第37話 ようやく本物の!?
◇ ◇ ◇
この世界に来てから十日目。
昨日は結局九体の迷いの魔樹を倒した事により、所持金は合計で3310シクル、昇級ポイントも累計84点まで溜まった。
一日も休まずにポイントの高い、強制依頼を受け続けただけあってここまで来るの、とっても早かったと思わない? 九級昇格まであと少しだね!
今日は冒険者ギルドで月一回開かれる、達人による「スライム講習会」がある日なので、迷いの魔樹の討伐は一旦お休み。
正午からの開始でまだ時間がある為、午前中はこの町に一軒だけあるという本屋さんに一度行ってみようと思う。
エルフの得意な魔法のレベルが全然上がらないから、それをなんとかしたくて……。
ちなみに、今の私のステータスを『鑑定』するとこうなってる。
種族 エルフ
名前 ローザ
年齢 16才
武術スキル
魔法スキル 『火魔法Lv2』『水魔法Lv1』
『聖魔法Lv2』『支援魔法Lv1』
身体スキル 『魔力強化Lv2』『隠密Lv1』『俊足Lv1』
『精神耐性Lv1』『幸運Lv1』
『暗視Lv1』『魔力操作Lv2』←level up!
『味覚強化Lv1』『嗅覚強化Lv1』
『視覚強化Lv1』←new!
技能スキル 『鑑定Lv1』『索敵Lv1』『採取Lv1』
『マップ作成Lv1』『料理Lv1』
新たに『視覚強化Lv1』スキルが取れてた! 『索敵』と同期させて使っていたから、これだけ先に取れたのかもしれないね。
初めてレベルアップしたスキルもあるよ! 『魔力操作Lv1』→『魔力操作Lv2』に上がってた、やったね! 嬉しいけどなんかこのスキルだけ、上がるの早くないですか? 経験値が溜まり易いのかな。
『聴覚強化Lv1』と『平衡感覚Lv1』はまたダメで残念だったけど、諦めずに引き続き練習していこうと思う。
それと今度はこの二つに加えてもう一つ、森を安全に歩く為にも『忍び足』スキルに挑戦してみようかな。
魔法に関しては見ての通りで、レベルアップしてない。
『異世界知識』によれば、魔法書で覚えるのが一番早いそうだから、時間が出来た今、ちょっと本屋さんで価格だけでも確認しときたいんだよね。
本は高価だっていうけど、どれぐらい高いんだろ? 買える値段だといいなぁ。
◇ ◇ ◇
さて、最低限の装備も整えたし、宿代も十日分先払い済。
連日の迷いの魔樹討伐で得た資金もあるので、少しだけ落ち着いて自分の強化のために、魔法書を手に入れることができるかもしれない所まできた。
この街にある本屋は一軒だけでメイン通りにあり、冒険者ギルドからも近い。
店内が外から見えない造りになっていて、お金がない内はお店の中に入るには敷居が高かったんだよね。
異世界の本屋さんってどうなっているんだろう? ドキドキしながら魔法陣が刻印されたドアを開けて店内に入ると……。
中は明るくて二十平米ほどあり、想像していたよりも広い店内には、多くの書籍がきれいに陳列されていた。
基本的に主要都市以外の本屋と言えば古本屋さんらしいけど、このお店もそうなのかな?
そして……。
ここで店番をしていたのは……ひとりのエルフの女性だった。
ほ、本物のエルフですよ、皆さん! 大好きな本物の生エルフを生で見れるなんてっ、生きてて良かった!!
ファンタジー世界の生き物が生きてて目の前で動いてるんだよっ。あっ、こっち見てくれた!
うわぁ、やっぱり本物は言葉にならないほど神々しいっ、年齢不詳の美麗さだよ!!
はわわっ、今の私、目深にフードを被ってるから、不審人物っぽく見えちゃわない!? え~い、もう外套取っちゃえっ、ついでにスカーフも!
「お、おはようございましゅっ」
「あらあら、この街で同族を見るなんて久しぶりね。会えて嬉しいわ、いらっしゃいお嬢さん」
店先でパタパタと身支度を整えて噛みながら挨拶する私に、ニコニコしながら挨拶を返してくれた。
「はい、お邪魔しますっ。あ、私ローザと言います。今日はよろしくお願いします!」
「くすくすっ、これはどうもご丁寧に。私は店主のシルエラと申します。これから贔屓にしてくれると嬉しいわ。今日はどういった本をお探しですか?」
「えっと、魔法書を見たいんですけれども」
「はいはい。それならいろんな種類の在庫がございますよ。どの魔法書をご覧になりますか?」
「とりあえず、基本魔法教本と四属性魔法書、聖属性魔法書、あと支援魔法書があれば見せてほしいんですけど……」
エルフは全ての魔法に適性がある。金額にもよるが可能な限り早目に手に入れておきたいので、まず価格調査をしないと!
「……基本魔法教本に四属性魔法書? ねぇ、失礼だけど貴方……もしかしてとってもお若いんじゃない? いくつなの?」
「えっ? 十六才ですけど……」
な、何かまずかったかな?
年齢を聞いたシルエラさんの顔が、ち、ちょっと怖くなっちゃったんですけど!?
「十六才!? ってまだまだ子供じゃないの! 基本魔法も使えない成人前の子が人間の町にひとりで来るなんてっ…… 貴方どこから来たの? ま、まさか家出とか!?」
「ち、違います!」
「じゃあどうして? いくら外の世界に興味があっても、普通成人になる八十才までは住んでるところを出ないものよ」
おぅ、それは知らなかった……。
じゃあ私、めちゃくちゃ子供じゃん? エルフの感覚でいくと幼児みたいなもんじゃないのこれ!? そりゃシルエラさんが驚く訳だよ……。
でも本物のエルフなら知ってて当然の情報なんだし、ど、どうしよう!?
こんなに真剣に心配してくれる人に嘘はつきたくないし、異世界から来たことだけ隠して……。
「その、記憶がいなくて……気が付いた時は森の中にいたから……」
……うん、嘘は言ってない。
全然嘘は言ってないのにとっても怪しい説明になっちゃったよっ、本当の事なのにっ。
こちらをじっと見て、私の言葉を待っていたシルエラさんがそっと目を伏せた。
う、嘘だと思われた? あ、呆れられたとかっ?
「……そう。大変だったのね……辛いことを聞いてしまってごめんなさい……」
あああぁぁっ、 シルエラさんの耳がっ、しゅんって垂れてしまったぁっ。
か、可愛い、じゃなくてごめんなさいいぃっ。 疑われなかったのは良かったけど、な、なんかこれ、盛大に誤解させちゃったよね――?
でも私ウソつくの苦手だし、色々脚色するとボロが出る可能性があってですねっ……うん無理っ、黙っとこう、本当ごめんシルエラさん……。
「…………」
「……ね、ローザ、色々あるだろうけど、この町にいる間は私が相談に乗るわ。身内だと思って遠慮しないでいつでもいらっしゃい」
「はいっ、ありがとうございますシルエラさん!」
ううぅっ、騙しているようで心が痛いっ。
でも、ふんわりと包み込むように優しく微笑んでくれる姿は、まるで女神様のようで、うっとりするほどきれいだったのでした……。
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