第33話 迷いの魔樹②
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新しい朝が来ました。
おはようございます……。本日も爽やかな晴天ですね!
そういえば、この世界に来てから八日間経ったけど、一度も雨に降られてないなぁ。
昨日は ようやく念願の革鎧を手に入れて喜んだのだけど、残金はとっても心細くなっている。
どうしてこんなにお金が無くなるのが早いんだろ、必要なものしか買ってないのに、全然贅沢していないのに~!
……なんかこの世界に来てからずっとお金がない、お金がないって言ってる気がする。
ふふふっ、でもいいんだ。今の私にはお金の余裕はなくとも心の余裕がある。
なんたってしばらくは、迷いの魔樹の討伐と虫根コブ草の採取という、二件の高額依頼(私にとってはだけど)が続くからね! 稼げる時に稼がせてもらいますよ!
じゃあ、まず今日も張り切って北の森へ行きますか!
いつもの時間に北門を出てすぐに街道を離れ、森の中に入って行く。
ここら辺には冒険者以外にも木こりさんや猟師さんが多く活動しているので『索敵』にはもうこの時間、何人か森の中にいるのが表示されている。
この数だと木こりギルドの専属護衛をしている冒険者さん達も一緒にいるんだろうなぁ。
初めて入るけど、やはり人の手が入った森という感じで、樹が適度に間引きされ下草が刈られて明るく歩きやすい。
ハイキングコースみたいで初心者でも安全に採取出来そうだった。
ここならリノを連れてきて一緒に魔物討伐ができるかもしれないと思ってたんだけど、エドさんによれば、どうやらこの辺でも、迷いの魔樹の若木が歩いているのを見た人がいるとのこと。
今年はまだ、討伐数も例年並みとのことだったので、警戒レベルは上げてないが、他にも見かけたら討伐するか、無理なら報告して欲しいと言われている。
なので来てみたんだけど、こんなにたくさん、地の利を知り尽くした人達がいるんじゃ、私いるのって感じ?
若木は見つけられさえしたら幻術も弱いから討伐しやすいそうだし……。
ただ、やはり成木は見つけることは困難で難航しているらしいので、そっちをまず探しますか。
一応、できるだけ範囲を広げて見回る場所を増やそうと思い、外周付近だけだけどマッピングしていっている。
迷いの魔樹も、森の奥に行けば行くほど強い個体になり幻術も強力になるそうだから、私でも危険になるかもしれないから。
他にも森の奥には、厄介な魔樹が生息しているそうで、知らず知らずの内に誘い込まれる事もあるみたいだから気を付けないとね。
命大事に、だから油断せず行くよ!
地上からばかりでなく、時々、樹に登っては遠くまで『索敵』で見渡して近くにいないか探していく。
『視覚強化』を取るためにも広い範囲を一度に見るのは訓練になるし、同時に『鑑定』も出来て効率がいい。
まあ、『鑑定』はまだそんな遠くの方までは出来ないけどね。
あっ、あれ、そうじゃない?
あんな近くにいる、見つけたよ、成木だね! すぐそこだし、これなら行っても大丈夫そう。
気配を消しながらゆっくり進んでいくと……。
あれ、魔物も何体かいる?
この『索敵』の感じはゴブリンっぽいな? 六体ぐらいが同じところをぐるぐる回っている、ような?
ってことは迷いの樹の幻術にもう捕らわれてるのかも。
徐々に接近して行って、ちょっと離れた所からこっそりと様子を伺う。
相当幻術が効いているのか、ゴブリン達は従順に迷いの魔樹の方へフラフラしながら近寄っていく。
根元まで近づいた時、樹が軋むような音がして地面が盛り上がり蠢く!
根っこを何本も伸ばし、それらを触手のように器用に操って、近づく獲物に巻き付けしっかりと抱え込み引きずり寄せる!
あぁ、もう半数位が、飲み込まれて見えなくなっちゃってる。
ううっ、捕食の瞬間を見ちゃった、グロいっ。
ああやって捕らえた獲物から、即死しない程度に一気に魔力を吸い取って弱らせ、ゆっくりと自分の養分にするんだね……怖いっ。
絶対あの根っこに触られないようにしなきゃ!
さて、これはどっちを先に片付けるべきかな?
迷いの魔樹は今、ゴブリンに夢中でこちらに気付いていない、と思われる。今なら不意討ちが出来る。
よし、迷いの魔樹からにしよう。不意打ちは得意だし!
一番威力のある火魔法で一気に倒す!
『火炎噴射』!
二連続で放つ! やった、両方とも命中!
したけどちょっ、ゴブリンを放り投げてきた! そんな、嘘でしょ!
予想外すぎて、魔法が間に合わない!
うわわっ、ぶつかる!
こっちに向かって飛んできたのを間一髪、とっさにバシッと殴り倒してしまった、おもいっきし素手で!
いや~!
なんか今、グシャって音したよ! 気持ち悪い~。
ううっ、い、今は戦闘中!
余計なことは考えない考えない!
ほ、ほらまた奴はゴブリン飛ばしてくるし――!
やだって言ってんでしょ~!
こうなったらもう自棄だ、いっそのことひっつかんで盾にしてやる、ふんっ!
飛んでくるゴブリンを避けたり、即席の盾で防ぎながら、幹の部分に浮かび上がってきた木の洞のような顔に向かって再び火魔法を連続して放つ!
今度は威力よりも命中率と飛距離を重視して……。
『火矢』!
根っ子を振り上げて必死に塞ごうとするも動きが遅い。
連続して放たれては全てを受け止めきれず、弱点の魔石がある洞の中へと吸い込まれていった。
オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォォォ――――!
地を這うような断絶魔の声を上げていっそう燃え上がってから、パタリっと根の動きが止まる。
ほっとしたのも束の間、炎を纏った樹がゆっくりと軋みながらこっちに倒れ落ちてきた!
慌てて巻き込まれないように間一髪避ける! あ、危なかった~。
最後はゴブリンにナイフでとどめを刺して回り、魔石を回収してから全部を一箇所にまとめて積み上げる。
これ、一人でするのって結構重労働だよね。やるしかないからやるけれども!
火魔法の『火炎噴射』と『消火』のコンボで後始末をしっかりとしてから、最後に聖魔法の『浄化』で自分もきれいにした。
じゃあ、さっきの戦闘音に引き寄せられて、何かが来ちゃう前にさっさと移動しますか。
いつもお読みいただきありがとうございます!




