第29話 食欲は続くよ、何処までも
あれから、『索敵』で魔物を避けれたので、一度も戦闘せずに安全な街道に出ることができた。
町まで戻り、午前中の成果を冒険者ギルドに全部預けて置いておけるかを確認する。
夕方、もう一度来るので、そのときにまとめて精算してくれるようにお願いしてみると、快く引き受けてくれた。
この後は東の草原へ虫根コブ草の採取に行く予定だけど、その前に昼食を買わないと。
手持ちのお金だと、串焼肉一本しか買えない……。でも、さっき採ってきたウルルの実もあるし、今日はこれだけでいいかな!
ちょっとお行儀悪いけど時間がなくなって来たので食べながら歩いていくことにした。
昨日と同じように、東門を出て、『マップ作成』でマーキングしておいた場所へと向かう。
受付のお兄さんと約束したからね、虫根コブ草の採取、今日中にしておかなくちゃ!
あ、よかった。残ってる。誰も採ってってないみたい!
太陽も傾いてきてるし、ちょっと急ごう。
女将さんに、夕方まで部屋を開けて待ってて貰らってるからね、それまでに帰らなきゃ。
じゃあ、昨日と同じ手順で一つずつ掘り返して行きますか!
大きそうな株ばかりを選んだおかげで、一株からたくさん採れる。三株ほどを、掘り返しては埋め戻してをした辺りで二百コブを越えた。
虫根コブ草の昇級ポイントは、百コブで1点だから今日はこれぐらいにしとこう。
それほど時間をかけずに採取を終えることができたので、これなら時間に間に合いそう!
今日も冒険者ギルドが混みだす前に町に戻れたので、早速受付に向かい買取してもらう。
魔石は、午前中の分と昨日半端に残っていたのを足して、報償金を貰える数にきっちり合わせておいてから、今、採ってきた虫根コブ草と一緒に渡した。
今回は量が多かったので少し査定に時間がかかったけど、全部で912シクル、昇級ポイントは28点でトータル36ポイントになった。
今日はお金も昇給ポイントも予定よりもたくさん稼げたし、この調子で行けば、明日には中古の革鎧なら手にはいるかもしれない!
宿に帰って、待っていてくれた女将さんに早速三日分の宿代を前払いして渡す。
預けていた荷物も返してもらい、昨日と同じ部屋に入った。
夕飯までまだ少し時間があるので、採ってきておいたウルルの実を、傷ついて食べられないところだけナイフで切り取ってから、魔法を使ってドライフルーツにしていく。
大きな実なので多少時間はかかったが、今回も聖魔法を使ったので、今まで通りちゃんと「MP微量回復」付きのドライフルーツを作ることができた。
そろそろ時間になったので夕食を食べようと一階に降りていく。
するとそこには見知った顔がいて、今まさに食事をしているところだった。
君、やっぱり食べに来ちゃったのね……。
「あ、ローザ、昨日ぶりです! 早速食べに来ちゃいました! ここの食事、想像していた以上に美味しいです~!」
本当、幸せそうに食べるよね。女将さんの料理を口いっぱい頬張って一生懸命モグモグしているところはリスみたいだよ、かわいいけど。
私も夕食を注文し、せっかくなので同じテーブルで食事をすることにした。
「リノの泊まっている宿では夕飯ってでないの?」
宿泊のみのとこなんだろうか? これからはここで一緒に夕食食べれるのかな? だったらちょっと嬉しいけど。気になったので聞いてみた。
「出ますけど量も味も全っ然足りなかったんです。で、外に食べに出たんですけど、屋台で昨日ローザに貰った串焼き肉を買って食べてた時に、ここの料理のこと教えて貰ってたのを思い出して! どうしても食べたくて、我慢できなくて来ちゃいました!」
え、もうすでにそんな食べてきてるの? 昨日も思ったけど、ほんとよく食べるよね。
「そうだったんだ……。でも、余計なお世話かもしれないけど、お金とか、その、大丈夫なの? 装備を買いたいって言ってたけど」
この分じゃ相当食費に消えてっちゃってるんじゃ……。
「それはもう大ピンチですよ! 私いっぱい食べるので宿代と食事代だけでカツカツです! もうすっからかんで全然足りないんです!」
やっぱりそうなんだ。
今日は早起きして、町中での依頼を受けたみたい。
「武器を買うお金もないし、私は魔法も使えないからしょうがないんですけど、町中の仕事ってやっぱり全然稼げないんですよね」
「じゃあ得意なものとかは?それで別の依頼を受けるとか」
