第63話 予行演習
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「じゃあ今日は北の森で主に魔物討伐をするって事でいいかな」
「えっと、一番の目的は迷いの魔樹で、他の魔物は出来るだけ避ける、身軽でいるために採取はしないって方針でしたよね」
「そう。少しでも危ないと思ったらすぐ逃げられるように……軽くて嵩張らなくて高額買取のものなら採取するけど」
「ですよね! それで森から帰って来たらお金と相談して、魔道具屋さんか、鍛冶屋さんに行って強化できるものを探すと……」
「その予定。ラグナードがギルドに来るのは閉門時間の十八時以降らしいから、時間的な余裕はあると思うし、安全の為にもやれる事はやっておきたいし」
昨日どうするか相談してて、装備も整って来ているので出来れば今までよりほんの少しだけ森の奥に入ろうって事になったんだよね。迷いの魔樹を探す為にも。
リノとパーティーを組んでからは彼女の装備を買うまで、私が一人で行動していた範囲よりも更に安全な、森の浅い場所のみで活動していた。
それもあってまだ一度もあの樹に遭遇したことがないし、場合によっては幻術対策の魔道具が必要になるかもしれないから体験しておきたいっていうのもある。
ラグナードとパーティーを組めれば、危険地帯に行く事になると思うのでその予行練習も兼ねてる。安全第一の方針は変わらないけど、ちょっと冒険してみようって二人で決めたんだ。
開門直後に町から出て、すぐ北の森に入る。いつもならこのまま外周付近に行くところを、真っ直ぐ森の奥へと向かっていく。
人の手が入った箇所を少し抜けるだけで、段々と足場が悪くなって来た。
重なりあった枝で薄暗い場所も増えていき、背の高い草が藪になっていて見通しもよくないので、リノが『嗅覚強化』で、私が『索敵』で警戒しながら進んでいく。
数分進んだところで早くも『索敵』に反応があった。たぶん、ポイズンラット。それが六体分ある。ハンドサインでリノに注意を促し、慎重に進む。
迷いの魔樹討伐まで、私は極力魔力を温存し最小限の魔法でリノの戦闘をサポートする方向でいくので、聖魔法の『聖火』で対処することにした。
目眩まし効果以外にも小型の魔物ほどこの光を浴びると弱って動きが鈍くなるっていう利点もあるし、使い慣れているから魔力の調整もしやすいからね。
――来た。
左の方の草叢がガサガサと揺れだす。
我先にと一斉に跳び出してきたのはやはりポイズンラットだった。
知能が高くないので相手の力量に関係なく、条件反射のように襲いかかってくる。
弱い魔物とはいえ数は脅威に成りうるので、油断せず着実に倒すように気を引き締める。
私の魔法で目眩ましを受け、動きが一時的に止まる。攻撃に移る時間を稼げたので、リノが素早く前に出て、短剣で仕留めていく。
数が多いから私もまた、奇襲から回復出来ないでいる内に、残りの個体に万能ナイフで止めを差して回った。
武器で共闘するのは初めてだったけど、魔力を温存するためにもいずれはしないといけない事だから、弱い魔物で積極的に試していく。ちゃんと役割を果たせてほっとした。
魔石だけ取って手早く後始末し、その場を離れる。
今回はリノにも森の少し奧で活動出来るだけの最低限の装備がある。全身を覆うタイプで部分的に金属で覆われた動きやすい革鎧と、ある程度は盾の役割も果たせる丈夫な籠手。防御率が上がっているので、今までとは安心感が違う。
それはゴブリンと遭遇した時に結果として実証された。
小柄で身軽な魔物で接近戦になると魔法を使いづらい為、『索敵』に引っ掛かった段階で樹に登る時間くらいならあったので頭上から奇襲することに。
相手は五体いて群れて襲ってくるし、ある程度は知性がある。
一応、鎧や盾などの防具はなくとも棍棒や錆びたり欠けたりしたナイフで武装をし、少しは連携しようとしてくる。
四方を取り囲もうとしながらも頑張りきれずにバラけて突っ込んで来るっていう残念さはあるけど……。上位個体がいないと戦い方がポンコツになるのは助かるからいいんだけどね。
それでも知能があるのは厄介なので、ゴブリンには足止めではなく最初から確実に魔法で仕留める方針で行く。
まずは火魔法の『火矢』で遠方から先制攻撃をお見舞いするが、ポイズンラットと違って一塊になって襲いかかっては来ないので、群れ全体を一気に弱体化することは出来なかった。
それでも最初の奇襲で二体を無力化すると、すかさずリノが登っていた樹の上から飛び降り、体操選手顔負けの華麗な着地を決める。
残り三体がまだダメージを一切負っていないために、先にこちらへ近づいて来てしまったので、すぐ長剣を構えて向きあうことに……。
彼女にとっては初めての人型の魔物との戦闘だけど、臆することなく飛び込んでいく。こう言う時の彼女の決断力はすごい。
三体のゴブリンに囲まれ、振り回された棍棒を避けきれず鎧に当たって痛そうな音がするからハラハラしたけど、本人はまるで攻撃を受けてないかのように動きを止めない。
混戦状態だとこの場所から優位に魔法が打てないので、私も大きな音をたてて樹から飛び降りた。
それに反応してこちらに向かってくる一体を、火魔法の『火弾』を連続して放って排除すると、後方にいてダメージを負いながらもまだ敵意を剥き出しにしてこっちに向かって来ようとした個体に一気に近づくと、動き出す前に万能ナイフで仕留める。
丁度二体を倒し終えた彼女がすぐに加勢に来てくれたので、あっという間に全て討伐し終える事が出来た。
で、怪我の具合を確かめようとしたんだけど、初めて受けたゴブリンの攻撃がナイフじゃなく棍棒で、思ったより力がなく弱かったのと、丁度、鎧の金属部分に当たったらしく上手く衝撃を吸収してくれた事もあって、ちょっと痛いくらいですんだみたい。
やっぱり装備って大事。あの時、有り金叩いて手に入れられる革鎧の中で一番のを買っといてよかった。
私達が強くなったのか装備がよかったのかは定かじゃないけど、ゴブリンの攻撃を直接受けても少しなら無傷で防げると分かったのは収穫かな。
私は魔法攻撃だけで倒していたから、そこら辺の情報が不明だったんだよね。
それからも二人だと短時間で戦闘が終わるので、『索敵』でも避けきれなかった魔物だけをサクサク討伐しながら、森の中をあちこち移動して迷いの魔樹を探していったんだけど……。
「う~ん。結構見つからないもんだね」
「本当に。エドさんから聞いて一番可能性が高い所を探しているはずなんですけど」
「そうだよね。高い樹の上からスキルを使って視てもダメだったし……」
「北の森は広いですし、やっぱり難しいですよね」
おやつに持ってきた木の実入りのクッキーをモグモグ食べながら、リノもため息をつく。
肝心の迷いの魔樹には三時間経ってもまだ、遭遇出来ずにいた。
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