むべき方向を決めていく。


 森の奥へ奥へとは行かずに、中奥よりは手前の辺りを中心に大体の進路を北の果樹園の方として、地道に捜索範囲を広げていく。


『マップ作成』スキルがあるから、初めての場所でも迷わずに自信を持って歩き回れるのはいいよね。身を守ることに集中出来るし。


 この辺りでは、ゴブリンやそれより強そうな今まで遭遇した事のない魔物の気配が時折『索敵』に引っ掛かって来る。


 感じとしては迷いの魔樹の強さに近い気がするので、一体なら二人で倒せる可能性が高いんだけど、すでに今までで一番多く討伐している事からあまり無理をしたくない。

 回復アイテムを持っているとはいえポーションのような、即効性の高いものはない訳だし、ね。


 ポイズンラット等の弱い魔物も減ることはないので、単純に今までより相手をしなきゃいけない魔物の数が増えるから、安全の為にも『索敵』で出来るだけ避けて戦闘回数を減らし、魔力を温存しときたい。


 一度視て、『鑑定』すれば何がいるのか分かるから対策を立てれるんだけど、もう少し近づかないと出来ないんだよね。

 冒険者ギルドの資料室にある北の森について書かれた書物によると、森の奥へと入って行くにつれて徐々に魔物が強くなり、体の大きな種類も増えてくると書いてあった。

 この辺りだとゴブリンの上位種族であるホブゴブリンや、鹿や猪、蛇型の魔物等が出てくるらしいよ。


 それに、魔物との戦闘が長引いたり派手に音を立てて暴れてると別の魔物を引き寄せてしまう可能性が高くなるから、今までよりも慎重に出来るだけ静かに行動しないといけないと注意書きもしてあった。


 さらにもう一つ厄介な事に、討伐に魔法を使うと放出された魔力に反応して寄ってくる魔物がいる事も載っていたんだよね。本当色々気をつけないとっ。


 いずれにしても、討伐後は即逃げられるように、体力と持久力に気を配って体力配分を間違えないようにして、油断せずに行こうと確認しあった。






 昼食を食べた後に、町へ向けて別ルートで捜索しながら引き返していると、ようやく一体、『索敵』スキルで目的の魔樹を見つける事が出来た。


 ゆっくりと前進しながら、人族のリノがどのくらい近づくと不味いのか、その距離を確かめることにする。


 その結果分かったのは、幻術が効く範囲は多分30mくらいっていうこと。う~ん、結構広範囲に術が通るんだね。


 討伐は私が火魔法の『火炎噴射』であっさりと倒し短時間で済んだ。魔石も大きくなかったので、どうやら若い個体のようだった。


 確実ではないけど、幻術も個体差があるだろうし、群生して生えてる場合だと危険度が上がるはずだから、リノの為に幻術対策の魔道具を買うことはこれで決定だね。


 一応、本日の目的を達成出来たので、ゴブリン以上に強い魔物に出くわさないでいる内に森の浅い部分まで戻ることにする。



 夕方までにはまだ時間がある。少しでも多く装備費用を稼ぐためにも、ここからは背負子で運べる程度の討伐と採取をしながら帰る事にした。 






 冒険者ギルドで報酬を受けとったけど、危険を冒したわりには控えめな金額だった。結構用心深く魔物との戦闘を避けてたからしょうがないか。


 なので今回の稼ぎだけは配分せず全て強化費用に当てようと決めて、まずは迷いの魔樹対策に先日行った魔道具屋さんへ向かうことにした。



 メイン通りから一本外れた道を少し進むとすぐ、お店に着く。


 店主のマールさんが出て来てくれて、ちょうど他にお客さんがいなかった事もあり、事情を話すと喜んで相談にのってくれる事になった。


 さすがにこの町で長年、冒険者相手の商売をしているだけあって、迷いの魔樹にもお詳しい。


 季節を問わず突発的に森の浅い部分まで出て来るらしく、毎年装備の整っていない新人冒険者が何人か犠牲になっているとか。

 一度確認されると侵略の期間が長引く可能性もあり、たとえすぐ終息したとしても森での活動を続ける限りいつ出くわしてもおかしくない。


 手頃な値段で売っている使い捨ての魔道具より、パーティーメンバーに人族以外の種族がいる場合は、サポートしてもらえるので、効果が弱くとも継続的に使えるものを選んだ方がいいとのこと。

