第49話 宿屋で料理
お肉に釣られて元気を取り戻したリノと宿に戻り、さっそく料理をすることにした。
炊事場で今日使う食材を並べていると……。
グギュルルルゥゥッ――!!
「す、すごい音だね……」
「うううぅっ、すみません。お腹、空きすぎちゃってて……」
誰かさんのお腹の虫が、えらい勢いで催促しているようなので、手早く作れてすぐ食べられるやつ……シンプルに焼き肉にしようと思う。
最初は、羽根をむしって下処理済みの、ウォークバードの解体。
これはリノがやってくれた。村では子供の頃からよく手伝っていたそうで、ナイフを使って部位ごとに丁寧に切り分けていく。
さすが『解体』スキル持ちだね。
無駄なく綺麗にさばいてて、勉強になります。私がしたのと全然違う。前より少しだけ大きなウォークハードだったとはいえ、可食部分のお肉の量が明らかに多くなってるよ。
その間に私は火の準備をする。
燃料の薪は、通称薪の樹と呼ばれている樹から作られており、周辺の森から木こりギルドが伐採してきたもので、部屋の端の方に積み上げられていた。
火打石や、焚き付け用の細木まできちんと揃えられており、魔力を使わず使用できるつくりになっている。
薪は、女将さんが使っているような、魔石を利用した魔道具に比べて値段がとってもお安いので、宿泊客が使用する炊事場ではこれを使うみたい。
薪の樹は、特に香りがよくて火の持ちがいいうえに、その煙には、ちょっとした殺菌・防腐作用もあるとか。
これで普通にお肉を焼くだけで、一日ぐらいなら常温で保存でき、燻製肉ほどじゃないけどほんの少し樹の香りもついて、いい感じにおいしく出来上がるらしいよ。火加減は難しいけど、焼き肉ぐらいなら『料理』スキルもあるし大丈夫でしょ。
火を起こしている間に、切り分けられたお肉から順に下味をつけていく。
といっても、香草塩をまぶして焼くだけなのですごく簡単で、すぐに準備が出来た。
これ、自家製の調味料なんだけど、使うと何故かやたらと旨味が引き立つんだよね。
辛草や甘草の他にもいろんな香草を、森で見つけた時にちょくちょく摘んではその都度魔法で乾燥させ、粉末にして木製の保存容器に保管していたんだけど。
その中の何種類かを直感で適当にブレンドして、塩と、一対一の割合で作ってみたオリジナルがこれ。『料理Lv1』が地味にいい仕事をしてくれたらしく、そこそここだわりの味に仕上がっているんだ。
本当はフレッシュな香草を使うと、より香り高く、風味豊かな仕上がりになるんだけど、生のままだと傷みやすく長期保存には向かないから乾燥させたものだけを使っている。
そのかわりと言うか、いつものように魔法で乾燥処理したことで、またしても付加価値がついてた。
『鑑定』してみたら、「HP回復」と「MP回復」効果付きの調味料になってたよ。他にも相乗効果なのか殺菌・防腐作用など色々付いてたけど。万能調味料を作り出した気分になって、ちょっとテンション上がっちゃった。
まあ、少量ずつしか使わないので、効果はそんなに期待してないけどね。
でも、MP回復だけじゃなく、HP回復効果も増えたのは多分、虫根コブ草も入れちゃったからだね。
下級ポーションの原料になるぐらいだし、薬効も期待して何かに使えないかなと、少しだけ自分用に取っておいたんだ。
生食は不可と『鑑定』結果に出ていたので、匂いを嗅いで端っこの方をちょっとだけ齧ってみたところ、柑橘系に似た清涼感のある香りと、少しの苦味が感じられた。
で、軽く火であぶってみたら、可食可能となったので、これも調味料に使えないかなと思って加えてみると、より効果の高いやつが出来たんだよね。MPも《《微量》》回復のところの「微量」がとれてたし。
出来上がった香草塩を味見したら、香り高くいいお味になってたので、今回使ってみることにした。
前に狩ったウォークバードを調理した時には間に合わなくて使えなかったから、どんな味になるのか楽しみ!
料理スキルって、どうやって発動したらいいのか分からないから、「おいしくな~れ」って、心の中で念じながら作ってみている。効いてたらラッキーぐらいのつもりで……。
い、いやだってほらっ、おまじないっぽいかもだけど魔法だってイメージ力が大事でしょ? だから料理もそうかなって、ね!?
しばらくすると炊事場に爽やかな風味が香りだし、ウォークバード一羽分の骨付き肉が次々と焼き上がっていく。
作りながら、切れ端をちょっと味見してみたら、シンプルな料理なのにこだわりの逸品みたくなってて、スパイスの効いたおいしいお肉になったと思う。
「この匂いは強烈に食欲を刺激しますねぇ、じゅるりっ。はぁ~いい匂い! 焼きたてが一番美味しいですからねっ、早く食べましょうよ!」
「そうだね。じゃあ私はこの小さいのひとつ貰おうかな。もうすぐ夕食だし。あ、リノはいっぱい食べていいよ。でも明日の昼食分は残してね」
「はいっ。ではいただきます!」
骨付き肉を熱々のまま齧りつく。表面が少し焦げちゃったのもあるけど、中までよく火は通っている。
「前に頂いたのも美味しかったですけど、これはまたより一層、味に深みが出ていると言うか……いやぁ、美味しいですねっ。いっくらでも食べれそうです!」
「確かに。香草塩の味付けだけで、こんなに美味しくなるなんてすごい……。それにしても、いっぱい出来たねぇ。これだけ量があると、リノが食べても余るよね。残ったらどうしよっか? 干し肉にでもしてみる?」
「あ、いえ大丈夫です。全部食べれますから」
「……これを今から全部?」
「はいっ」
元気よく宣言すると、頬っぺたをリスの頬袋のようにパッツンパツンに膨らまして、モリモリと食べていく。
決してがっついて食べている訳ではないのに、お肉の山がみるみるうちに崩され、リノのお腹に収まっていった。
……十五才にしては育ちすぎの一部分を除いて、ほっそりした体型をしているのに一体どこに入ってくんだろ。
ちょうど、干し肉の作り方をリノに教えて貰ったばかりで、思ってたより簡単に魔法で作れそうだから、挑戦してみたかったんだけど……この勢いだと本気で全部食べ尽くしてしまいそう。
わずか十五分後……。
あれだけあったお肉がきれいになくなり、骨だけになってた。
うんっ、全然余らなかったね、干し肉にするとか無理だった!
――最初に明日の昼食用の分を別にしといてヨカッタネ。
そして、綺麗に全部平らげたリノが言った一言が……。
「あー美味しかった、またこうやって食べましょうね! それはそうと、食堂からおいしそうな夕食の匂いがしてきましたよ。ちょうど小腹も空いてきましたし、女将さんの食事を食べれるの、今日も楽しみにしてたんです!」
「うっ、うん……そっか。私もお腹、まだちょっとは空いてる、かな」
「一緒ですね! じゃあ今から行きましょう」
……一緒かぁ?
そうですか。リノさんは、まだまだまだまだ食べれますか。
さすが食欲大魔神、半端ないです……次はもっともっとお肉を用意しなきゃっ。
食費を押さえる為にも、干し肉用のが残るくらいまで、ね!?
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