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第40話 スライム講習会・後編



 前半の座学が終わると次は実戦。


 皆で一階に降りて行くと、やけに貫禄のあるマッチョなおじさんが、腕組みして立っていた。


「おう、 今日の生徒はお前ら五人か?」


「はい、そうです。よろしくお願いします!」


 人族の男の子が代表して挨拶してくれて、一人ずつ順番に名前を名乗っていく。


「講師のボルボスだ、よろしくなっ。よしっ、じゃあちょっと歩くから、さっそく行くぞ!」




 私は知らなかったんだけど、東門から出て五日ほど行った所に大きな湖があり、そこから川がいくつも流れ出ていて、その流れに沿って大小の村々が点在しているとか。


 湿地帯もあるみたいで、雨の月じゃ無くともスライムが増殖するため、ボトルゴードの町近くの東の草原にもそこそこの数が年中いるらしい。


 近年の需要増で急激に乱獲が進み、だんだんと町の周辺からは少なくなってきたみたいだけど、それは北の森も同様とのこと。なるほど、だから見かけなかったんだね。


 今日はその中でもボルボスさんおすすめのスポットに向かっている。


 何でもスライムが好んで食べる草がたくさん生えている場所らしく、東門から歩いて一時間ぐらいはかかるみたい。




「私の村があっちの方面にあるんです。徒歩だと三日で着く距離なんですよ」


 隣を歩いていたリノが、歩いている道より北の方角を指しながら教えてくれた。


「女の子の一人旅でちゃんと町まで無事に来れてよかったよ。魔物とかは大丈夫だったの?」


「はい。ここら辺は昼間はいつも往来がありますし、魔物も出なかったので大丈夫でした。一日中歩き続ければいくつも村を通るので宿にも泊まれて、割りと安全に来れたと思います」


 護身用の小さなナイフ一本で十分だったってことか。できれば私もこっちのソフトモードな方に落っことして欲しかったよ……例の白い部屋の神っぽい人よ。


「うちの村までは滅多にスライムも来ないんですけど、見つけたら大人たちが倒してました。でも倒したらすぐ体が溶けて消えちゃうから、使える素材になるなんて誰も知りませんでしたよ! 町に来てこんなにスライムの素材が利用されてるって知って驚きましたもん!」


「まあそうだろうなぁ。ここまで広がったのは最近のことだしな。偶然、素材の採取方法が発見されて、いろんな利用価値があると研究成果が発表されてな。利便性が高いもんだから、すぐ供給不足になっちまった」


 講師のボルボスさんは、冒険者ギルドだけじゃなく商人ギルドにも頼まれて、今度、スライムが多く生息している周辺の村々に行き、教える事になっているらしい。


「村の収益が上がれば暮らしが楽になるし、村を出なくていい奴が増えるから助かります!」 


 その近隣の村出身らしい、男の子三人が嬉しそうに言った。




 歩きながらスライムの素材の取り方のコツを聞く。


 弱い魔物なので倒すだけなら簡単だが、ただそれだけだと素材が消えて魔石しか残らない。


「まずはスライムを倒し、素手で体内の魔石を探し出せ。そのまま魔石を抜き取らずにくるっと外し、魔力を注いで体内で魔石を砕く。これだけだ! 猶予は倒してから十秒以内! さっさとやらんと溶けるからな、分かったか?」


「ボルボスさん質問です! 直接中に手を突っ込むんすか? 溶解液とか怖いし手袋はめたまんまやりたい」


「駄目だ! 何故か素手でやるのが一番成功率が高い!」


「何でなんすか? 理由とかは……」


「細かいことは気にするな。理由なんか知らずとも出来りゃいいんだ!」


 あ、理由知らないんだ……。


「俺は、魔石を体内でくるっと外すっていうのがよくわからんです」


「まあそれはやってみたら分かる。実戦あるのみ!」


「はぁ、そうなんすか?」




 それからスライムは、短剣より長剣の方が安全に倒せるとボルボスさんに言われたので、リノには私がゴブリンソルジャーから手に入れた剣の方を渡した。


 彼女はまだ武器を買えてないからね。やっぱり食費に大半の稼ぎを持っていかれているらしいし……。

 飢餓感は薄れたけど食欲は落ちてないとかで、あれだけの差し入れではまだまだ足りなかったんだろう……どんだけ底なしなんだ。


 ちなみに今日も、ギルドに行く前にいつもの魔法を重ね掛けし、「回避一定時間微上昇」効果もあるポポの実のドライフルーツを少しずつ食べる用に渡してあるから、途中で倒れることはない、はず。