 「幻術耐性+1上昇」でも、あまり近くまで行かなければ十分役に立つとアドバイスしてくれた。


 リノは他にも魔力と持久力に不安があるので、MP回復アイテムが欲しいと言っていた。

 支援魔法の補助がなければ長時間の活動はまだ難しいのを気にしていて、私の負担を減らす為にも自己強化をしたい、と。体力や持久力はMPに依存するからね。

 幻術耐性とMP回復のどちらも重要だし、先に買うのはどっちにすべきか迷っていて、マールさんに相談したかったみたい。


「お嬢ちゃんが考えているよりずぅっと、人族は迷いの魔樹の幻術に弱いんだ。足手まといになりたく無いなら、まずは魔力の補強より幻術対策の魔道具を買っといた方がいい」


「……確かに今日、私は幻術に気付きませんでした。あらかじめローザに教えて貰っていたにも関わらず、大分離れていたのに抵抗出来なかったみたいですから」


「そうだろ?」


 あの時、本人には術に掛かっているという自覚が全く無かったんだよね。


 特に何か匂いがするとか幻を見せられて誘われたとか具体的なものはなく、自然と意識が自分から切り離されて曖昧になっていったらしい。らしいと言うのはその曖昧さにさえ気づけて無かったから。


 私も彼女が少しフラついた時にハッとして、とろんっとなった目を見て初めて幻術に掛かったんじゃないか、と気づけたぐらい。

 それまでは正気に見えてたし、正確にどの時点で幻術の影響を受けたのかは分からなかったけど。手を繋いでなかったら、はぐれていたかもしれない……。


 後から確認しても、自分の不注意で離れかけたんじゃないかと本人が勘違いしてて、それで正気じゃなかったと分かったくらいだから。幻術怖い。


「エルフが一緒なら大丈夫だと言いたいところだが、トレントは何も迷いの魔樹だけじゃない。変異種が出てくる年もあるし、用心しとくに越したことはないさ」 


 幻術の恐ろしさを体験した後だと余計に、店主さんの話は納得出来る。


 レベル1だから効果がいまいち心配だったけど、そう言うことならと購入することに。「幻術耐性+1上昇」だと1000シクルなのでギリギリ足りるしね。


 出来るなら「幻術耐性+2上昇」が欲しいところだけど、それだと3000シクルもするから。残念ながら今、そんな大金はない。仮に私の個人資産を全部出しても足りないもんね。


 また頑張って稼いで色んな便利アイテムを買っておくれよ、と笑って言ってくれたマールさんと近々の再訪を約束してお店を出た。

 魔道具って本当便利だから手っ取り早く強化するには最高だよね! お金さえいっぱいあるならだけどっ。


 鍛冶屋も行く予定だったんだけど、武器を買うには中途半端な金額しか残らなかったので、リノの革鎧の返済金に当てる事になった。


 時計見ると約束の時間まではまだ余裕があるので、宿に帰って先に自分達用に取ってきた食材を料理してしまう事にした。






 夕方以降のギルドは、人が多い。リノはともかく、目立ちたくないからと外套で全身を覆いフードを目深にかぶった私は、魔法使いだって事は分かっても、話さなければ見た目で性別や種族までは分からないだろう。


 面倒な事が起きる前にと人混みを避けてさっさと二階に上がり、借りていた小会議室に入る。フードを外してほっと一息ついた。




 リノと二人でおしゃべりしながら待っていると……。


 ガチャリっ、とドアを開ける音が小さな部屋に響く。


「ラグナード」


「よう、久しぶり」


 茜空のような髪と、キラリと輝く金の瞳。


 引き締まった体躯を持つ、背の高い狼人族の青年が颯爽と入って来るところだった。


 ようやくこの町で彼と再会できた。






いつもお読みいただきありがとうございます。

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