第25話 なんか拾っちゃった
東の草原をゆっくりと歩きながら、片っ端から『鑑定』していく。
へえ、背の高い草に埋もれちゃってるのもあるけど、野草も薬草もいっぱい種類があるんだ。
ただ、採取する部位が花や種など今の季節では無いものや、葉っぱが採れるものでもすでに冒険者が来てるみたいで、採取済の状態で無理なのとかも結構あるね。
あとは根っ子を採取するものかな。
これなんか掘り返した跡はないし、採取されずに残っているみたい。
地上部を見分けるのが難しいから分からなかったのかもね。私も、『鑑定』がないと他の草と全然区別つかないし。
掘らなきゃいけないから時間がかかり過ぎるっていうのも理由としてあるかもしれない。
その中でも虫根コブ草という、割りと高めの買取価格でレアな薬草を『鑑定』で見つけることが出来た!
【 虫根コブ草:薬草
効能:HP回復効果
可食:可能 生食は不可
採取:地上部分に特徴がないため採取困難
コブような白い根っこを採るが、次の採取の為
に一コブ根を残して埋め戻しておく。
一ヶ月程で回復して採れる 】
……なんかまともだ。
採取ってアレなのばっかりだったから、これもそうかと思っていたけど違った。
普通の薬草で、とってもまともなやつだった。
そうだよ、採取ってこういうやつが普通なんだよ。今まで常識のナナメ上のばっかり相手してたけど!
まだ少し時間あるし、周りに誰もいない内にさっさと採っちゃおう!
この万能ナイフはスコップ代わりにもなるって鍛冶屋のおじさんも言ってたし、さあ掘ろうっ、としたけど……うわっ、なにこれめっちゃ土が固い。ナイフ刺さりにくい!
取り残しているのはこれのせいもある、のかも? 見つけにくい上に、採りにくいっていう。
でもその考えが当たっているなら、他の人と競合せずに採れそうだよね。
土魔法を使える人なら採るの簡単だろうけど、わざわざ安い採取依頼とかしなさそうだし。
じゃあ、始めますか。
魔力を根元に注いで、ちょっと土を柔らかくしてやる。
土魔法が使えなくてもこれくらいならなんとか出来るけど、効果は微量だから、水魔法もつかって土を柔らかくしてっと。
よし、これでナイフが通るかな!?
……うんっ、掘れるね! 根っこもそこまで深く張ってない感じで、あ、見えてきた! 白くて太い5cm程の根っこがポコポコくっついてる。
確かにこれはコブみたいに膨れてるね。
コブの大きさによっては銅貨一枚以上と、かなりお高く買い取ってくれるらしい。
一株から一度に最低でも三十個は取れるから、見つけられればかなりお得。
だって、十コブがゴブリン一体分の価格だよ? 掘り出せたのが三十四コブだから一株でゴブリン三体分……安全だしこっちで採取すべき?『鑑定』あるから場所の特定も容易に出来るし、それに北の森よりずっとか近いし。
ただ、他の冒険者がねぇ。
私が身の安全のために避けまくってるせいもあって、ラグナード以外の冒険者にはまだまともに会ったことないんだよね。そのラグナードもこの町に来てから一度も会ってないけど。
採取中心だとそこまで強い冒険者はいないと思うけど、用心のために毎日通うのはちょっと保留しとこう。
根のコブひとつを残し埋め戻しして、採取したことがばれないように隠しておく。魔法を使って軽く隠蔽作業をすると、草原の草に紛れてどこだか分からないまでになった。魔法って便利!
また一ヶ月後に採れるようになるまで成長するらしいから、こういうの大切だよね? 『マップ作成』にマークしておいたから迷わず来れるし。
まだまだあるけど、ギルドが混んで来る日没より前に帰りたいから、あと一ヶ所だけ掘ってやめとこうと思う。
ふふっ、東の草原に来てよかった。
魔物に一度も出会わなくて安全だったし、日にちをおいて短時間だけなら今日のように通うのもいいかもね。
とか思いながら町に向かって歩いてたんだけど……。
なんか変なボロ布が……落ちてる。
っていうかこれ人!? し、死んでないよね?
