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第50話 新たな仕事



「いらっしゃい。リーノちゃんも食べてくんだろ?」


「はいっ。いつもの定食お願いします!」


 食堂に二人で行くと、すぐに女将さんが声をかけてくれた。


 リノは宿泊客が食べているのと同じ夕食を注文する。他のメニューに比べてこれはちょっとお安くなってるからお得なんだよね。


「はいよっ。すぐに持って来るからね!」



 

 少し早い時間帯なので、お客さんは私達の他にはもう一組がいるだけだ。


 テーブルに着いてしばらくおしゃべりしながら待っていると、女将さんが二人分の定食を運んできてくれた。


「はいっ、お待たせっ。ところでさっきは炊事場で何を作ってたんだい。いい匂いがこっちまで漂ってきてたよぉ?」


「んふふふっ。そうでしょう? ローザがオリジナルの調味料ですっご~く美味しい焼肉を作ってくれたんです。はあぁぁぁ、あれはやみつきになる味ですぅ。また食べたくなってきちゃった……」


「へえぇ。そんなにかい? 料理人としては興味があるねぇ」


「勿論、女将さんのお料理も美味しくて大好きですよ! ……そうだ! ねぇローザ、物は相談なんですけど、明日の昼食用に取っておいたやつ、あれ、女将さんにちょっとお裾分けしましょうよ。それでせっかくですし私達も一緒に食べましょう、ね!?」


「えっ?」


 えええぇっ、食欲大魔神のリノが、人に《《自分の食べ物を譲る》》って言ってる!?


「そんなに美味しいのなら、私も食べて見たいけどねぇ」


 二人から期待のこもった、キラキラした眼差しを向けられた。


 ――なんかこの展開、前にも経験したことあるやつや……リノに魔法を教えるきっかけになった時のと同じ流れだよ。


 まあ、女将さんにはいつもお世話になってるし、リノがいいって言うなら私も別にかまわないけど……昼食はまたどっかで買えばいいし。


「わかりました。プロの料理人に食べてもらうっていうのは、ちょっと緊張しますけど」


 お肉はリノが、「持っていると我慢できなくて食べちゃうっ」というので、私がまとめて預かってたんだよね。

 袋から取り出しテーブルの上に並べると、フワワンッと食欲を刺激する香りがひろがった。


 お客さんもまだ来ないことだし、せっかくなので女将さんにも座ってもらって一緒に食べる事にした。


「こりゃまた美味しいねぇ。丁寧に下処理もされてるし、味付けも絶妙じゃないか。特にこの清涼感のある香りがいいよ。ローザちゃんがこんなに料理がうまかったとはっ。うちにスカウトしたいぐらいだよ!」


「ですよねっ。美味しすぎて夢中で食べちゃいましたよ! 私、本当にローザと一緒のパーティー組めてよかったです!」


 なんか二人とも褒めすぎじゃないですか? ちょっと照れるんですけどっ、エヘヘヘッ。


 ……って、まあ私が上手なんじゃなくって、全面的に『料理』スキルのおかげっていうのはわかってますけどね!? なんか適当にやっててもプロ級の仕上がりになってる気はしてたんだ、うん。美味しいから文句なんか全然ないけれどもっ。


「……ねぇローザちゃん。レシピを教えてくれとは言わないからさ、この香草塩、売ってくれないかい? 値段は……そうだね、この容器一個分で銀貨一枚までなら出すよ、どうだい?」


 おおっ、試作品だから少ししか入ってないのに結構いいお値段じゃないですか! 


 ――そういえば塩単体は比較的安く手に入るけど、ブレンドされたものは香辛料のお店でも結構高価格で売ってたね。ドライフルーツも高かったとリノが言ってたし、加工されて長期保存できるものは割高になるのかな? 


 しかしこの量で100シクルになるのかぁ、すごくいいね。塩以外は原材料費タダだしこれは売るしかない!


「分かりましたっ。それで手を打ちましょう!」

 

「よしっ、商談成立だね! それでさ、これからも定期的に作って売ってくれないかい? 今回と同じ値段で買い取るからさっ」


 配合は覚えているので、材料さえ揃えればすぐに再現できるから、もう一度作ることは可能。


 お金は何故か、二人揃っていつも不足気味だし、いくらあっても困らないから稼げるならやってみたい。


 この香草塩に使用する香草は、北の森の比較的浅い場所や、東の草原で安全に手に入れることができるから、リノと一緒の活動範囲内で全て揃う。


 彼女の了承も得た上で、女将さんの依頼を受けることにした。


「よろしくお願いします! 後で必要な量を教えてくださいね」


「はいよっ。じゃあこれ、香草塩の代金、渡しとくよ」


 女将さんから銀貨一枚を受け取る。これはリノの売り込みのおかげで稼げたので、折半することにした。彼女は遠慮してたけど、営業って大事だから! これで一つ、安全で継続的な町中の仕事が手に入ったんだからね。


 それに女将さんは、他にも何かいいのが出来たら、それも一度持ってきてと言ってくれたし。お眼鏡に適えば買い取ってくれるらしい!


 女将さんの『料理Lv3』のスキルには及ばないけど、私の『料理Lv1』と、リノの『味覚強化Lv2』、『嗅覚強化Lv2』があれば、相乗効果で絶対いいものが出来そうじゃない? 今から楽しみ! それに、もしちょっと売り物には微妙なものが出来上がっちゃったとしてもリノならきれいに平らげてくれるだろうし、ね!? 


 ともかく、このお金があればリノも今日からこの宿に泊まれる。パーティーを組んだからには一緒にいた方が都合がいいから、女将さんの申し出は丁度よかったよ。これは『幸運』スキルがいい仕事してくれたのかも!?




「おや、じゃあリーノちゃんも今日から泊まれるのかい?」


「はいっ、お世話になります。女将さん、これからは私のこと、リノって呼んでください。親しい人にはそう呼ばれてるので!」


「そうかい。じゃあ改めてリノちゃん、ようこそ夢見亭へ、歓迎するよ!」


「よろしくお願いします!」


「部屋割りはどうするね? 一人ずつ別の部屋だと大銅貨7枚ずつ、二人で同室なら大銅貨5枚ずつで泊まれるけど」


「「じゃあ、同じ部屋の方で!!」」


 そりゃパーティー事情的には安いの一択でしょ! リノと綺麗にハモっちゃって息ぴったりだねって笑われたけどっ。

 

 今回は、昨日、私が先払いした十日分の宿代に、不足分を足す形で精算してくれた。リノは全額支払える余裕がなかったので、私が代わりに出しおいたよ。




 結局、女将さんのご好意で泊まらせてもらった、白地にブルーの小さな花柄が可愛らしい壁紙の部屋には、一泊しかしなかったなぁ。






いつもお読みいただきありがとうございます。

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これからもよろしくお願いしますm(_ _)m♡

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