第35話 迷いの魔樹④
ウォークバードを料理して食べた後、MP微量回復効果のある手作りのドライフルーツをつまむ。
支援魔法も切れていたので、HP、MP回復もパパっと重ね掛けし直してから少し食休みをとった事で、体力、魔力が戻ってきたのが感じられた。予想してたより回復速度が速くてほっとした。
まだお昼前だけど料理をしたことで予定より時間が押しているので、今日は巨木群に向かわずに、先日行った果樹がたくさん生えていた場所に行こうと思う。
そっちの方がボトルゴードの町に近いし、自作のドライフルーツがなくなってきたので、自分用にいくつか手に入れて補充しておきたいっていうのもあるし。
『マップ作成』で確認すると、街道を通ればすぐその近くまで行けるので、森の中を通って行くよりも安全で移動時間が短くて済むからね。
それに果樹の周りにも、迷いの魔樹をいくつかマッピング済っていうのもあるし、魔力も回復した事なので、果物の採取と併せてその一帯の魔樹を始末しておこうと思う。
焚き火の後始末をしてから、荷物をまとめて背負子を背負い、移動を開始する。
安全な街道は走って進み、森の中に入ってからは『索敵』を使って戦闘を避けながら、こそこそと小走りで移動していく。
『隠密』スキルも最初に比べると随分上手く発動出来るようになったみたいで、一度も魔物に気づかれずに目的地まで到着できた。
先に迷いの魔樹から討伐する。
ここら辺に根を張っているのは、まだ若い迷いの魔樹みたいで少し小さく目的の為にもちょうどいい。
魔力感知の練習をしようと思っているからね。
同じような大きさのが何本かあるし、火魔法の一撃で倒していきたいから、魔石を造り出す核である魔物の心臓を狙いたい。
そこが一番魔力が濃い場所。
幹の真ん中辺りにある事までは分かっているので、正確な場所を見つけられるように、集中力を研ぎ澄ませて魔力を感じ取ろうとする。
う~ん。
やってみてるんだけど、でも中々これっていうのが掴めないと言うかね!
魔樹全体から魔力を感じるもんだから、それの一番濃い場所っていうのが分っかんないんだよなぁ、あー難しい!
『索敵』で警戒しながらも、時間を掛けて魔力を探っていくと……幹の方に感覚が引っ張られる気がしてきた。
尚もそれを深く追っていくと……何となく、本当に何となくそんな気がする程度だけど、核のある場所が分かるような……。
それでも範囲が広いので、私が使える魔法の中で一番、広範囲攻撃の魔法を使ってやってみる。
『火炎噴射』!
どうだ!?
あ、失敗みたい……根っ子が蠢こうと準備し出したし、顔のような木の洞もまさに今、浮かび上がろうとしている!
そこだったのか、後ほんのちょっと右側が弱点だったんだね、惜しい!
でも、暴れ出す前に次弾を打てるよう、こっちも準備済みだから!
『火矢』!
はい、今後こそ討伐出来ました!
次こそは一撃で倒したい。
周辺にも何本かあったので、順番に対処していくものの、やっぱりそうそう上手くは倒せないよね。
それでも一撃で倒せたのもあったり、倒し切ることができなかったりもしながら、少しずつ魔力感知のコツを掴もうと頑張った。
おかげで、最後に倒した迷いの魔樹は狙い打ちした一撃で討伐できたのでよかったよ!
次に果物を採ったんだけど、先日より飛行型の魔物が少なかったおかげで、色んな種類の果物がたくさん手に入った。
パンの実やポポの実、ウルルの実の他にもこの季節だけ採れる新鮮な果実が収穫出来たのは嬉しかった。
あの後、東の草原で虫根コブ草をきっちり採取してから、冒険者ギルドに行って今日の分の精算をして貰う。
その中で、一番色が濃くて大きい、迷いの魔樹の魔石を見ると、エドさんの顔が少し険しくなった。
「ローザさん、これはどちらで討伐されたものですか?」
え、そんな深刻そうな顔で……なんかまずいの?
「……北の森の巨木群の手前で、いつも活動している場所より少し、森の奥へ入った場所ですが……あの、どうしてですか?」
「少し確認させて頂きたい事がありまして……討伐の際にスモールトレントを見ませんでしたか?」
「スモールトレント?」
トレント型の魔物が生み出す分裂体の総称で、小さいうちは宿り木のように本体にくっついて魔素をもらい、ある程度成長するとポロリと剥がれ落ちて、自立して動き出す。
大きさはちょうどゴブリンぐらい、1mほどの小さな魔樹らしく、自立してからは成長のために、魔素の濃い場所を求めて森の中をあちこち移動するらしい。
大抵は親樹と同じ種類の魔樹に進化するみたいだけど、吸収する魔素の種類によっては別の種に変化することもあるんじゃないかとも言われていると教えてくれた。
「迷いの魔樹からこれほど大型の魔石が取れるようになると、その分裂体を造っている可能性が高いんですよ。親樹が倒されると、それまで擬態して寄生していたスモールトレント達があっという間に逃げていくか、与し易いと判断されると一斉に襲いかかってくるかなんですが……」
なにそれ怖い。あの魔樹にはいなくてよかった! トレントってそうやって増殖していく事もあるんだ。
「私はその迷いの魔樹を一撃で倒したんですが、その時何かが分裂して離れていくようなことはありませんでした。後始末も魔法できちんとしておきましたので、大丈夫だと思いますけど」
それを聞くとエドさんはほっとしたような顔になった。
「では、今回に関しては分裂体が発生する前の状態だったのかもしれませんね。素早く対応して頂いてありがとうございました」
他にも巨木群の周りの状況について、何か変化はなかったかも聞かれる。
スモールトレントはまだ一度も見かけない事、見つけた魔樹はまだあるけど、全部は討伐しきれていないことを伝えると、明日も今まで通り報奨金を上乗せするので、討伐してほしいと頼まれた。
えぇ~明日はやだ。
この世界に来てから働き詰めだから、金銭的にも少し余裕ができた今、ちょっと一日お休みしようと思ってたんですけど!
「どうかお願いします。一日でも過ぎると思わぬ成長をして、スモールトレントを一気に増やさないとも限りませんので……」
それは、分かるけど……でも。
他の冒険者達にももちろん依頼しているが、やはり人族よりもエルフの方が迷いの魔樹を見つけるのが段違いに上手いとのこと。
はぁ、何とかお願いしたいとエドさんに頭を下げられたらもう断れないよ……お世話になっているし。
虫根コブ草の緊急依頼は一旦中止してもいいので、殲滅に専念してほしいと頼み込まれた。
あぁ、初めての休暇よ、さようなら~。とっても嫌だけど、町の安全の為、明日も仕事しま~す……シクシク。
緊急依頼だし仕方ないんだよ……頑張れ私。
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