第55話 バレてます
今回討伐したスライムも同じ袋に詰めて、背負子に乗せる。さっきのと合わせると結構な量になって、これは高額買取が期待できそう!
ただ、今日はもうホーンラビットも四体討伐しているので、だいぶ背負子のスペースも埋まってきてるんだよね。
買取一覧表にある薬草を道々採取し、香草塩に使う香草も、東の草原で手に入れる予定のものがここで見つかりたくさん採ったので、私の方の背負子は採取物で一杯になっちゃってるし。
茸も色んな種類が生えててもっと採りたかったけど、可食可能なのを自分達用に少し採取しただけでもう荷物がいっぱいで、整理したけどこれ以上は持てなさそう……。
「確かに。残念ですけど今日はもう帰りましょうか?」
「そうだね。じゃあ、町に戻ってちょっと早いけど先に食事しない? で、それ食べてもまだお昼にならない時間だろうし、よかったらもう一度ここに来ようか? 金茶香茸も見つけたいし……」
「……っ! いいですね! そして今度こそ、自分達用のお肉も狩りましょう!」
お互いに欲しかったものは見つからなかったけど、それは午後からに期待しようと言うことになった。
結局、果樹園まで辿り着けてないから、この距離からだと北門はそれほど離れていない。
すぐに街道に出て、少し急いで戻れば、三十分ほどで冒険者ギルドに着つけるだろう。
◇ ◇ ◇
相変わらずこの時間の冒険者ギルドの受付はガラガラで、すぐにエドさんに査定してもらえた。
「おや、お二人も、今日は東の草原に行かれてたんですか?」
薬草や香草と一緒に、大量のスライムの塊をドンっとトレーに乗せると、すごい量ですねと言って驚きながらも、さりげなく尋ねられた。
……何か察するものがあったらしい。さすが敏腕(と勝手に思ってる)受付スタッフ、鋭い。
まぁ、スライム講習会を受けたばかりの新人パーティーが、あの講義内容でこれだけの量を、こんなに早い時間に持ってきたんだもん、彼ならピンと来て当然か。
というか、ギルドに他の冒険者がいなくてよかった。エドさんの質問で気づかされたけど、変に目立っちゃうとこだったよ、うっかりしてた。もっと慎重に、気を付けなきゃ。
「それがですね、北の森にいたんですよ……たくさん。雨降りの後だからですかねぇ。偶然見つけれてラッキーでした」
「……ほほう、北の森で。なるほどなるほど? これだけの量を、ですか……。いやはや、順調に実力を身に付けられてますね?」
ニコニコしながら、意味深にそう言われた。
……なんかバレてるっぽいけど、つまりそれはギルドも裏技を知ってるってことですよね!? 何か悔しいので、遠回しに聞いちゃう事にした。
「講習会で教わる以上の事って、だれかに質問したら答えてくれるんでしょうか?」
「そうですねぇ……」
エドさんが言うには、同じ冒険者からはライバルになるので聞き出せないだろうと言うことだった。
でも冒険者ギルドは、常に品薄のスライム素材を求めているわけで、水魔法の使い手がいる冒険者パーティーには、受付で上手に情報収集すればこっそり教えてくれてたらしい。
ギルドにしても、スライム素材は欲しいが、今現在、大量納品してくれる冒険者達は裏技を秘匿したがっているから、そちらの恨みも買いたく無いわけで……まぁ、いずれは広がっていくだろうけど、今は過渡期なので対応が難しいそうです。
結局、推察は当たっていたって事だけど、私達の場合は新人で北の森を主に拠点にしていたのと、そう言う裏事情もあり直接質問されなかったため、あえて説明しなかったって事らしい。ソウデスカ。
まあ、結果だけ見れば、怪我もせず初遭遇で成果を出しているため、咄嗟の対応力と適応力のあるパーティーですねと高評価を頂けたんだけど、あんまり嬉しくない。
だって、完全なる偶然の産物だって知ってるからさ、けっこう危なかったし無邪気に喜べないよね!?
それはともかく、私達が今からもう一度、北の森に行く予定だと聞いたエドさんから、知っておくべき重要な最新情報を教えて貰った。
何でも、昨日、北門近くの森で活動していた冒険者が何人か、迷いの魔樹に惑わされ襲われかけたらしい……。
幸い、同じパーティーメンバーが助け出して無事だったみたいだけど。
「その冒険者パーティーさんは、森のどの辺りまで行ってたんですか?」
「外周付近の浅い場所で、そこはいつも活動している見知った場所だったそうです。ただ、迷いの魔樹の幻術に惑わされて、少し森の奥まで入り込んでしまったようなんです。随分さ迷ったみたいではっきりとした場所がお伝えできないんですが……」
「そうですか……外周付近だけは、粗方討伐出来たと思ってたんですけどね」
「ええ、そうですよね。他に調査依頼していた皆様からも、一旦は収束報告を貰ってましたし、少し警戒を緩めていたんですが……甘かったようです」
何でも収束宣言を出す前に、ギルド職員を派遣して見回りをし、きちんと確認をとっていたらしい。
ほっとする間もなくこんな事になって、エドさんもとても残念そうだった。
「エルフのローザさんがいるので幻術に関しては大丈夫だとは思いますが、一応気をつけておいてください。それとまた、北の森での討伐の再開をお願いしたいのですが……」
「分かりました、私達にできる範囲で協力します。ただ、初心者二人だけのパーティーですので、今まで通り、お受けするなら森の外周付近のみということでいいですか?」
リノとも相談して、安全を確保した上で今の私達に出来る精一杯がそれになると言うことを説明する。
「そうですね。考えてみればお二人だけの初心者パーティーでしたね……分かりました、それでお願いします。……ただ、誰か、冒険者にお知り合いの方はいらっしゃいませんか」
「知ってる人、ですか……」
「ええ。出来れば期間限定でもいいので、物理攻撃に強い人が一人いれば、もう少し森の奥まで討伐範囲を広げていただけるのではないかと……すみません新人さんに勝手を言いまして……」
「まぁ、この状況じゃ仕方ないですもんね。そうですね……いないことはないですけど今この町にいるかどうか」
「よろしければ、ご伝言を承ります。その方のお名前を聞かせてだいても?」
積極的に話を進めてくれるエドさん。
確かに、これからもずっとリノと二人だけのパーティーというわけにはいかないし、ギルドの思惑に乗る形にはなるけど、私達にとって不利な提案って訳でもない。いいきっかけなのかも。
と言うことをまたまたリノと話し合い、快諾して貰えたので、提案に乗る事にした。
名前を告げて、メッセージを預ける。
「無理を言ってすみません。迷いの魔樹を幻術に掛からず、安全に討伐出来る冒険者は少ないものでつい……」
「いえ、こちらこそいい機会でしたから」
森の浅い部分にある迷いの魔樹は、順調に討伐出来てたと思っていたので、被害が出ていると聞いて私もショックだったし、パーティーの実力さえ上がれば、もっと協力できる。
とりあえずは、外周付近で見つけ次第、討伐することを約束して冒険者ギルドを出た。
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