第20話 異世界の料理、とは……
お金がない!!
お、恐ろしい買い物怖い。本当の本当に小銭1枚さえなくなっちゃって、これじゃ明日の昼食も買えないよ!
また自力で現地調達の、原始生活に逆戻りだよ……。
今すぐ稼ぎに行きたいけど、初めての所だし下調べもせずいきなり行っても短時間で得られるものがあるかどうかと考えると……ダメだよねやっぱり。
よしっ、気を取り直して当初の予定通り、ギルドの資料室に行こう。
情報が増えれば『鑑定』スキルがレベルアップするかもしれないし、知識を蓄えるのは生き残る為にも重要だしね。
それから夕食の時間まで資料室にこもり、ひたすら読みまくって勉強した。
誰も居なかったから独占状態だったよ。この街で仕事するなら知っといた方がいい情報がいっぱいあったので本当に来てよかった。
昼間貰った小冊子と併せて検討した結果、明日は受付のエドさんお薦めの北の森に行くことにした。
この街に来るため通ってきた街道を途中までそのまま逆行するので他より知ってる道だし安心感があるし。
ちょっと遠いけど10kmちょっと行った所が巨木群のよい採取場所らしい。
往復だと約21km、ほぼハーフマラソンと変わんないじゃん!?
毎日マラソンして通勤するとかなにその罰ゲーム!
とか前ならぜっったいに、言ってたね!
でも、この三日間を考えてみると、余裕なんだよナーこれが。
無理しなくても片道一時間で行けるはず。
すごいじゃん私、オリンピック選手並だよ!
『俊足』スキルとかその他色々のスキルのお陰だって分かってますけどっ……でもすごいでしょ?
チート無いとか言っちゃってすみません。
私の元のスペック覚えてないけど、充分チートっぽい感じもあるかもしれないですこれ!
この世界の人と比べるとどうなのかは全く分からないところがちょっと怖いけど。
町の門が開くのは午前六時から午後六時までの間。
朝一で行けば上手くすると昼頃に帰って来れる距離だから、明日はそこで頑張ってみようと思う。
じゃあそろそろ帰ろっかな。
今日はしっかり食べて早めに寝よう。久しぶりにベッドで安眠出来るんだし。
宿の食事美味しいといいなあ。
◇ ◇ ◇
結論から言うと、女将さんの料理、めちゃくちゃ美味しかったです!
具沢山の肉入りスープとパンの実だけのシンプルなメニュー。
それが、はっきり言って今まで食べた中で一番のうまさだった!
食べたときには、ここに連泊出来るように頑張ろうって思えたぐらいで、久しぶりのまともな食事だったこともあって、じっくり味わう暇もなくあっという間に胃袋に消えていった。
ホロホロとろける大きなお肉はしっかり中まで味がついてて、噛めば噛むほど口いっぱいにジュワーっと旨味が広がる。
ゴロゴロと食べごたえのある大きさに切られた野菜も色鮮やかで美しく、目で見て楽しんで食べて満足して……。
何の調味料を使ってるのか、こってりとチーズクリームっぽい真っ白で濃厚なスープも、最後までしっかり飲み干した!
お腹いっぱいになってもう大満足です、おいしかった!!
これが『料理Lv3』の実力かって思ったね!
女将さん、『料理』スキル持ってるんだって。
料理人は一部の屋台を除き、だいたい皆持っているらしく別に珍しいスキルではないのだとか。
お店の看板にこの星マークがあればスキル持ちがいる証明になるんだと、三つ星マークを指して誇らしげに教えてくれた。
この、星マークの数とレベルの高さが同じ数らしく、この街で最高位の料理人は五つ星、レベル5の人なんだそう。
女将さん曰く、お高いけど天国が見れる味らしいので、頑張ってお金貯めていつか食べてみたいです!
いやはや、王道のメシマズ展開を危惧して『料理』スキル取ったけどあっという間に無駄スキルになってしまった……。
『解体』スキルとどっちにするかすごく迷ったんだよね、あの時。ちょっと残念!だけどおいしいものが毎日食べられるのはとっても幸せだからいいとしよう!
その料理上手な女将さんは夕食時に予約しておけば、宿泊客に昼食のお弁当を作ってくれるらしい。
今日のは、パンの実を茹でて潰してマッシュポテト風にしたやつを肉で巻いて、仕上げに葉っぱで包んだだけの簡単なものだったそうだけど、聞いてるだけで美味しそう。
お値段なんと銅貨2枚、とってもお安い! 200円ぐらいってことですよ!
けど、今の私には、ない……。そのちょっとも持ってないよ、無一文だよ……か、悲しい。
う、うううっ、明日こそは食べてやる!
さて、なんでこんな事をダラダラ喋っているかと言うとですね、あれなんですよ、とっても残念なお知らせがあるからなんですよ……。
先ほど大絶賛させて頂いた具だくさんの美味しいスープ。
あれ、メインの食材は、スモール・ワームという魔物だったんですよ……。
……昼間ギルドで聞いたでっかいイモムシの、たっぷり入ったスープ。
もう、た、食べっちゃった……おぇ。
嘘でしょ? 吐きそうなんですけど!
昆虫食とか本当勘弁して……いや厳密には魔物だから昆虫ではないかもだけどそういう問題じゃないよね!?
思わず口を押さえて涙ぐんでしまったのは許してほしい……。
「泣くほど懐かしかったのかい。故郷の味だもんね。そんなに泣いて。よし分かった。おばちゃんに任せときな! また作ってやるよ、何なら持ち込みしてくれてもいいから!」
これがエルフの郷土料理とか信じたくない~。エルフってこんなの食べてるの!? 一度、集落とか訪ねたかったけどもう行かない~。
「あんた冒険始めたばっかりなんだろ?だったらスモール・ワームの強制討伐依頼受けるときにさ、余分に採ってきてくれたら直接買い取ってまた作ってあげる!」
私が衝撃の真実を知って呆然としている間に、女将さんはなんかいい感じに勝手に勘違いしてくれていってる。いい人。
でも今はその勘違いがとっても辛いよおばちゃん……。
それから止める間もなくスモール・ワームの上手な素材の活かし方なんかを、内緒だよって言いながらこっそり教えてくれた。
熱を加えるとトロトロに溶けるらしくコクと旨味をひき出すには火加減が特に難しいらしい。つまりあのスープの正体って、と、溶け出したやつの肉体とか体液とか全部まるごとってわけで……おぇ。
生々しくてやっぱり泣きそうになった。
もういいよわかったよおばちゃん十分だよ、気持ちだけはとっても嬉しいよ……。
なんか訂正する気力もなくなって、もうひたすら曖昧に頷いておいた。
最後まで素材が何かは知らずにいたかったよ、切実に!
あんなに美味しかったのに、最高の一品だったのに、詐欺だ~!
いつもお読みいただきありがとうございます。