「短剣術を少しだけ。でも今あるのはこのナイフだけで……。私、腕力と体力には自信があるんです! ただ、食べないとすぐへばっちゃうんで持久力はないんですよ。今日は食堂のお仕事だったんですけれど、働いてたら猛烈にお腹が空いて……それでまかないを店主さんの予想以上に食べちゃって一日でクビに……」
ギルドにも食べ物関係のお店には紹介できないと言われちゃったらしい、そんなにか。しゅん、としながら話してくれた。
「……そっか。それは大変だったね」
自業自得の面もあるけど、悪い子じゃ無いんだよね。ただ、食欲が暴走しているだけで……。
「あ、でも約束していた食事のお礼をする分はちゃんとありますからっ。あのときは本当にありがとうございました。ローザさえよければ、何か注文してください」
「うん、ありがとう。でも夕食付きの宿だから今はちょっと……う~ん。あ、そうだっ、じゃあ明日の昼食を奢ってもらおうかなっ。女将さん特製のお弁当なんだけどね、美味しそうなんだぁ」
「はい、もちろんっ。喜んで!」
「ふふっ。楽しみっ」
お金がなくて、まだ一度も食べられてないかったからうれしいっ。
でも話している内に、リノはもう食べ終わっちゃったみたい。
一緒に食べたかったなぁ、ちょっと残念。
とか思っていたら……。
「はい二人とも、注文の品だよ! リーノちゃん、持ってきたけど、本当に食べれるのかい? これで定食三食目だけど……」
女将さんが私の夕食と、もう一食分リノの分を持ってテーブルまで来てくれた。
えぇっ、三食目!?
じゃあこれってもう、自分の宿の夕食とあわせて四食分目になるんじゃない? さっき串焼肉も食べたって言ってなかったっけ?
ご立派なお胸以外は、成人しているとは信じられないくらいちっちゃい女の子が、そんなにいっぱい食べれるもんなの!?
「そ、そんなにいっぺんに食べて、平気なの!?」
「まだまだお腹空いてるので、全然平気です! この定食、隣のテーブルの人が頼んでたんですけど、とっても美味しそうで……もう我慢できなくて注文しちゃいました!」
「いや注文しちゃいましたっていわれても……」
お昼も仕事をクビになるほど食べて、さらに夕食は四人前を一度に食べて、ついでに屋台飯も食べたのにまだまだお腹すいてるって……この子の食欲、底なしじゃないですかっ。
さすがにここまできたらもう、人族だからとか関係ないよね?
女将さんもドン引きしてるようだし!
そんな私達の様子を見て、彼女は真剣な顔になり声を潜めて打ち明けた。
「ここだけの話にしといてくださいね。実は私……何故だか分からないんですけど食欲がものすごいんです。異常なくらいに」
…………………。
いやいや今その話をしてたんだし目の前で見てたから知っているけれども!?
「驚かないんですね、二人とも」
なんなら今さっき、女将さんが同時に持ってきてくれた三食目だか四食目だかになる定食を、おしゃべりしつつもすでに半分食べ終わってて、私はまだ食べかけって言う、全然食欲が落ちてないこの状態を見ただけでも分かるってば!
深刻そうに話をして続きを食べながらも、ついつい私の夕食に眼は釘付けになっちゃうとか……いやこれはあげないから!
「私の家族はみんなすっごく仲がよくって……こんな異常な私にも嫌な顔一つしませんでした」
リノの家族は兄弟も多くて、大変だったらしい。そうだろうなぁ、大家族な上にこれだけ食べる子がいるんだもんね……。
でも、出来るだけたくさん食べさせてあげようと、頑張ってくれてたんだとか。あったかくていい家族だなぁ。
「それでも全然足りなくていつもお腹が空いてて……。私も何か家族の役に立ちたいと思って魔法も使えるように頑張ったんですけど駄目でした。魔力が足りなくて生活魔法ですら中々うまく使えなくて……」
それに魔法を使うと魔力不足で余計にお腹がすいて、益々迷惑を掛ける事になる。
結局、力仕事の方が魔力を使わない分お腹が減るのが遅いので、そっちを頑張っていたらしい。
それでも、時間があれば空腹を我慢して魔法の練習も続けていたとか。頑張り屋さんのリノの話に、女将さんの涙腺もうるうるしてるよ。
本当、いい子なんだよね。
うん、だから私の夕食に語りかけるんじゃなくて、こっち見て話そうか。一応、今、感動的な話をしてるんだし!
んんっ?
ちょっと待って、さっきこの子何て言った?
生活魔法?
そうか!
なんか忘れてるんじゃないかってモヤモヤしてたけど、そういえばこの世界、生活魔法っていうのもあったんだった!
いつもお読みいただきありがとうございます。




