第21話 新スキル獲得
衝撃の夕食後、私が借りた一人部屋へ向かう。
三階の階段近くにある部屋だった。二階は長期の宿泊客用なんだそう。
ベッドの他にサイドテーブルとクローゼットがある少しあるだけの、手狭まなワンルーム。
でも壁掛け時計もあり、鏡の前には簡単な洗面台に水差しとコップが木の桶に入れて置いてあって最低限のものは揃っている。
全体的に居心地良く清潔に整えられた部屋で、あまり日本と変わらない文化水準にほっとした。
違うところといえば時計や水差しなどが魔道具で、魔石を動力にして動いているということ。
このワンタッチでいくらでも水が出てくる水差しっていいなあ。魔石に魔法を付与しているみたいだけど、どうやってるんだろ? 不思議だ。
随分疲れたけど、今夜はまだまだやることがある。その為に安全な宿を取ったんだから、それは……。
……効率の良い、強化方法を探す。
ゴブリン集団との戦闘で痛感した。私は弱い。なんとか新たなスキルを取って少しでも強くなりたい。
この世界に来てから四日目だけど、未だに一つのスキルも取れず、既存のスキルもあれだけ毎日戦闘し魔物を倒しても一つもレベルアップしてないんだよね。
元々この世界の住民じゃない私が、白い部屋以外で新たにスキルが取れるのかということと、魔物を倒した経験値がどれだけスキルアップに反映されるのかということの検証を安全な所で一度試したかった。
経験値については今のところどう調べればいいか解らないから放置して、まずは……。
新スキルの検証からしてみようと思う。
『魔力操作』スキルならいけるんじゃないかなと考えたんだ。
スキル一覧表にもあって選ばなかったものだけど、実際ここ数日、ずっと魔法を使って色々している訳だし。
袋を作ったり保存食作りをしたりと、魔力を操作しないと出来ないんじゃないいかなと思う事、いっぱいしてると思うし?
あとあの結構高度な茸狩りとか果物狩りとかもしたわけだし……いや高度な茸狩りってなんだよ。魔法で果物狩り……うん、いや深く考えないでおこう、混乱するし今考えるのはそこじゃないから。
ま、まあともかく、一度挑戦してみますか。
ベッドの真ん中辺りに座って安全を確保した上で、念のため灯りも先に消しとこう。
何が起こるかわからなし、ぶっ倒れるかもしれないからね。
うわっ、結構暗いなこれ。
魔道具のランプが明るかったからか、カーテンを閉めきった室内で急に消した為か、余計に暗く感じる。
でも、少しずつ目が慣れてきた、ような?
……あれ?
なんか結構はっきり見えてきた、かも? てか速くないこれ!?
なんでこんなすぐ、暗闇を見通せるの?
……あ、そうか!
もしかして、これエルフの種族特性とかじゃないかな?暗闇に耐性があるっていう。
そういえば……こっちに来てからほぼ森の中で過ごしていたけど、割りと夜でも見えてた、ような……。
生き残るのに必死で思い至らなかったけど、『暗視』スキルなくとも、これもう暗視してたんじゃない?
なのになぜ、スキルとして取れてないのか……。
う~ん。
無意識、だったからとか?
……なんかあってる気がする。それ、正解なんじゃない!?
よしっ、おもっきし意識して「視てみよう」!
ジ――っ。
ジジ――――っ。
ジジジーーーーーーっ!!
来たきた、来ましたよ!
『暗視Lv1』取れましたよ、狙ってたやつじゃないのがこんなあっさりと、やったね!
と、いうことはですよ、奥さん!
意識して訓練すると魔物との戦闘に限らずスキル獲得出来るっていうことで!
経験値、みたいなのが訓練でも貯まるってことになりますよね!?
いや~、なんか一気に問題解決したね、悩んでた時間はなんだったんだっていう……。
じゃあ、『魔力操作』は、意識して魔法を操ることができれば割りとすぐ取れるんじゃないかってことになりますよね!
よしっ、早速やってみよう!
まず体の中にある魔力を感じ取って……。うんうんこれだねわかるよ。
それを血液のように循環させるイメージでくるくるとあちこち動かして……とか三十分ほど色々やっている内に……。
はい、『魔力操作Lv1』取れました――!
なんかこれもやけに簡単だったんじゃない?
でもなんとなく魔力なくなる寸前っぽいとこまでいったのか、疲労感がすごい~。
ベッドの上でやっててよかったよ。もう一歩も動きたくない。
でも頑張ったよ私!今までうんともすんとも言わなかったスキル表示に、初めて二つ、『暗視Lv1』と『魔力操作Lv1』が加わった。
目標、大幅に上回って達成です!
は~疲れたあ。
でも体は疲れてるけど、気持ちはすっきりしてるから心地よい疲れなんだけど、ね。
では、明日に備えてもう寝ますか、おやすみなさい!
◇ ◇ ◇
という訳で翌朝、気持ちも軽く妙に気合いの入ったまま、北の森に出発!
軽く流して走っていって、予定通り一時間程で到着した。
昨日はまったく気付かなかったけど、教えて貰ってから見ると遠くからでも目印となる巨木群がはっきり分かったので、ここまでは迷うことなく来れた。
今度は街道からそれて、森の中へと入っていく。
色々なスキルを平行して使うのも大分慣れてきた今日この頃。森に溶け込むようにと注意しながら、忍び足で慎重に進んでいく。
――来た。
さっそく『索敵』に魔物が引っ掛かった。
この感じはゴブリン? 反応は三つ。まっすぐこちらに向かって来る。
避けることも出来るけどせっかく今、敵の数が少ないのでここは狩ってしまおう。
近くの木に登りじっと身を潜める。
今回は、あれから威力精度の増した火魔法を、速度を意識しながら連続して使ってみる。
『火弾』!
よし! 一撃でいった!
命中率も上がってる気がする。一度も外さずに三体仕留めることができたし。
魔力が心なしかスムーズな気がするし、昨日取った『魔力操作』もいい仕事してくれたんじゃないかな!
さて、魔石を取った残りの死体だけれど、どうしようかなこれ。
今までは移動してたから始末せずほおっておいたけど、 このままにしとくと血の匂いに引き寄せられる魔物がいる、よね。
魔法で燃やしてもいいけどまだ来たばっかりだし何が起こるかわからないから魔力は温存しておきたい。限界値も分かんないし。
土掘って埋めるのも時間と体力を使うしなあ。
しょうがない、今回はアンデッド化しないように聖魔法で『浄化』だけ掛けてそのままにしておこう。
帰り路は迂回して行くことにしますか。
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