第58話 ボトルゴードの町
リノが炊事場でお肉を解体してくれている間に、宿の部屋で香草塩を作る。
魔法を使う製造過程は他の宿泊客に知られたくないし、秘密にしないとだからね!
午前中に採って来た香草。甘草、辛草、涼草、黒鞘豆草の葉っぱと茎を、適量組み合わせ机の上に置いていく。
甘みの強い甘草とミントっぽい香りの涼草は少なめに、唐辛子のようにピリリとした刺激の辛草と肉の臭みを取る黒鞘豆草の葉っぱと茎を多めにした。
その真上に、陽光がわりに『聖火』を使って光球を出し、持続させるために強めに魔力を込めて浮かせ、香草全体に当たるよう調整する。
聖魔法の『浄化』できれいにしてから、水魔法で中の水分を絞り出していく。
ここまでで十分乾燥して、触っただけでもパラパラと崩れていくほどになったので、用意しておいた少し大きめのスライム袋(ほぼビニール袋と同じ)の中に素材を全て入れる。
外側から袋を手で押し潰してある程度細かく砕き、最後に今回から新たに覚えた風魔法を使って、ミルミキサーをイメージしながら袋の中に渦巻き状の風を起こし、仕上げをしてみた。
うん、これは前回より均一できれいに細かく砕けてる。
最後に塩を入れて袋を振り振りし、よく混ざったのを確認してからちょっと舐めて味を確かめた。
これだけでも十分美味しいけど、病み付きになる旨さにするには金茶香茸を適量足し、隠し味に苦味のある虫根コブ草をちょっぴり入れる必要があるので、先程と同じ手順で粉末を作り少量ずつ加えて味をみていく。
虫根コブ草が足りないかと心配したけど大丈夫そう。うん、これくらいでいいかな!
しかし、金茶香茸の効能の一つが「食欲増進作用」のせいか、積極的に食事をしたくなってくるというか……暴食衝動とは違う感覚なんだけど気力が満ち溢れてくるみたいな?
ただこれ、前回のにはここまで感じなかったような……素材がよすぎたのかもしれない、美味しいんだけどね。
作りたての香草塩を持って一階の食堂に降りて行き、女将さんにも味見して貰ったところ、更に美味しくなってると絶賛された。そうですよね、私もちょっとやり過ぎたかなって思ってます……。
指定されたのは昨日の五倍だったけど、きちんとその分量を納品出来た。買取も上手くいって、午後の稼ぎも合わせると今日は上々の結果なのでよしとしよう。
リノも、私が立て替えてた宿代を全額返納してもまだ手元に220シクル残ったので無一文から脱却出来たし、革鎧の代金もパーティー費用から着々と支払えてて順調。
やっぱり金茶香茸の群生地を見つけれて良かった。茸の大きさによって一個、5~100シクルと振り幅は大きいけど高値がつくので、本当にいい収入源になる。
今回も三十個で1020シクルといい値段が付いた金茶香茸。同じ場所にまた生えてくるから、絶対採りに行こう!
後は、食費を押さえるために料理をするだけだね! 今日は三羽もウォークバードのお肉があるのでなんとか足りるはず……たぶん。
前回と同じ焼き肉をリクエストされたので、大量の骨付き肉に作りたての香草塩振ってからバンバン焼いていく。
美味そうに湯気が立っている焼きたてのお肉を早速、リノに取り分け、食べて貰った。
「……! 何これっ……昨日より更にすっごく美味しくなってますっ。ふわっと香る香草塩の風味が食欲を刺激して堪りません! 飽きずにどんどんいくらでも食べれますよこれは!!」
「……ソレハヨカッタネ」
食欲増進作用が効いているのか、ブラックホール並みのリノの胃袋が暴走しているだけなのか、そこら辺はよく分からなかったけど……。
相変わらず冗談のような見事な食べっぷりで、ほぼ一羽半をきれいに食べるとようやく手が止まった。
残りは、この総量なら明日の夜までに食べきれますよとのお返事をいただきましたよ……う~ん、ものすごい。
今度こそ燻製肉で保存食を作れるよねと意気込んでいたけど、またまた今回もおあずけになりました。
リノって順調に体質改善してるのに、食事量はそのままなんだよね……なんでだ。なので、食費の負担は減らないという残念な結果になっている。
でもまぁ、今日残ったウォークハード約一羽半の非常食とドライフルーツをたっぷり渡してあるから、さすがに一日であれだけの所持金が食費に消えるとかはないだろう……ない、よね?
続いて女将さんの夕食を堪能しながら、明日の事を話し合う。
今日まで二人とも頑張ったし、迷いの魔樹も心配だけど、明日は休みたいねってことで同意した。
彼女も私もこの町に来てから一度も休日を取ってないから、いい加減リフレッシュしたいって思ってたんだよね。
二人で相談して、そうする事に決めた。
◇ ◇ ◇
この世界に来てから初めての休日。
いつでも休める自由な冒険者家業の割に何故か全然休めなくて、十三日目にしてようやく念願叶いました!
今日はリノとも別々に行動することにする。だって彼女の食べ歩きは、絶対ハードでとんでもないから、付き合ってたらお腹がはち切れちゃってトイレの住民になっちゃう未来が見えるからね!
なので私は、定期的に顔を見せなさいって言ってくれたシルエラさんに会いに、本屋へ行こうと思ってる。ついでに少し町歩きもしようかな。
早速外へ出て、なんとなくいつもの癖で冒険者ギルドに向かって歩く。目的もなく街をぶらつくなんて今日が初めてかも……。天気もいいし、う~んっ、散歩日和で気持ちいい!
――そういえば、その日を生きるのに必死でこの町のこと、何も知らないなぁ私。
冒険者ギルド以外の、例えば木こりギルドとか商人ギルドとかが、どの場所にあるのかも知らないし……。
その他、この町にどんなギルドがあるのかも、時間を知らせてくれる時の鐘が教会にあってそれが魔石の力で動いてた事も、大通り以外の路地にも小綺麗で素敵なお店がたくさんあることも……。
――何も知らなかった。
ちょっと余裕がなさすぎたかなぁ?
レンガ造りの綺麗な道を、色々『鑑定』したり『魔力感知』したりしながら、ゆっくり歩いていく。暖かなレンガ色は異世界だという事を忘れさせてくれそうで……。
いつになくリラックスしてぶらついていると、前方に一軒、気になるお店があった。
時間も十分あるし、ちょっと寄ってみようかな。
――そこは……。
いつもお読みいただだき、ありがとうございます。




