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第60話 基本は大切



 散財してしまった事をちょっぴり後悔しながら魔道具屋を出て、メイン通りに向かう。


 予定通り、シルエラさんに会いに本屋へ行く事にした。




 それほどかからずお店に到着すると、すぐに気づいてくれてカウンターの奥から出てきてくれる。相変わらず笑顔が素敵でお美しいです!


「いらっしゃいローザ、待ってたわ」


「おはようございますシルエラさん、これよかったらどうぞ」


 お世話になっているので、昨日採ってきた茸と香草塩を手土産に持って来てみたんだよね。


「あら何かしら。まあっ、新鮮な茸がたくさん! ありがとう、いただくわ!」


 茸は昆虫型魔物と同じくエルフの大好物みたいで、とても喜んでくれた。よかった。

 久しぶりの雨だったので、昨日はお店を休んで茸狩りに行こうかと思っていたくらいだったとか……そんなにか。

 知ってたらもっと採ってきたんだけど……今度また茸が採れたら積極的に差し入れに来よう。




 この世界の雨は、空気中の魔素を取り込んで地上まで降ってくるので、生物にとって命の糧となる。


 短時間降っただけでも、魔物や植物に強い成長促進作用があるんだよね。昨日、北の森で活動していて、普段より活性化している森の中の状態が目に見えて変化してたからよく分かった。


 香草がいい状態で手に入ったのも、リノのスキルの他に雨上がり直後だったというのが関係しているんだろうなぁ。


 もう一つの差し入れである香草塩について、昨日、採取したもので作った事を伝えた時、効率よく効能が高いものを作るには、それが一番いい方法だと、シルエラさんが教えてくれたから。


『鑑定』スキルもお持ちだし、なにも説明せずとも私の作ったものの付加価値に気付いたみたいで、製作過程についても興味深そうに聞いてくれた。



 

 その後、スキルの進捗情報も聞かれた。


 基本魔法教本を借りたらすぐ覚えれた、『魔力感知』と『身体強化』。


 先程まで、そのレベルに変化はなかったんだけど、魔道具屋を出た直後に感じるものがあって、こっそり自分を『鑑定』してみたところ、『魔力感知』がレベル1からレベル2にアップしていた。


 その事を伝えると、一緒に喜んでくれる。


「魔道具屋で色々見て、感じた事もよかったんでしょうね。スキルが増えて、レベルも順調に上がってきているようで安心したわ」


「ありがとうございます。もう一つのスキルも上がるといいなって思ってたんですけどね……」


 一緒に使ってた『鑑定』スキル。大分情報が増えたので期待したけど駄目だったんだよね、残念。


 採取や討伐に役立っているけど、それは森の外周付近にある低レベルでも鑑定できるのものだからで……レベルが高いものはまだ無理みたい。


 『鑑定』は、人や魔物を看破できるスキルだけど、レベル1だと自分と同レベルかそれ以下で、しかも許可してくれた人じゃないと詳しい結果が分からない。シルエラさんとかレベルが違いすぎて、許可を貰っても分からなかったし。


 ということで、魔物についての知識は、お薦めの「森の魔物辞典」というのを借りて覚えていく事にした。

 お金が足りなくて支援魔法書は借りれなかったけど、100シクルで必要な知識を得られるんだし、これも『鑑定』のスキルアップに必要な事だからと納得はしている。


「鑑定のレベル上げには時間がかかるから早目に取りかかった方がいいわ。たくさんの知識と経験を積み重ねて、地道にやっていくしかないから。レベル2になると許可なく一部のスキルが看破できるようになるから、安全の為にもまずはそこまで上げたいわね」


「そうですね。パーティーを組むようになりましたし、本当は先に支援魔法書を借りて強化したかったんですけど……」


「そうね。気持ちは分かるわ。でも焦っちゃ駄目よ。スキルの熟練度ってとっても大事だから。その本は宿で一人でも勉強できるから、ここでは基本魔法のレベルを出来るだけ上げちゃいましょう。私も協力するから!」


「はいっ。よろしくお願いします!」


 基礎が大事なのはどの分野でも同じだもんね。単純に自分の強化になるし、四属性魔法など、他の魔法も効率的に覚えられるようになるから長い目でみればその有効性は明らかだし。


 支援魔法の習得にしても、その方が覚えやすく、少ない魔力負担で使えるようになるからと励ましてもらった。


 他のスキルが相変わらず全然レベルアップする気配がないのも、基本魔法のレベルが低いせいもあるかもしれないしね、頑張ろう!






「どう? 少し休憩しない?」


 前と同じように裏庭で魔法の練習をさせて貰っていると、シルエラさんがお手製のドリンクを持ってきてくれた。


 勧められてさっそく飲んでみると、微かに甘みのあるまろやかな水が、じんわりと体の中に広がって、全身から活力がみなぎってくる感じがした。


 気力、体力、魔力を効果的に回復する飲み物らしく、作り方も教えてくれるとのこと。


 まず、十種類の果物と薬草を使って作った、HP・MP回復効果と、滋養強壮効果など、様々な効能付きの、シルエラさん自慢のジャム。


 見た目は苺ジャムぽくて、これだけでも美味しそうだし十分効き目がありそうだけど、一工夫することで、素材の相乗効果もあり、更に一段上の味と効能になるとか。


 ということでまず、生活魔法の『水作成』で出した水を聖魔法で『浄化』した中に一匙、そのジャムを溶かし入れる。

 そこに今回は、私が持ってきた香草塩もひとつまみ入れ、かき混ぜる。


 たったこれだけで、様々な効果付きの万能ドリンクが出来上がる。簡単だし、これを冒険に行く時に毎回作って持っていくようにと勧められた。


 なるほど、この世界の熱中症対策みたいなものか。栄養ドリンクの効果もあるし、随分と強力な飲み物になってるけど、これはいいね!

 シルエラさんから、大きな容器に入ったジャムを一瓶貰ったので、毎朝作ろうと思う。



 とっても薄味なのにいくらでも飲めそうなほど美味しいドリンクを飲み干すと、シルエラさんに支援魔法の『MP回復』と『魔力上昇』を重ね掛けして貰った。今日は魔力切れになる度に掛け直してくれるとのこと、ありがたい。



 よしっ、じゃあ魔力切れの心配もしなくていいことだし、気合いを入れて練習の続きをしますか!






いつもお読みいただだきありがとうございます。

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