えっ、動かないけど、あれ、生きてるの!?
「……うっ……ぅ」
あ、生きてる。
……しょうがない、異世界的には見捨てたほうがいいんだろうけど、目の前で生きてるらしい人を放っておくなんてそんなこと出来ないし、助けるか。
頼むからいきなり襲ってこないでよ。
「だ、大丈夫、ですか?」
とりあえず、ちょっと離れたとこから声をかけてみた。
「お、おぉ……た……」
「おおた? え?」
え? なんて? よく聞き取れなかった。
今「おおた」って言った?
「ぉ、おなか、すぃ……た……」
パタリ。
「……えっ!?」
力尽きた!?
なになにお腹すいてんのこの子? 慌てて駆け寄って、そっと手を伸ばす……。
と、ガシッと腕を捕まれた!!
ひぃっ、演技だったの!?
お、追い剥ぎっ? だ、誰か、騙され……。
「食べ物の匂いがする~~!!」
そのまま勢いよく起き上がって、こっちに身を乗り出してきた!
ちょっ、近い近い!! なんなのこの子めっちゃ元気いいじゃん!?
腕を掴んだまま、ジーっと、目を見開いて食べ物の入った袋をガン見してる!
そんな見たら穴開くって! 怖いっってば、ちょっ、匂いかがないで~!!
「わ、分かったから! あげるからちょっと待って!!」
慌てて袋から取り出す。早くしないと腕ごと食べられそうな勢いなんですけど~!!
明日食べようと思っていた、さっきの昼食の残りを包んだやつ、それを丸ごと全部渡してあげた。
目一杯急いだけど待ちきれなかったのか、うわっ、すごいよだれ!
「はい、召し上がれ!」
許可した途端、 待てを解除された犬みたいに、口を大きく開けると一気に貪りついた!
一体いつから食べてなかったんだろ。すっごい勢い、マンガみたいな食べ方だな!?
喉詰まらせそうで見てて怖いから、魔法で水を作って、水袋に入れ、そっと渡してあげた。
「おいひいれす~!!」
頬っぺたを食べ物でパンパンに膨らませ、泣きそうになりながらも食べる速度は落ちない。
そうやって食べながらもまだ袋をガン味してくるので、デザートに食べようと思って採ってきておいた果物も追加してあげた。
で、すっからかんになったよね、私の食料!
全部食べつくされちゃった……人族怖い。こんな食べるもんなの?これじゃ食料なんていくらあっても足りないんじゃない?
よかった、宿にラビット袋置いてきてて。あの保存食まで狙われたらやばかった!
瞬く間に食べきってしまった後……ようやく名前を聞くことができた。
リーノちゃんっていうらしい。
「さっきはいっぱいの食べ物ありがとうございました!リノって呼んでください、村では皆にそうよばれてたので!」
「よろしくリノ。じゃあ、私もローザって呼んでね」
お互い自己紹介した上で、ちょっと聞きたいことがあった。
「村からってことは、一人で旅して来たの? あなたまだ成人してないんじゃない?」
胸は立派なものをお持ちだけど、他はいろいろとちみっちゃいし。
「よく言われるんですけどこれでも十五歳で、成人しました! 私、村では兄弟も多いしいつもお腹空いてて。成人したら冒険者になって、お腹いっぱい食べるって決めてたんです!」
ぎゅっと両手を握りしめ、きりっとした顔で力強く教えてくれた。
……顔中にいっぱいの食べかす付いてなければとっても決まってたと思うよ、うん。
この町にしたのは、行商人から領主様が町中にパンの木を植えて領民に無償で振る舞っているって聞いたからだそう。
「初めて聞いた時、夢のような町だと思いました。絶対そこで冒険者になるんだって!!」
で、ボトルゴードの町が目の前に見えてきて、感激して、その瞬間とてつもない空腹に襲われて倒れてしまったんだそう。
なんでだ、お姉さんにはよく分からない謎理由だよ。
ともかく目的地は同じだってことが分かったので、このまま町まで一緒に行くことにした。
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