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第46話 それぞれの本能?



 ――始めは順調だったんだよ。



 調子よく、ロープも無しにどんどんどんどん樹の上の方まで登っていって、枝から枝へとあちこち実を追いかけて……。


 細い枝先にあるのも、躊躇せず片っ端からひょいひょいもぎ採っていくから、なんだ、手慣れてるじゃんって思って安心してたんだ。


「おいひーれふっ! あんまぁ~い!」


 喜んで、採れたてのおっきなウルルの実を、何個も丸かじりして幸せそうにしてたし。


 果物狩りしていっぱい食べるの、楽しみにしてたもんね。束の間の休憩を思いっきり満喫できてるみたいだった。


 リノの底無しの胃袋的には、希望通り、お腹いっぱいになるまで食べられたのかは……不明だけど。




 ――しばらくして……。



 そういえば、はしゃぐ声が聞こえてこなくなったなぁ――とか思っていたら……。



「ぅにゃぁ~っ!」


 なんか上の方から、可愛らしい悲鳴が聞こえてきた。


「何々、ど、どうしたのリノ!?」

 

「あ、あのっ、私、今気づいたんですけど、なんか、ここから降りられなくなっちゃったみたい……なんです、けどっ!?」


「ええぇっ、なんで!?」


「え、えっと、どうやら高い所が苦手っぽかった、みたい、な?」


「嘘でしょ!? そんな上まで登っておいて? 躊躇なく危険な枝先とかまで行ってて!?」


「いやぁそうなんですけどね!? なんか、この大きな実をいっぱい食べれるって思ったら、テンション上がっちゃってたみたいで、そんなの気にならなかったというか! 気づいたら無意識にこんな高い所まで登っちゃってたらしくて……降りるのが怖く、なってきちゃって……」


 なんか勢いで木に登って、降りれなくなった猫みたいなこと言い出しちゃってるしっ。


 ――果物に夢中になってるうちは良かったんだろうけど、食べ終えて満足した途端に、はっと我に帰っちゃったんだろうなぁこれは。


 私が木登りの得意なエルフで良かったねっ、リノさん?





 とりあえず、そこを動かないように指示しておいて、するすると近くまで登っていく。


 念のためにロープを予備も含めて多めに持ってきてたから、これを使おう。


 巨木群の虹色の樹とかの方がずっと高かったから私は平気だけど、人族のリノにはここら辺の樹でも難易度高めになるかもと思って準備してきたのがさっそく役立ったよ。


 彼女がへばりついている枝の近くにロープを結んで、それを伝って降りてもらうことにする。


 荷物は私が運ぶから樹の上に置いたままでいいとして、一人で頑張って貰いたいんだけど、大丈夫かな?


 ダメそうなら出来るかどうか分かんないけど、ぶっつけ本番で『身体強化』して抱えて降りるしかないけど……。




「これで降りれる? ゆっくりでいいから……」


「は、はいっ。頑張ってみます……」


 下を見ないように、ロープを伝って降りることだけに集中してもらう。


 慎重に、一歩一歩ゆっくりと足場を確かめながらだったので時間はかかったけど、なんとか地上に着くことができたみたい。ほっ、よかった。


「ありがとうございます、ローザ。はぁぁぁっ、怖かったですぅ。嫌な汗かいちゃいました……」


 連戦の息抜きに楽しむつもりが、緊迫感のある脱出劇になっちゃったもんねぇ。ペタンっとその場に座り込んじゃった。


 思ったより消耗してそうなので、支援魔法と聖魔法を重ね掛けして回復の手助けをする。 

 すると青白かった頬にみるみると赤みがさし、見た目だけはすぐに元気そうな顔色になった。やっぱり魔法って、怖いくらいに便利ですね!




「立てる? ちょっと離れたところで休憩しよっか」


 このままスモール・ワーム狩りをした痕跡が残っている場所にいるのはまずいからね、動けるようなら移動しないと。


「はい。なんか、すみません。行けると思ったんですけど……ダメでした。次は必ず降りれるようになってみせます!」


「まあ、最初からそう何もかも上手くはいかないし、二人のパーティーなんだからさ。私が得意なことは任せてもらってもいいんだし、気負わないでね?」


「はい。ローザはエルフですしこういうの得意ですもんね。何かコツとかあるんですか?」


「う~ん? まぁ、私のは種族特性というか、本能みたいなものだしねぇ……口頭で教えるのが難しいというか。それにリノもあれだけ上まで行けたんだし、木登り自体は出来てる訳だし」


 食べ物に釣られちゃったとはいえ、ね? リノのあれも本能みたいなもんでしょ。


「ですよね!? 降りる時はへたっちゃいましたけど、今度はちゃんとロープも使えば大丈夫だし、行けますよきっと! あんなに大きくて美味しい果物、スモール・ワームだけに独占はさせませんから! 同じ甘いもの好きとして、そこは負ける訳にはいかないとこですからね!」


「ま、まあ、無理しない程度にね?」


「はい!」




 うんうん、よかったよかった。いつもの調子が出てきたね。


 トラウマにならなきゃいいなと心配してたんだけど、私が思っていたよりもずっと逞しかったようで安心したよ。


 今回は、村の中にある収穫する為に剪定などで手入れ済みの樹に登るのは問題なくても、ウルルの樹みたいに野趣あふれる高木に登るのは無理だって、早目に分かっただけでも収穫ありだったよね。



 本人は再挑戦する気満々みたいだし、克服できたらパーティーの為にもなるし……うん、頑張って貰いましょう。






いつもお読みいただきありがとうございます。

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