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第43話 『幸運』スキル



『幸運』スキルの何がまずいのか、考えてもわかんないから、もうリノに直接聞いちゃおう。


「それが、どうかしたの?」


「…… もしかして、知らないんですか? 『幸運』スキル持ちが狙われるってこと」


「ええぇっ、なんで!? 幸せを運ぶスキルなんじゃないの? それもう『幸運』仕事してないじゃん! っていうか……わ、私も、持ってたりするんだけど……これ私も狙われ……」


「う、嘘でしょ!? ローザ本当なんですかっ」


 顔をグッと近付け、私の両肩をガシッと掴んで揺さぶりながら、小声で叫ぶ。


 近い近い近いっ!


「う、うん。そうだけど……何々っ、やっぱりそんなにまずいの?」


「っ、本当なんですね……。いいですか? よく聞いてくださいねっ。庶民にとっては迷信レベルの話なんですが、昔から、欲深い権力者たちにはまことしやかに信じられている噂があるんです」


 おでこがくっつくぐらいの距離で、誰にも聴かれないように、囁くようにして教えてくれる。




 ――曰く、『幸運』スキル持ちと一緒にいるだけで恩恵にあやかれる。


 ――曰く、『幸運』スキル持ちと協力して魔物を倒すと、経験値が倍増し、運が上がり実力以上の魔物が倒せる他、パーソナルレベルやその他のスキルにも恩恵があり、『幸運』スキルまで獲得出来る。



 ――とかなんとか。



 さらに、一人よりは二人、二人よりは三人と、スキル持ちを多く手元に集めると、集めたぶんだけの相乗効果が期待でき、運気も倍増するらしい。


 何それ、もし本当ならチートじゃん!?


 ――でも、例の白い部屋の人を信じるなら、努力すれば報われるっていうこの世界でなんかそういうのって……。



「そんな効果、本当にあるのかなぁ? ちょっと都合よすぎるっていうか、嘘臭くない?」


「ええ。大体、一緒に行動しただけで『幸運』スキルが取れるのなら、今頃この世界には『幸運』スキル持ちで溢れかえってますよきっと。私にそのことを教えてくれた神父様はそうおっしゃっていました」


「確かに。でもそうなってないってことが、噂に根拠がないって証明してるようなものなのにね」


「はい、その通りです。実際は、普通の人よりちょっと運がいい程度で、そこまで劇的な効果はないと言われています。ただ欲に取り憑かれた人間が最後に求めるのが、その『運』だということで狙われちゃうんですよね。……なのでそのぶん余計に危ないって」


 金と権力にものを言わせて、 力づくで来そうだもんね。うわぁ、本当に見つかるとめんどくさそう。


「なるほど。そういう人は自分に都合のいいことしか信じないだろし……過剰な結果だけを求めそう」


「はい。ただ、『幸運』スキル持ちでも権力志向の強い人だと、それを武器にして自ら売り込みに行く人もいますし。婚姻とかでも大人気ですしね。だから同じスキルを持っているからといって油断出来ない所がまた、余計に厄介なんですよね」




 ――『幸運』スキル持ちも必ずしも味方ではないって事と、権力者に見つかると厄介なスキルっていう意味も、よ~く分かりました。



「一応確認だけど、権力者や同じスキル持ちには近づかないっていう方針でいいかな」


「はい。それに、こうなったら一緒にいる方が安全です。『幸運』スキル持ち同士で協力して、さっさとレベルアップしちゃいましょう! その方が不運をはね除けてくれる力も手に入りやすいんじゃないかと……」


「そっか、分かった。じゃあ頑張って二人とも強化しないとね!」


「はいっ」





 それからリノと、他のスキルについても情報を共有しようと話し合った。


 私が『鑑定』スキルを使えることも話して、本人の了承を得たうえで、彼女のステータスを確認する。




 種族 人族


 名前 リーノ


 年齢 15才


 武術スキル 『短剣術Lv1』『棒術Lv1』


 魔法スキル 


 身体スキル 『魔力感知Lv1』


       『暗視Lv1』『幸運Lv1』


       『味覚強化Lv2』『嗅覚強化Lv2』


 技能スキル 『解体Lv1』




 リノに聞いたところ、このスキルの数とレベルは、新人冒険者の平均値らしい。


 村でも『鑑定』を使える人はいたようで、最後に確認した時から新たに『棒術Lv1』のスキルが取れているとのこと。


 私が魔術に特化しているから、リノに武術スキルが二つもあるのはありがたい。


 でも棒術かぁ……思い当たることと言えば……。



 あれかな? 昨日スライムを長剣で突っついて倒したやつ。棒じゃなくて長剣だったけど、実際に魔物を倒すとスキルが取れやすいっていうし。


 長剣も使い続けていれば、『剣術』スキルが生えてくるかもしれないので、ゴブリンソードは当分の間、リノに使ってもらうことにした。



 そして、やっぱりあった『味覚強化Lv2』と『嗅覚強化Lv2』。


 何気にレベルも一番高いし、まあこれは納得のスキルなんじゃないでしょうか。



 魔術スキルに関しては、魔力が少ないので一旦おいておき、基本魔法を覚える事を優先させることに。


『魔力感知Lv1』が取れてるし、残り三つの基本魔法は今、手元に教本があるからね。


 貸し出し期間もあと九日間あるし、その間にマスターすることになった。



 なので、当面のパーティーとしての方針は、まず魔物を狩ってパーソナルレベルを上げるのと、お互いに出来る事を教えあって、新規スキルを増やそうという事になった。



 ――なんだかまたまた忙しくなってきましたよ!



 確か私、休日を適度に挟んで仕事するって、一度は決めたはずなんだけどな……『幸運』スキルの取り扱い事情を聞いちゃったらそんなこと言ってられなくなってきたし……はぁ。


 それに昨日、短剣を買ったリノの、今日の宿代がない事が判明して……もう頑張って稼ぎにいくしかない状態に追い詰められちゃったというかね!




 あああぁぁっ、どんどん休みが遠ざかっていくよ~。






いつもお読みいただきありがとうございます。

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