第52話 北の森へ
寝る前にそれぞれベッドに腰掛けて、パーティー初戦の出来事を話した。
――戦闘数は全部で十二回と結構多かった。
ほぼポイズンラットとのものだったけど、どれも危なげなく倒せてたと思う。『索敵』があるから、事前に来る魔物情報が分かって備えられたのがよかったよね。安全に討伐出来たから。
北の森の中でも弱い魔物とだけ遭遇したから、リノが前衛で短剣での接近戦を、私が後衛で遠距離からの魔法攻撃をと、役割分担して連携の確認も出来たし。
成果も、新人だけのパーティーとしてはかなりの数だと思う。
魔物の報奨金は十体単位で出るので、規定数に達してなかったポイズンラットとスモールワームについては、私が以前討伐し貯めていた魔石を足してきっちりと数を合わせた。
少ない額でもコツコツ積み重ねることがとっても大事だからっ。貰えるものは貰っとかないとね!
……こんなに細かいところからもコツコツと頑張ってるのに、いつも自由に使えるお金がないってどうゆうことなの。
冒険者として揃えられてない物も多くて、ちょっと貯まったらすぐ高額の装備品に消えてっちゃうんだよね。
で、そんな涙ぐましい努力の結果、冒険者ギルドに提出したのは、討伐したホーンラビットが二体、ポイズンラットの魔石が四十体分、スモール・ワームが魔石のみと併せて四十体分と、採取したウルルの実が十個。
この中で報奨金が出るのはポイズンラットとスモール・ワーム。報奨額は十体で20シクルと同額だったので、合わせて160シクルになった。
ホーンラビットはやはり大きな個体だったので、一体35シクルのところを40シクルに、ウルルの実もきれいな状態だったので最高額の一個3シクルと、それぞれいい買取価格がついた。
討伐・採取の買取総額は584シクル、ここに女将さんから受け取った香草塩の代金、100シクルを加算する。日本円だと、二人で約七万円近くを一日で稼いだ計算になる。リノの籠手を買ったからもうほとんど残ってないけど。
昇級ポイントは26点。これも、町中の依頼だと、丸一日の仕事一件につきほぼ1点しかつかない事を考えると多い。
お金はパーティー費用分とメンバー数で三等分し、昇級ポイントもパーティーで等分される。
という訳でリノの累計昇級ポイントは27点、私のは108点となった。
十級昇格に必要なポイントが100点なので……。
「じゃあ今日、九級に昇級したんですね、おめでとうございます! なんにもお祝いしませんでしたけど……」
「ありがとう。今日はリノの売り込みのおかげで香草塩が売れたから、それでいいよ。でも昇級のメリットってあんまりないよね?」
「う~ん? 自分がどれぐらいの強さかっていうのが分かるぐらい……ですかね? それにギルドから等級にあった最新情報を教えて貰えたり?」
「まぁ、そのくらいかなぁ」
自分の強さを測る目安として利用する、討伐・採取依頼一覧表に書いてある基準と照らし合わせ最適な依頼を自ら探せる、ってくらいか。
基本、等級で受けられない依頼はない訳だし。冒険者ギルドは、無謀な挑戦をしたければ自己責任でどうぞと、冒険者本人に危機管理を任せるスタンスだからね。
昇級時のギルド証の更新には、九級だと銀貨3枚のお金が掛かった。迷いの魔樹を討伐したお金ですぐ支払えたのでよかったよ。
次回、九級昇級のポイントは1000点。今度は簡単に上がれなさそうです。
リノも今日で、十級の強制討伐依頼である、スモール・ワームの討伐を達成した。パーティーでのポイントは等分割されるから、スモール・ワーム二十体分のポイントが一気に入って喜んでた。
私の『索敵』スキルがあれば、今日のような討伐数がこれからも安全に稼げる。
昇級ポイントもたくさん入ってくるはずだから、彼女もすぐランクアップ出来そうなので、お金を溜めないとね。
特に、食費とか食費とか食費に全振りしちゃわないよう、見張っとかなきゃ!
しかし、ほんと今日は朝から色々あった。
『幸運』スキルが必ずしも幸運だけを運んでくれるとは限らないこと。リノが木登りそれほど得意じゃないと判明したこと。適当に調合した香草塩が、リノと女将さんの心にクリーンヒットしたこと。リノの不調の原因が推察出来たこと――。
色々あったけど、何か不利になるような出来事は起こっていない。むしろ、一緒に行動することでいい運が呼び寄せられている気がする。
案外、迷信レベルの噂も、私たちに関しては当たっているのかも、ね?
◇ ◇ ◇
夜半に降り始めた雨は、明け方には上がっていた。この世界に来てから初めての雨だった。
今日からはちょっと早起きして、北門が開門する一時間前に起床することにした。 魔法教本の貸出期間中は集中的に二人で魔法を練習することにしたんだ。
朝起きたらすぐ二十分ほど、無理をしない範囲で、昨夜学んだ事の復習をする。それぞれで魔法書を読んで練習したり、リノに見本を見せて教えたりして過ごす。
それから部屋でほんの少し休息をとって魔力を回復させてから、朝食を食べに行き、北の森に向かうという予定だ。
出発は、狩場のトラブルを避ける為にも、いつも通り他の冒険者が少ない開門時間直後にした。
「雨、あがってよかったですね」
「そうだね。そういえば、少しでも雨が降った後っていうのはスライムが急成長して分裂しやすくなるんだったよね?」
「講習会で言ってましたもんね。水辺周辺の他の魔物も同じらしいです。多分冒険者の皆さんは同じ事を考えていると思いますよ。今日はスライムを含め、水辺の魔物狩り日和だって。湖や湿地帯から東の草原にも溢れ出て来るでしょうし、討伐の冒険者で大混雑するんじゃないですか?」
「だよね。香草塩の材料の一部は東の草原で手に入れたんだけど、今日は行きたくないなぁ。北の森でも生息してればいいけど……。とりあえずは、女将さんの依頼を優先でいい?」
「はいっ。それに多分、今日はキノコもいっぱい生えてますよ。香草を収穫しながら、見つけたら採取していきましょう」
この世界だと、少しの雨量で急成長して増えるのは魔物だけじゃなくて茸もそうらしい。
雨上がりは稼ぎ時なんだろうけど、北の森にもまだ見たことないけど小川はあるらしいし、茸を食べに魔物や野生動物も出てくる。危険も増しそうだから気を付けないと。
「一覧表をみてると、結構、高額買取の茸もありますし、北の森にはマジックキノコも生えるみたいですよっ。宝探しみたいで楽しそうです!」
「じゃあ今日は、香草塩用の香草と茸狩りに北の森へ行くってことで……」
「それと焼き肉用の獲物もいっぱい狩るのを忘れずに、です! 出来立ての香草塩を付けたやつ、また食べたいですから!」
――そういうことになった。
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