第53話 採取日和のはずが……
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雨上がりの北の森にやって来た。
今日は北門で開門を待っている時、冒険者は一組のパーティーしかいなさそうだったので、すぐに森の中に入ってみた。やっぱり皆、東の草原に行くのかな。
ここから昨日行った果樹がたくさん生えている所、私たちは「果樹園」と呼ぶようにしたんだけど、そこまで採取しながら森の中を進み、帰りは街道を通って帰ってくる予定だ。
今のところ周辺に先程の冒険者が一組いるけど、森の中なので直接姿は見えないし、十分距離もとっているので狩場が被る事はなさそう。
ここら辺はまだ町からも近く、冒険者の他にも木こりさんや猟師さんが毎日入っている事もあり討伐が進んでいる。
魔物とも野生動物とも一度も遭遇しないまま、早速いくつかの香草を採取出来た。
香草塩用に欲しかった、甘草、辛草、涼草、黒鞘豆草などが、次々と見つかったので、少し多めに採取していく。
これはリノが大活躍してくれたおかげだ。
彼女の『嗅覚強化Lv2』のスキルは、知っている香草なら離れた所からでも、匂いでその場所が分かるらしい。
見通しの悪い森の中だと、直接自分の目で見ないといけない私の『鑑定』スキルよりずっと優秀だったんだよね。
それに優劣の選別にも、とっても役立つスキルだったよ。香草塩に使っているのはごく一般的な香草なので同種の株がたくさんある。その中から、より香り高い株を嗅ぎわけて選ぶことが可能だったんだ。なんかもう人間業とは思えないんですけど……スキルってすごいね!
私も同じ『嗅覚強化』を持っているけど、レベル1なのでやはり精度が違った。
リノに教えてもらいながら『鑑定』と合わせて使用することで、何とか違いが掴めてきたって感じかな。勉強になります。
とにかく、とってもいい状態のものが手に入ったので、試作品の香草塩より品質の良いものが作れそうです!
二人で一緒に採取しているのですぐに終わり、今度は道々、生えている茸を、『鑑定』していった。
雨が降ると、何種類もの茸がポコポコ生えて来るって言ってたけど、本当によく見つかる。
中には下級ポーションの原材料となるものが樹の幹にびっしりと群生している場所もあり、今までになく至る所で、探そうとしなくても次々見つかるのには驚いた。
ちょっと雨が降っただけでこんなに増えちゃうなら、雨の月ってもっと凄いんでしょ? 今から楽しみなような怖いような……どうなっちゃうんだろう?
――でもこれなら金茶香茸もあるかもしれない。
香草塩に使っているのは香草だけじゃない。金茶香茸という、トリュフに似た香茸も少量、アクセントとして入れているんだ。日本でもトリュフ塩とか売ってたし、これも合うんじゃないかと思って。
少しバターのような、香ばしい独特の香りがするんだよね。この匂いを発して動物を引き寄せ、食べてもらって胞子を運ばせ繁殖していくのだとか。
地表ギリギリに生え、落ち葉の下に隠れるのでとっても見つけにくいんだけど、私の『鑑定』に加えて、リノの『嗅覚強化Lv2』があればいけるはず。
私の『嗅覚強化Lv1』では、あんまり役に立たないことが分かっているので彼女に匂いを嗅いで記憶してもらう。これだけ香りの良い香茸だし、美味しい調味料の為にもリノなら見つけてくれるはず。
今度は茸をメインに探して歩きながら、その他にもお茶や薬に使われたりポーションの材料となる薬草や、食べられる野草なども摘んでいく。
「なんか、いろんな種類の茸がいっぱい生えてきているけど、マジックキノコとか珍しいやつは中々見つかんないもんだね」
「まあこういうのは運に左右されるって言いますし……。ってことは『幸運』スキル持ちの私たちは有利なはずなんですけどねぇ?」
おかしいなぁ。昨日は『幸運』スキル、リノと出会ってから活躍してくれてるんじゃ? とか思ってたんだけど……やっぱり運だけに気まぐれなのかな。
中々見つからない中、意外なものが一匹、ポヨンポヨンっと目の前に現れた。
「スライムだね」
「はい、スライムですね?」
「茸じゃなくてスライムが出てきたかぁ。確かにこれも北の森では珍しいけど……」
出会えたのは運がいい。でも違うんだよ……これは別に探してなかった。
スライムは買取価格は高いけど、なかなか昇給ポイントがつかない魔物なんだよね。
パーティーの人数掛ける百体分で6点なので、私とリノだと二百体分のスライムを一日で集めないといけない計算に……無理でしょこの数は、ね?
今はリノの昇級を優先的に目指しているので、ポイントの稼げるスモール・ワームとかの方が、私たち的にはいいんだけど。一匹だけって言うのも扱いに困るというか。狩らずにスルーするか?
「ローザはまだ、北の森で一度も見てないって言ってましたもんね?」
「うん、そうだよ。ここを狩場にしてから、雨降りの後に来たのは初めてだし。こういう時は、割と出てくるみたいだとは聞いてだけど」
とか話しているうちに、のんびりポヨポヨしてたその一匹が、急にボヨンっとジャンプをし、顔面に向かって飛んできた!
「うわっ」
思わぬ跳躍力にびっくりして、とっさに使ってはいけないと言われていた水魔法を打っちゃった!
スライムを見てたら水を連想しちゃったよ! 私のバカ!
「しまった!」
水魔法で正面から攻撃され、魔法の水をたっぷりと吸収して生き生きとしだしちゃった!
やたらとその場で元気よく、タシュッタシュッ、と垂直跳びしていたスライムが、パーンっ、とポップコーンが弾け飛ぶように一気に分裂する!
するとその小さな分裂体がそれぞれ、あっという間にムクムクと膨れあがっていった!
一つ一つの大きさが、 どういう原理が働いているのか、すでに元のスライムと同じ大きさにまで一瞬で成長してしまう。
「なにこれ?……ただ大きくなるんじゃなくて、こんな増え方するの?」
「ローザっ、危ないです!」
リノがサッと手を引っ張って後ろへ移動させてくれる。スライムの生態にびっくりして、動きが止まってしまってた。
短くお礼を言ってから、やつらの動きを観察する。
ざっと見た感じ十体以上はいて、プルプル震えて今にも跳びかかって来そうだ。
普段よりも攻撃的になっているのか、あっちこっちに飛び散らばってた、生まれたてのスライムたちが、ポヨンポヨンと弾みながら、一斉にこっちに向かってくる。
体当たりはともかく、溶解液での攻撃があるので弱い魔物とはいえ討伐には少し危険が伴う。
「囲まれちゃう前に個別攻撃で倒そう! 素材は余裕があればで構わない!」
「了解です!」
それから二人で、分裂し、一気に育ってしまったスライムたちを、協力して倒して行った。
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