第42話 信頼
翌朝、約束通りにリノが宿まで来てくれたので、部屋に入ってもらった。
ちょっと色々人目につかない所で、やりたい事や相談したいことがあるから、開門より前に来て貰ったんだ。
早速いつものように、聖魔法で『治療』して、支援魔法で『HP回復』と『MP回復』を重ね掛けしておく。
あと今日は森の中に入るので、聖魔法の『浄化』も合わせて掛けておいた。魔物も野性動物も臭いに敏感だからね。
「すごい、さすがエルフですね……『浄化』も使えるなんて! 私も村にいる時、生活魔法の『洗浄』を練習はしてましたけど威力が弱くてあんまりきれいにならなくって……それに、これだと体の内側からも、すっきりと綺麗になってる気がしますね!」
村にはお風呂のある家は滅多に無いので、生活魔法の『洗浄』は、『着火』、『浄水』と並んで人気のある魔法だったらしい。
教会が衛生環境を改善する為にと無料で教えていたこともあり、けっこう普及しているとか。
ちなみに、冒険者の生存率を上げるのにも必須の魔法なので、冒険者ギルドでも同じく無料で教えてくれる。
その事が冒険者のイメージアップにも繋がり、清潔で長期滞在してくれるからと、宿屋では歓迎されるようになったらしいよ。
それから、MP微量回復付き自家製ドライフルーツも、途中で魔力切れで倒れないように、今日の分を渡しておいた。
「わあぁっ、いつもありがとうございます! これ、お店で買うとすっごくお高いんですよね~」
「そうなの?」
「はいっ、ローザから貰ったのが美味しかったから、もっと食べたくなってお店のを買ったんですよ。 普通に買う果物の三倍から五倍ぐらいの値段が付いてましたっ」
「へぇ、そんなにするんだ。あんまり町歩きしてないから知らなかったよ。長期保存出来るから、とかなのかなぁ?」
「ですかね? でもローザのって、買ってくるのよりずっと美味しいんですよっ、旨味がギュっと凝縮されているっていうか……あっ、そうだこれ、食べてみてください。食べ比べてもらおうと思って持ってきたんですよ」
そう言って、買ってきたドライフルーツの入った小袋を、手渡してくれた。中には 私が前にあげたのと同じ、ウルルの実をドライフルーツにしたものが少量入っている。
これ、天日干しして作ってるんだよね。となると手間暇かかってそうだし、 日光も浴びてるだろうから栄養価も高そう……。
そう思って『鑑定』してみたんだけど……あれ? 付加価値がついてない。 勧められるままに一つ食べてみたけど甘味もそれほどでもない、ような?
「じゅるりっ。どうですか? やっぱりローザのが美味しいでしょ?」
「う、うん。そうだね。あ、これありがと」
ハイハイすぐ返すからね、ヨダレ出てるよっ。君は人が食べてると我慢できなくなっちゃうのかい?
返した小袋を受け取ると、すぐ食べ始めちゃった。
「う~ん、これも美味しいんですけど、ローザの食べちゃうとどうしても味が、ね。だから今日の果物狩り、とっても楽しみにしてたんです! いつも貰ってばかりじゃ申し訳ないし、自分で作ってみようとおもって。どうやって作ってるんですか? 教えて欲しいなぁ」
ううぅっ、そんなに目をキラキラさせて期待されると、とっても答えにくいんだけど……。
「う、う~ん、あのね、教えるのはいいんだけど……これ全部、魔法を使って乾燥させてる、から、さ――」
「ええっ、これを魔法で!? そ、それはちょっと予想外でした……エルフならではの贅沢な魔力の使い道、ですねぇ。じゃあ、私には作れないや……残念ですぅ」
ああっ、しゅんっとしちゃった。
まあ確かに、普通はこんなことに魔法を使わないかもしれないけど……。
私の場合、この世界に突然ほっぽり出されて以来、魔法しか頼れるものがなかったからね。止むに止まれずって感じで、何でも魔法で無理矢理解決してきたからさ。
保存食作りも、荷物を軽く小さくするために仕方なくやったんだけど、それが思いの外いい結果になっただけで――。
「ドライフルーツは、魔法の練習の為に作っているっていうのもあるから。それにこれはリノの体質を改善出来るかもしれないという、治療の一環でもある訳だし…… そんな落ち込まないで?」
「でも…… 本当にいいんでしょうか、私お金払ってないですし……」
「まあこれからはパーティー組むんだし、リノが強くなれば私も助かるんだから、ね? 気にしないで」
それよりも今は、一度ちゃんと話し合って、確認しとかなきゃいけないことがある。
「今さらなんだけど、ちゃんと聞いておこうと思って。なし崩し的にパーティー組むことになった訳だけど、リノは本当にそれでいい? エルフの私と組む事で、これから何か不利益を被るかも知れないよ?」
「そんなのいいに決まってます! ローザはこの町に来て、一番に手を差し伸べてくれた恩人なんですよ。それに現状、どう見ても私の方がお荷物になってますよね? ローザこそいいんですか私で」
「うん、私は実力とかよりも信用できる人と組みたかったから……リノなら信用できるし一緒に冒険したいと思った」
「……ローザ、うん。私も一緒ですっ、パーティー組みたいです! でも、私もこの体質以外に秘密にしてた厄介ごとがあるんです。家族以外誰も知らない事が……だからローザもそれを聞いてから、もう一度考えて答えを決めてください……」
膝の上でぎゅっと手を握って、決心したようにまっすぐこちらを見た。
「信用してもらったので、私もローザを信じて秘密をお話しますね。私、実は『幸運』スキルを持ってるんです……」
………………。
うんっ?
リノは深刻そうだけど、ちょっとよく、分からない……?
『異世界知識』には、『幸運』スキルが不利益を被るって、そんなの載って無かったよ?
ただの「運」じゃなくて「幸運」なのに…… 単に幸せを運んでくれるラッキーなスキルって言う認識じゃダメってことなの?
この世界では私の知らない、何かまずい事があるって言うこと――?
いつもお読みいただきありがとうございます。