 

 


 目的の場所に着くと早速スライムがポヨン、ポヨヨンっと目の前に現れ出した。


 おおっ、これが噂のスライム! ポヨポヨしてて可愛いっ。



 まずはボルボスさんが見本を見せてくれることに……。


「いいかお前ら。スライムの素材を取るには、タイミングと時間がもっとも大事なんだ。 よ~く見とけよ?」


 ボルボスさんは魔法ではなく剣を使って討伐するようだ。


 スライムの攻撃手段は主に二つ、体当たりと溶解液を飛ばしての攻撃。


 体当たりはいいとして、溶解液の方は金属を溶かす程の威力はないそうで、普通の剣で倒せるんだとか。




 シュッと剣でひと突きして簡単に倒すと、スライムは一回り小さくなり死んだのが分かる。


 すぐさま片手でスライムを持ち上げ、もう一方の手を突っ込み魔石を探しているようだ。


 見つけたみたいで探っていた手が止まると、そのままくるくるっとスライムをあっちこっち回転させてまた手が止まり……。


 プチっと魔石を粉砕する音がしてから、手だけ抜き取った。



 ――ここまで約三秒、めちゃ速っ。



「よしっ、見てたな!? これで完成だっ。やってみろ!」



 えええぇぇ――――――説明終わり!?



 イヤイヤ見てたけどスライム半透明だしよく見えてないって!


 それに中でくるくる何かしてたでしょ、何なのあれ!?


「ボルボスさん、速すぎて分かんないってっ。くるくるっとのとことプチったとこ、もうちょい詳しく!」

 

「そうか? 詳しくたって見たままなんだがなぁ。くるくる回すと魔石が外れるのが分かるだろ? 外れたらすぐ魔石に、ばぁ~っと自分の魔力を注いで壊す。魔石の許容量以上、魔力を注ぎ入れると出来るからなっ。間違っても力技で握り潰して壊さないように!」


「まず、くるくるくるくる回さないとダメだと? う~ん、魔石を切り離すようなイメージでいいんすか?」


「ああ、それだ! で、くるくるくるっと左か右か上か下に回せ!」


「ええっ、なんて!?」


「結局どっちに回すんすか!?」


「回せる方に回せ! 水滴をでっかくしただけようなこいつに、正確な向きがあると思うか? 今、上向きになっとるのか下向きになっとるのかどっちなのかも分からんのに、方向の指示が出せるか!」


「なるほど、達人でも分からないと?」


「わからん! ほれ、さっさとやらんと日が暮れるぞ! やれ!」


「分かりました!!」




 少年たちが色々質問してくれたおかげで、その後は順調に討伐し、素材を集める事が出来た。


 やり方さえわかれば誰でも簡単にできるけど、ただ、魔石の砕け散り方によっては、残る素材の体積がだいぶ変わってくるみたいなんだよねこれ。


 そのままの大きさだったり、小さくしか残らなかったり……コツがあるらしいが、そのへんは勘でやれと言われた。そうですか。



 リノの少ない魔力でも、ひとつふたつのスライムの魔石なら砕くのは大丈夫そうで、本人もほっとしていた。


 ほんのちょっとひと手間を加えるだけで、素材が溶けずに残るなんて不思議。




 夕方までにはたくさんの素材を手に入れて、冒険者ギルドに持ち帰ることができた。




 最後にギルドの受付で、参加料の50シクルと昇級ポイント10点の他に、素材の買取料も受け取って、この日の「スライム講習会」は無事に終了した。







いつもお読みいただきありがとうございます。

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