第62話 満喫出来たよ
ふう、疲れた。
宿に帰って、お土産にもらったジャムの瓶と借りてきた本をサイドテーブルの上に置くと、ベッドの上に寝っ転がる。
もうすぐ夕食だし、そろそろリノも帰って来るかなぁ? 今日は別行動だったけど、初めての休日、楽しめてるといいな。
甘いものが食べたいって言ってたし、この町の甘味を嬉々として買いあさってたりして。
そう、辺境にあるこの町にも割とあるんだよね、甘味。庶民が砂糖代わりに使える物が周辺の森から色々採れるから。
ここは人族の国、ロータス王国の辺境の地なので、森が特に近い。それは、脅威でもあるけど上手く付き合えれば豊かな恵みももたらしてくれるって事でもある。
例えば、様々な樹から採れる甘い樹液や、甘草や花など草花からの蜜、ハニー・アントの蟻蜜やハニー・ビーの蜂蜜などの魔物の蜜などが手に入りやすいんだよね。
白砂糖もあるけど庶民には高くて手が届かないので、こういったものが主に代用品として使われるみたい。
屋台でもこれらを使ったお菓子が売られているのを見かけるし、お肉や惣菜に比べると高価格だけど、甘くて美味しいからとリノがよく買って食べてる。
甘味専門のお店とかも探せばありそうだけど、今日は思ったより狭い範囲しか町を散策してなくて、私は新鮮な果物で作る果実水やジャムを売ってるお店しか見つけられなかった。
ベッドの上でゴロゴロしながら、「森の魔物辞典」をパラパラとめくって夕食までの時間をつぶしていると……。
「ただいま帰りました!」
リノが両手いっぱいの荷物と共に帰宅した。部屋の中にお菓子屋さんの店内にいる時のような、甘い香りがふわんっと広がる。
「お帰りなさい。美味しそうな匂いがする……」
「色々売ってたんですよ! 中でもこれ、香ばしい木の実入りのクッキーが絶品で何種類か買って来ましたから、後で食べましょうっ。他にはレッドシロップの樹の樹液を固めて作った飴玉とか、珍しい果物とか変わった形のパンの実もいくつかお試しに買ってきちゃいました。この町に来て初めて見たものばかりで、どんな味がするのか分からないですけど楽しみです!」
「へぇ、こんなに売ってるんだ。他のはどうだった、甘味以外のも美味しいものはあった?」
「はいっ。いっぱい食べ歩きして来ましたよ! 昼食はちょっとお高い魔物肉をいただけるお店に行って来ましたし! いいお肉って、シンプルに塩と胡椒を振って焼くだけでもう絶品なんですっ、あぁ美味しかったなぁ。あれなら50シクル出しても惜しくないです、うん。また今度ローザも一緒に行きましょうね」
「う、うん、そうだね。ちょっと高いけど私も食べてみたいかな」
リノの懐事情が気になるところだけど、散財したのは私も一緒だしね。また稼げばいいんだしたまにはいっか。食べ歩きを満喫出来て、リフレッシュ出来たようだし。
それから今度は、私の行ったお店の話もして、先程の冒険者ギルドでのエドさんとのやり取りも話した。
「いよいよ明日ですか。どんな人かちょっとドキドキしますけど楽しみです」
「私も助けて貰った時に会ったきりだし、等級とかも分からないけどすごく強い人だったよ。パーティー、組んで貰えるといいんだけど……」
「そうですね。私達が初心者で足手まといになるって分かった上で会ってくれる訳ですから、期待しときましょう」
夕食を食べた後は部屋に戻り、いつものように魔法の練習をする。
今夜はリノのサポートに徹する事にして、もう少しで出来そうな『魔力操作』を中心に基本魔法を習得する予定。
シルエラさんに補強してもらったおかげで、この時間にしては珍しく魔力が全回復している状態なので、先程の特訓でしてもらったように途切れる事なく支援魔法でのドーピングが出来るはず。
ただ、私には『魔力上昇』の支援魔法が使えないので、それをカバーする為にも効果がありそうな飲食物で底上げしておこうと思う。
まずは手持ちの緑の水玉茸と、自家製のMP微量回復付きのドライフルーツ、習ってきたばかりの栄養ドリンクを摂取した上で支援魔法も掛けて、魔力と共に体力、気力も補強をした。
魔力の流れを見て助言したり、実演したりしながら訓練を続けていき、魔力切れになる前に何度も支援魔法と魔力が込められた飲食物を補充していく。
そのおかげでリノは結構長い時間を倒れず一気に魔力を使うことが可能になってたくさん練習出来たので、基本魔法のスキルを一つ、習得するのに成功したよっ。よかった!
というわけで、二人のステータスを確認してみる事に……。
まずは私から。
種族 エルフ
名前 ローザ
年齢 16才
武術スキル
魔法スキル 『火魔法Lv2』『水魔法Lv1』
『聖魔法Lv2』『支援魔法Lv1』
『風魔法Lv1』
身体スキル 『魔力感知Lv2』←level up! 『魔力操作Lv3』←level up!
『魔力強化Lv3』←level up! 『身体強化Lv1』
『隠密Lv1』『俊足Lv1』『暗視Lv1』
『精神耐性Lv1』『幸運Lv1』
『味覚強化Lv1』『嗅覚強化Lv1』『視覚強化Lv1』
技能スキル 『鑑定Lv1』『索敵Lv1』『採取Lv1』
『マップ作成Lv1』『料理Lv1』
スキルは増えてない。でも中々上がらなかったレベルがシルエラさんに教えて貰って、ようやくアップしたのが嬉しい。
風魔法についてはまだ、半分しか覚えてないのでレベルは1のまま変わらないのはしょうがないよね。
次はリノのステータスを『鑑定』すると……。
種族 人族
名前 リーノ
年齢 15才
武術スキル 『短剣術Lv1』『棒術Lv1』
魔法スキル
身体スキル 『魔力感知Lv1』『魔力操作Lv1』←new!
『暗視Lv1』『幸運Lv1』
『味覚強化Lv2』『嗅覚強化Lv2』
技能スキル 『解体Lv1』
となってて、新たに『魔力操作Lv1』が取れてた。
無理かもしれないと諦めかけていた基本魔法のスキルを取れるように教えてくれてありがとうございますと、リノが丁寧にお礼を言ってくれる。
本来なら、体内魔力を錬成して増やすにはもっと時間がかかるものだからね。
こんなに早く取れるなんて信じられなかったみたいで、『鑑定』結果を聞いた時はニヤニヤしていた。
毎日諦めずに頑張って、色々実験した事がいい結果に結びついたのは本当幸運だったよ。
一般的な人族の村では、子供達が勉強や魔力を錬成する時間をたくさん取るのは難しいので魔力総量が伸びず、魔法を使える人が少ない。
魔力は成人するまでが一番伸びやすく、大人になるほど伸びにくくなると言われているし、彼女の特異な体質だと更に厳しかったはずなんだよね。うんうん、成果がでて本当によかったねっ。
それにしてもすごく充実した休日だったなぁ。
でもこれで、ラグナードに会う前に二人共、今できる範囲での装備とスキルの強化が最低限、間に合った。それでも森の奥に行くには不安があるけどね……。
明日も一日忙しくなりそうだし、今日はもう、ゆっくりお風呂に入って寝ることにしますか。
いつもお読みいただだきありがとうございます。




