第56話 新メンバー候補
「それにしても迷いの魔樹が、また森の外周付近まで出てきてるなんて……驚きましたね」
「そうだね。私たちも北の森にずっと行ってるけど、あれから『索敵』範囲に一度も引っ掛からなかったのに」
「はい。この町を守るためにも頑張りたいですけど、すでに何体も討伐しているローザはともかく、私は火力もないし幻術にも耐性がないですし。精々、道中やローザが討伐中に他の魔物を警戒するくらいしか出来ません……」
「それで十分だって。ソロよりパーティーの方が確実に安全なんだし、実際随分楽に活動出来てるから。でも、私達が初心者パーティーで弱いのは変わらないよね。唯一勝っているのが幻術に耐性があって、他の冒険者さんより安全に討伐出来るっていう事。エルフとは相性がいいんだよね、迷いの魔樹は。これを生かしたいってエドさんは思ってるんだろうけど……」
二人だけだと圧倒的に火力と経験が足りてない、自分達の安全を確保するだけで精一杯だもんね。
安全の為に最低でも一人、護衛的な役割をしてくれるベテラン冒険者がいればいいんだけど、この町にいる冒険者は辺境だけあって思ったより少ないらしく個人レベルでパーティーメンバーを探すのは厳しい。
だから、エドさんは打算もあるだろうけどサポートを申し出てくれたんだろう。この町に来て日の浅い私達にそんな知り合いはいないと思って。
でも、私には一人だけ心当たりがあったので、どうなるか分からないけど伝言を頼んでみたんだ。
「詳しい事は、歩きながら話すね。ちょっと装備品とかお塩とか買いたいし」
「じゃあ、私はさっそくそこの屋台で串焼き肉を買ってきます!」
――美味しそうな匂いがしてるもんねぇ。
ということで食べ歩きもしながら、この町に来る途中で出会った狼人族の青年、ラグナードの事を話した。
ゴブリンの群れに襲われてたところを助けて貰ったこと、ソロの冒険者かどうかは確認してないこと、この町にいるとは思うがまだ一度も再開していないこと等……。
彼女も、今初めてその知人が狼人族の青年だって知らされてびっくりしたみたいだけど、それなら異性でも安心だと言ってくれた。パーティー組めれば心強いんだけど、さてどうなることやら。
こればかりは運に左右されるからね……『幸運』スキルにめっちゃ期待しとこう、うん。
まずは鍛冶屋に行き、ブルボさんにリノの防具について相談する。
迷いの魔樹と遭遇する可能性が出てきたのと、パーティーメンバーが増えれば、危険な森の奥へ討伐に行く事も考えて、私が貯蓄しているお金も使って早急に強化してしまおうと提案した。
リノは渋ってたけど、いずれパーティー費用からの回収が可能だと説得して了承してもらった。安全第一だから、ここは妥協出来ない。
前衛なので、革鎧は私よりも軽くていい品質のものが欲しかったので、色々見せて貰って、丈夫で軽めの魔物の皮でできたものに部分的に金属で補強してあるのを選んだ。
鎧の下に着る鎧下も、ちょっとお高いけど、これだけでも十分防御力は上がるもんだと太鼓判を押して貰ったものがあったので、併せて買うことにする。
中古品だったのとサイズが小さく売れ残っていたこともあり、かなり割り引いて貰えたけど、それでも両方でお値段3000シクル。
パーティー費用から回収するからいいと言ったんだけど、リノは全財産をつぎ込んでくれて、足りなかった不足分、2625シクルだけを私が出した。
「そこまで甘えられませんから。両方とも、明らかにローザのより高額ですし、ほんの少しですが出させてください」
無理しなくていいのに。彼女がそう主張するので押しきられてしまったけど、大丈夫かなぁ。またまた無一文になっちゃってるし、もう串焼き肉一本も買えないんだよ?
うん、やっぱりシュンっとしちゃってるね。これは頑張って食後の狩りを成功させなきゃ! でもその前に……。
「さっき採ってきた茸や香草もあるし、宿の炊事場で料理しようか! お肉はないけど、領主様のパンの実をちょっといただいて食事にしよう、ね?」
「はいっ、私も手伝います!」
その後は、香辛料のお店で香草塩用に新たに塩だけ購入し、宿屋に荷物を置きに戻った。
◇ ◇ ◇
「おや、二人とも、今日は随分早かったねぇ」
「まだこれからもう一度、森に行く予定なんですよ」
「そうなのかい? そりゃ大変だ。よく働くねぇ、すごい荷物じゃないか。今日の森は茸も大量だったろ? いっぱい採取出来たんじゃないかい。それにいい香りがするよ、香草かい? なにを採ってきたんだい?」
食材に関しては女将さんも興味津々で、ワクワクしながら尋ねられた。頼まれて、その場で採れたての茸や香草を取り出して見せる。
ふんふんと愉しげに採取物を確認していた女将さんから、トレードしないかいと提案された。
二人分の食事代として、現物でいくつか譲る代わりに今から賄い飯を作ってくれるという。新メニューを思い付いたらしい。もちろん大賛成なので、喜んでその物々交換に応じることにした。
「なんか得しちゃいましたね」
「うん、メニューにはない、おかみさんの美味しい料理が食べれるなんてちょっと楽しみ」
少し待って出てきたのは、先程の茸と香草、それにお肉を細かくして入れた少量のスープに、パンの実を潰して混ぜ込み、リゾット風にしたような一品だった。それに、昨日の香草塩をお好みで振りかけていただく。
「どうだい? 朝食の新メニューにしようかと思うんだけど。まずはそのままで、その後、香草塩を使って味の感想を教えてくれるかい?」
「「はいっ。では、いただきます!」」
木のスプーンで掬って一口、口に含む。フワッとほのかに甘みが香り、食べるとじんわりと優しい香草の風味が広がる。
噛めば噛むほど旨味の増す茸といい、無意識に食べる速度が速くなった。リノには及ばないものの、たっぷりあったリゾットをあっという間に完食してしまう。この間、お互いに無言で……。
女将さんはそんな私たちを見てニコニコしていた。
「あ、香草塩を振りかけるの忘れてた……」
「――っ!? しまったですね。私もすっかり食べるのに夢中になっちゃってて……」
「いいよいいよ、それだけ美味しく食べてくれたってことだろ? 今、おかわりを持ってくるからね。それで確かめてくれたらいいさ!」
もう一度、二人分をよそってきてくれたので、今度こそ香草塩を振って食べてみる。
「――これはっ!? 元から美味しかったのに、更にめちゃくちゃ美味しくなりましたよ、女将さん! 特に茸がっ。茸ってこんなに美味しかったです? なんか旨味が増してるというか。いくらでも食べれそうです!」
「この香ばしさがいいですね。それにリノの言う通り、香草塩を使った方のが茸の風味がより引き立つと言うか……?」
「うんうんっ、ありがとね! 『味覚強化』スキル持ちの二人からお褒めの言葉を貰ったんだ、新メニューは成功だね。どうだい、まだおかわりあるよ、食べるかい?」
私はもう十分満足したけど、リノはそれから三回ほどおかわりをし、お鍋をが空っぽになるまで食べきり、一時的にでも満足そうだった。ヨカッタネ。
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