第61話 練習、また練習
裏庭で引き続き魔法の練習をさせてもらっていると、時々シルエラさんが来てアドバイスと実演をしてくれる。
その上、たくさん練習出来るようにと『HP回復』『MP回復』『魔力上昇』の支援魔法の重ね掛けもやってくれた。
今日は魔力切れになる度に掛け直してくれるとのこと、ありがたい。
そのおかげで昼過ぎには『魔力操作』と『魔力強化』が、共にレベル3にアップするという結果が出たんですけど! こんなやり方があったとは……エルフの魔力量ってすごいっ!
基本魔法は一番レベルが上がりやすいって教えて貰っていたけど、実際にこうしてサクサク上がるのはとっても気持ちがいいものだよね。自分一人でやっていると全然上がらないから余計に、ね。
異世界にポツンと一人、放り出された時はどうしようかと思ったけど、こうして最初の町で同族のシルエラさんと知り合えたし魔法の師匠まで引き受けてくれたんだから、私って本当、幸運だったよね。
午前中は忙しそうだったシルエラさんだけど、それでも昼食を作ってごちそうしてくれた。
差し入れをした茸と裏庭で摘んだばかりの新鮮な香草、それにたっぷりのホーンラビットのお肉。
そのスープにスモール・ワームが丸ごと溶け出した煮込み料理……う、うん知ってた。そうだよねこうなるよね。
本物のエルフ族の皆さんが大好きな食材をふんだんに使った、この季節ならではの旬のエルフ料理と言えるものが出された。
シルエラさんも一応私もエルフだし、おもてなしの郷土料理といえばこうなるよねっ。
ここ数日ですっかり見慣れた食材ばかりだし、見た目も香りもたぶん味も栄養価も完璧な料理ですよね知ってますって。食欲を刺激されますよね、特にエルフなら!
「ささっ、どうぞ召し上がれっ。ここは人族の町だけど、辺境にあるから新鮮なスモール・ワームが手に入りやすいのがいいわね!」
「そ、そうですねっ。では、いただきます……」
うわあぁ、珍しくシルエラさんのテンション高ぁい……。
――ふうっ、スモール・ワームか。
まあ要はあれですよ食わず嫌いってやつだってっ。知らずに一度食べた事もある訳だし?
その時だって今まで食べた料理の中で一番美味しいと感じてた訳だし? 何度も討伐を経験して、私はもうアレの苦手意識を克服した……はず!
一応お客さんですし一口目は私からですよね。ニコニコしながら待ってくださっているし。
ごきゅりっ。
よ、よしっ、食べるぞ!
これはエルフの大好きな料理これはエルフの大好きな料理これは……以下略。
一匙掬ってそぉっと口に運ぶ。
トロトロに煮込まれ、茸やお肉の旨味がふんわりと溶け込んだ、風味豊かなクリームスープに仕上がっている。
女将さんの手料理にも劣らない、こってりと濃厚な味わいが口一杯に広がった。
それなのに後味がしつこくないのは、摘みたての香草が主張し過ぎず、絶妙な仕事をしてくれているからだよね。
うん……私、ちゃんとスープを味わえてる。普通に食べれてるよっ!?
「とっても美味しいです……」
「ふふっ、お口にあってよかったわ。こうして同族と食事するのも久しぶりだから張り切っちゃったっ」
シルエラさんがすごく嬉しそうに微笑む。耳が控えめにピコピコ動いてるしっ、もう可愛いな!
「そういえば人族の間では、エルフの若さの秘訣は昆虫食を食べてるからだって昔から信じられてたらしいわよ」
「へぇ、そんな事が……」
――誰だそんな傍迷惑な噂を流したの。
エルフの外見は、十年間で人族の二十年分の急成長をするけど、それ以降は寿命を終えるまでほぼ容姿に変化はない。
それは種族特性で、昆虫食のせいじゃないと言うのに。歳を重ねても若々しい外見に憧れるのは異世界でも一緒なんだ。
エルフの郷土料理はその誤解から広まったみたいだけど、伝えられた調理法が思いの外簡単で、素材も辺境ほど手に入りやすい上に栄養価も高く美味しい事から、今では人族のどの町でも食べられるようになったとか。
シルエラさんも一時期、冒険者をしていた事があったそうで、その時は人族の町でこんなに身近に食べられていると知って驚いたとか。おかげで故郷の味を恋しく思い出す事もなく快適な旅ができたらしい。
私にとっては衝撃の料理だったけどたぶんもう慣れたし、シルエラさんが嬉しそうだからいいや。
美味しい手料理をお腹いっぱい食べ、食後にまた、例の栄養ドリンクをいただきながら、今日の成果を報告する。
「順調そうね。次は、風魔法のレベル上げをやりたいんでしょう? 風属性魔法書はもう読み解けたかしら?」
「はいっ、何度も読んでます。ひとつはもう少しで出来そうなんですが、もう一つの技が難しくて……」
「いいわ。午後からはそれをやってみましょう」
「はいっ。お願いします!」
先日借りた風属性魔法書。理解はしているけど、いまだに未習得のそれを実演して見せて貰えることになった。
風魔法のレベル2で出来るのは、『風刀』と『無風』の二つ。
もう少しで出来そうなのが『風刀』なので、まずはそれから……。
『風刀』!
シュピっと軽い音を立てて敵に見立てた丸太に当たる。命中した的を見ると、深く切り刻まれた後が残っていた。
こうやって目の前で見せて貰うと、簡単に出来る気がして来るんだけどね。でも成功のイメージはとっても湧きやすい。
「こんな感じかな。じゃあ、練習してみてね」
「はいっ」
風属性魔法書を持ってきていたので、何度も読んでいるけどもう一度目を通してから、先程見た技を再現するように想像して、魔力を練って発動させる。
『風刀』!
う~ん。風は動いてるんだけどね。中々難しい。
その後、何度もやっている内に、威力こそ弱いものの丸太を浅く引っ掻く事ができるようになった。
「うん、いいでしょう。まだまだ十分とはいえないけど、この技は合格点よ」
よかった。何とか一つは、成功出来て。やっぱりとレベル2という事もあり格段に覚えにくい。基本魔法のレベル上げと同じようにはいかないか。
風魔法レベル2のもう一つの技、『無風』は、今日のところは時間切れ。シルエラさんに見本だけ見せて貰って、個人練習をすることになった。
宿へ帰る前に、ちょうど道筋なので冒険者ギルドに寄っていく事にする。結果がどうなったか一日では分からないかもしれないけど、大事な事だし念のためにね。
少し待つとエドさんの前が空いたので、さっそく例の件を尋ねた。
するともうすでに、ラグナードへ伝言を伝えてくれてたみたい。さすがエドさん、仕事が早い。
この町にいたけどソロで南の森を拠点にしていた為、今まで会わなかったらしい。
いつも閉門時間直後にギルドに来る事が多く、今日はまだ早いから来ていないとの事だった。
ただ彼も、こちらが初心者だと知った上でパーティー結成に前向きだったそうなので、セッティングはいつでも出来ると言われた。
こういうのは早い方がいいから、明日、ラグナードがギルドに来る時間帯に二階にある小会議室を一部屋借りられるか聞いてみる。
大丈夫、空いているとの返事を貰ったので、そこで会えるように伝言をお願いしておいた。
いつもお読みいただだきありがとうございます。




