第32話 迷いの魔樹①
トレントの一種である、迷いの魔樹。
昨日、ギルドから受けた最優先の緊急依頼。
巨木群の辺りを狩場にしているのは私ぐらいだから、昨日、冒険者ギルドで担当してくれたエドさんに、森の様子を聞かれたんだよね。
こうやっていつも、冒険者から情報収集しているらしい。
その時に迷いの魔樹の話になって、何体か見つけていると言ったところ、すぐにギルドで間引き依頼を出すので、最優先で討伐をして欲しいと要請された。
大きさにもよるけど、依頼料と合わせてだいたい銀貨二枚以上と、高額で買取してくれるとの事。
なので受けて来たんだけど、普通のソロでやってる十級冒険者には危険な魔物みたい。
なんでも成木の擬態を見破れる人が中々いない上に、幻術も使ってくるので、耐性がなく討伐が難しいとか。
最優先で見つかるだけ全部狩ってきて欲しいとのこと。
一体だとそれほど強い魔物ではないが、爆発的に増える当り年というのがあって、今回がそれに当たると限らないがとても危険らしい。
普段はあまり森の浅い部分に出て来ないみたいで、そこで見つけたということは、積極的に狩らないと短期間で気づかないうちに数を増やし、手に負えなくなる可能性があるとのこと。
なにそれ、知らなかった!
そういえば単価が安くて弱い魔物討伐ばっかり見てて、迷いの魔樹のような高い依頼料のものまでチェックしてなかったや。
そんなに厄介な魔物だったとは、怖い!
ただの大きな肉食の食虫植物だと思ってたよ。魔物も幻術で引き寄せて食べるらしいから減らしてくれるならラッキーとか思って放置していたのに!
私はエルフだし迷いの魔樹の幻術に耐性があるから、ほぼ引っ掛からない。
他にこの辺で活動している人もいないので危険性は低いと思っていたけど、駄目だったらしい。
むしろ、人がいないせいで、見つからずに数を増やせるから危険度は増しますと説明された。
エドさん曰く、樹の魔物らしく火に弱いので、火魔法を使って倒すか、斧で切り倒すのが一番いいそう。
逆に絶対使ってはいけないのが水魔法。水魔法の魔力ごと取り込んで元気にパワーアップして強くなってしまうので、気をつけてくださいと言われた。
私向きの依頼だったし、早速北の森に来たわけだけど、初めて倒す魔物っていうのはやっぱり緊張する。
色々とアドバイスをもらったから大丈夫だと思いたいけど、失敗したらゲームと違って生き返らないからね。
助けてくれる人もいないことだし、慎重に、シュミレーション通りにやろうと思う。
『マップ作成』があるので、迷いの魔樹の場所もいくつか正確に分かっている、ただし成木のみだけど。
若い樹はゆっくりとだけど移動するから把握しにくいが、成長した樹はほぼその場所を動かないからマーキングしやすい。
――あった。この樹だ。
ポイントマークにしたがって、迷いの魔樹までこっそりと近づいていくと、間近で見てもその姿は他の樹に紛れて擬態しててわからない。
『鑑定』がないとやっぱり見た目では区別がつかないや。
それにこの距離だともう幻術の範囲内らしい。なんか背筋がモヤモヤっとするし。
けど大丈夫、私には『鑑定』様が付いているから絶対見失わないし、幻術も違和感があるだけで全く効いてないから!
擬態が解けない内に奇襲出来ると安全に狩れるってエドさんも言ってたし、今なら簡単に倒せるはず!
じゃあ、行くよ!
『火炎噴射』!!
ズドンっと大きな音を立てて着弾し、一気に樹の真ん中らへんが燃え上がって真っ赤になると、魔樹の擬態が解けた!
ゴ オ゛オ゛オ゛オオオォォ――――!!
幹の部分に顔のような洞が現れ、地鳴りのような叫び声を上げる!
根っ子をズルズルと地面から引き出し、それを使って火を消そうと暴れる暴れる!
火の粉が舞っちゃってるってば! 飛び火しちゃうから早く倒さなきゃっ。
ちょっ、ちょっと、そんなに動かないで! 狙いを付けにくいから――!
木の洞っぽい顔が弱点と聞いていたため、それに向かって火魔法を連続して打っていく。
『火矢』! 『火矢』!! 『火矢』!!!
当たった!
その内の一本がガスッと命中して、やっと大人しくなってくれました。
戦い敗れてがっくりとうなだれたような姿になっちゃった魔樹は、ちょっと哀愁漂ってて可哀想かもしれない。魔物に同情しちゃダメって分かっててもね。
いや~、しかし結構、大変だった!
迷いの魔樹が思ったより大暴れしてくれたから、周りの樹に火が燃え移っちゃって、慌てて『消火』したよ!
次はバンバン打って暴れだす前にさっさと倒そう、まだまだ魔力は余力があるんだし。
魔石を取った後の樹は全部焼き払ってしまう。
でないとそれを苗床にしてまた新たな迷いの樹が生まれてしまうんだって。
素材として使えるトロントもいるらしいけど迷いの魔樹は魔石だけしか利用できないらしい種類だから。
この後始末に、結構魔力を使うんだよなぁ。
迷いの魔樹をもう二体倒し、巨木群で採取を終えたところで太陽が真上に来たので、ここで切り上げる事にする。
午後からは又、東の草原に行かなきゃだし。
虫根コブ草の緊急依頼もまだ続いてるから採取しないと! それに夕食後はリノと、魔法の特訓する予定もあるしね。
……なんかすっごく忙しいんですけどっ。予定がぎっしりじゃないですか!
お金がなくて休みも全然取れないし、異世界まで来て社畜並みに働いてないこれ――!?
それでもこの日は今までで一番の高額買取になって、数日分の着替えと、念願の革鎧を手に入れることが出来ました!
何の付与魔法も付いてなくて、革鎧にしては安物の1500シクルだけど、今までよりはずっと丈夫だし、前に買った鎧下を重ねて着ればより防御力が上がるからいいんだっ。
革鎧を買うついでに、鍛冶屋のブルボさんにゴブリンの持ってたロングソードを視てもらったところ、少し研ぎ直せば十分使えるとの事でその場で手入れをしてくれた。
ちょうど合う鞘とベルトも見繕ってくれて、こっちは革鎧を買ってくれたおまけだと無料にしてくれたよ、ありがとうブルボさん! お金がないからすっごく助かるよ!
夕食後は、リノと魔法の練習。
あれから食べなきゃ動けない倒れちゃうっていう症状が少し緩和されたみたいって言ってた。
それに昨日渡したウルルの実のドライフルーツを、一度に食べ切らないで、少しずつ時間をおいて食べるように言った事も守ってくれたみたい。
食欲は変わらないけど、我慢できないような飢餓感が少し減ったみたいで、こんなこと今までなかったってすっごく喜んでくれた。
なので今日も一番効果があるらしい聖魔法で『治療』して、念のため支援魔法も重ね掛けしてから練習を開始することにした。
最初にするのは今まで魔力が少なすぎてちょっとしか出来なかったという、魔力操作。私のやり方を教えて、二人でやってみる。リノがやってた方法も教えて貰って、どっちがやり易いか試してみたり。
そうして色々試行錯誤している内に、彼女の魔力が底をついたので終了することにした。
結局その日は、なんだか体があったかくなったって言う感じにとどまったんだけど、何かしらは出来たっぽいのかな、これ?
リノが短剣を手に入れたら、一緒に北の森に行く約束をしてから彼女は帰っていった。
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